【clum! '96 #06】再びの決意
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1996年、初夏の気配が漂い始めた放課後。
野瀬隆文が再び持ち込んだ、例の話題が波乱を呼ぶ。
「『初キスは付き合って3ヶ月目が平均。それ以上遅いと、相手に異性として意識されていない可能性も……!?』……でしたっけ。早坂も、折館先輩も、ちょうど3ヶ月超えたあたりですよね? おめでとうございます、タイムリミットですよ」

「……っ、そんなの、人それぞれだろ!」
顔を真っ赤にする一頼。
一方、迅はフンと鼻で笑いながらも、雑誌の「意識されていない可能性」という文字を頭の中で反芻していた。
部活後の駐輪場。
一頼は、心臓の音が立夏に聞こえるんじゃないかというほど緊張していた。
立夏の誕生日が近づいていることもあり、空気感は悪くないはず。
「……ねえ、一頼。さっきから黙ってるけど、どうかした?」

自転車を押しながら歩く立夏が、不思議そうに一頼を覗きこむ。
(今だ。3ヶ月……平均……よし!)
一頼は立ち止まり、ギュッと目を閉じて立夏の肩に手を置いた。

「立夏さん……あの、その、」
「……一頼?」
立夏の大きな瞳が間近に迫る。

一頼が意を決して顔を近づけた、その時。
「あーーーっ!! 立夏ちゃん、一頼! まだそんなとこにいたの!?」

背後から、稲城芳彦が、100点満点の笑顔といい声で駆け寄ってきた。
「ちょうどよかった、一緒に帰ろうぜ! 今日の『ロンバケ』の話、一頼としたかったんだよ!」
「……あ、うん。帰ろうか、稲城くん。一頼どうしたの?」
「……何でもない」
立夏はケロリとして歩き出し、一頼は、一人で膝から崩れ落ちた。
図書室の閉館準備。
迅は冷静だった。去年の11月、付き合う前に勢いでしてしまった「前科」がある。正式に恋人になった今、順序を守ってスマートに遂行すべきだと。
「迅くん、あの本、棚に戻すの手伝ってくれる?」
脚立に乗った玲が、高い位置の棚に手を伸ばす。背後から支える形になった迅は、玲のシャンプーの甘い香りと翻るスカートに理性を揺さぶられた。

(……平均、か。今なら樹もいない。邪魔者はいないはずだ)
玲が脚立から降りた瞬間、迅はその華奢な体を書棚との間に閉じ込めるように、腕をついた。

「……玲」
「迅くん……? 急に、どうしたの?」

玲の頬が赤く染まり、伏せられた睫毛が震える。迅が静かに顔を寄せ、唇が触れそうになった――その瞬間。
ガラッ!!

「玲! 帰るぞ! 閉門10分前だ。……迅、なぜそんなに玲と密着している。その距離感は科学的に見て……」
白衣をなびかせ、鬼の形相で現れた岡本樹。その背後には、ちゃっかりカメラを構えた野瀬の姿も。
「……ちっ、樹か」
「樹も迅くんも、顔が怖いよ……」
結局、迅の「スマートな遂行」は、シスコン兄貴の物理的な乱入によって阻まれたのであった。
「……全滅っすか。期待外れだなぁ」
美術室でキャンバスを背に野瀬が、ため息をつく。

「野瀬、お前……あの雑誌、絶対わざと持ってきただろ。折館先輩も俺もいい迷惑だよ」
「稲城が来たのは偶然だよ! 本当に!」
1996年、梅雨入り前の佐賀。
2組のカップルの「平均」への道は、お節介な友人や鉄壁の兄のおかげで、まだまだ遠そうだ。
【今回のおまけ】

野瀬「暗いところに押し込んだはずなのに、光り輝き過ぎですね。発光なのか、後光なのか」
稲城「眩しくて……目が潰れる……っ!」
野瀬「まぁ、キスを迫る男には、彼女らがこう見えてるってことで」
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