【clum! '96 #11】5月6日特別な放課後
1996年5月6日。ゴールデンウィークの最終日であり、佐野立夏の15歳の誕生日。
あの「靴隠し事件」のどこか割り切れない余韻を吹き飛ばすように、一頼は気合を入れて準備をしていた。
一頼は、部活練習後の体育館出口で立夏を待っていた。

手には、水色の紙袋。
昨年、玲に相談して贈った「ピンクのリストバンド」から始まり、スウォッチ、ネックレス……。
少しずつ「恋人」としてのステップを上がってきた実感が、一頼の胸を熱くさせる。
「待たせちゃった? 一頼!」
ポニーテールを弾ませて、立夏が体育館から出てきた。
「ううん、僕も今出てきたところ。……立夏、誕生日おめでとう」
「ありがと! いやー、15歳かぁ。なんか、一気に大人になった気分!」
アハハと笑う立夏に、一頼は少し照れながらプレゼントを差し出した。
「これ……今年は、玲先輩に相談しないで、僕が自分で選んでみたんだ。立夏に似合うと思って」
中身は、当時の女子中学生の間で大人気だった「エンジェルブルー」のキャラクターが刺繍された、厚手のスポーツタオルと、お揃いのヘアバンドだった。
「あ! エンジェルブルーじゃん! しかもこれ、私が欲しかったやつ! なんでわかったの?」

「……こっそり、雑誌とか見て研究したんだ。立夏、都会的なもの好きでしょ?」
立夏は一瞬、驚いたように目を丸くしたが、すぐに満面の笑みでタオルを首にかけた。
「最高! これ、明日の練習から速攻で使うわ!」
二人がいい雰囲気になったところで、校門の方から賑やかな声が近づいてきた。
「おーい! 主役、見ーつけた!」
稲城が、いい声で呼びかける。その後ろには、玲と、不機嫌そうな樹、そしてカメラを構えた野瀬、さらに迅の姿もありました。

「玲ちゃん! みんなも!」
「立夏ちゃん、おめでとう。これ、調理部で作ったバースデーケーキよ」
玲が差し出したのは、いちごがたっぷり乗った手作りケーキの入った箱。
「佐野くんの誕生日に、なぜ僕まで駆り出されなければならないのか……。玲、科学的に見て、このケーキの糖分は……」
「お兄ちゃん、今日はお祝いなんだから黙ってて」
樹の小言を玲がぴしゃりと制すと、迅が静かに一歩前に出た。
「立夏。……15か。早坂をあんまり振り回すなよ」
「ちょっと、折館くん! 私が振り回してるみたいに言わないでよ!」
「はい、そこ! 最高の構図! 迅先輩はもう少し右! 立夏先輩は一頼の隣で笑って!」
野瀬がシャッターを切る。
1996年、使い捨てカメラの巻上げ音が、夕暮れの校舎に響いた。
賑やかなパーティーが一段落し、帰り道。一頼と立夏は、田んぼの畦道を二人で歩いていた。

遠くでカエルの鳴き声が響き、街灯がぽつりぽつりと灯り始める。
「……ねえ、一頼」
「ん?」
「あの事件のときさ、私、一頼が一緒に犯人探してくれて、すごく心強かったんだ」
立夏は、一頼からもらったタオルをぎゅっと握りしめた。
「犯人は見つからなかったけど……。でも、一頼が私の隣にいてくれるなら、私、どんなことがあっても笑っていられる気がする」
「……立夏。僕、もっと強くなるよ。バスケも、心も。立夏を支えられるくらいに」
一頼が立夏の目を見て、真っ直ぐに言った。
昨年の「ボールが顔面に当たった出逢い」から一年。
二人の距離は、少しずつ、でも確実に、あのお節介な雑誌の「平均」なんて関係ない、二人だけの特別な速さで縮まっていた。
【今回のおまけ】
野瀬「おっと、いつもと雰囲気違うおまけじゃん?」

稲城「『CHAT GPT』がかなり進化したということで、プロンプトと設定画像だけでマンガを作れるか試してみたんだそうです」
野瀬「漫画に……なってるねぇ……」
稲城「なってるねぇ……」
野瀬「まぁ、今すぐ何がどうこうというわけじゃ無いけど、そりゃ作れたら楽しいよな」
次の話へ →
↓ マガジンはこちら ↓
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。