【clum! '95 #64】湯船の中のナイショ話

1996年、3月下旬。春休み。
佐賀の静かな夜。岡本家の玲の部屋では、初めての「女子お泊まり会」が開催されていた。
いつもは迅や樹《たちき》、一頼たち男子が周りにいるが、今夜だけは二人きり。
お風呂の湿った空気と、シャンプーの香りが漂う中で、少女たちの秘密の時間が始まる。
お湯の温かさに、少しだけ心のガードが緩む。
佐野立夏と岡本玲は、隣り合って身体を洗い、湯船に浸かりながら、普段は絶対に口にしない「女の子としての体つき」について、気恥ずかしくも興味津々に語り合った。

「……玲ちゃん、やっぱり少し大きくなった? 羨ましいなぁ、その柔らかそうな感じ」
立夏が少し眩しそうに玲の胸元を見て呟いた。
立夏はバスケ部で鍛えていることもあり、体つきは引き締まっていて「普通」のサイズ。
対して玲は、この一年で少しずつ女性らしい丸みを帯び、立夏よりも一回り豊かな膨らみを持っていた。
「そんなことないよ、立夏ちゃんこそ! 見てよ、その足……すごく真っ直ぐで綺麗。私なんて、運動してないからプニプニだし……」
玲は、立夏の筋肉質な、それでいてモデルのようにすらりと伸びた足を見て溜息をついた。
「一頼は『立夏さんはそのままでいい』なんて言うんだよ。あいつ、私のこと神格化しすぎじゃない?」
「それは一頼くんが、立夏ちゃんの『カッコよさ』も含めて好きだからだよ。……迅くんなんて、私の胸を見るとき、たまに凄く気まずそうな顔して目を逸らすんだから」
玲の部屋に、二つの布団を並べて、お茶とお菓子でくつろぐと、二人のおしゃべりはさらに加熱した。

話題は当然、周りの男子たちのことに。
「ねえ、早坂くんの背、本当に伸びたよね。もうすぐ立夏ちゃんに追いつきそう」
「そうなの。……でもね、『追いつけない年齢差』にしょんぼりしてたよ。可愛いよね。でも、たまに見せる『男の子』の顔に、最近ちょっとドキッとしちゃうんだ」
立夏が照れ臭そうに抱いた枕に顔を埋める。
一方で玲は、迅との関係について少しだけ真剣なトーンで話し始めた。
「迅くんは……最近、凄く優しくなった気がする。一年前のあの、刺々しかった頃が嘘みたい。……でも、樹お兄ちゃんが常に目を光らせてるから、二人きりになるとお兄ちゃんの視線を感じて笑っちゃうの」
話題は、自分たちを取り巻く他の男子たちへも広がる。
「芳彦はさ、あいつ、最近色んな女の子に話しかけてるけど、結局最後はあたしたちのところに来るよね」
「野瀬くんは、カメラばっかり構えてるけど、実は一番わたしたちの変化に気づいてる気がするな」
「樹は何気に高等部のお姉様方の間でウワサになってるらしいよ。冷たい美貌の天才少年がいるって」
「お兄ちゃんがモテてるとこ、想像できないな。そういえば、お兄ちゃんは……もう、わたし達のこと、半分呆れながらも認めてくれてるみたい」
「学校のみんな、私と一頼のこと『猛獣と仔犬』なんて言ってるし、迅と玲ちゃんと樹のことは『騎士と姫君と魔王』なんて呼んでるらしいけど、本当はただの不器用な人間の集まりだよね」
と、笑い合う二人。

ふと、ラジカセから微かに流れてきたのは、発売されたばかりのスピッツの曲。
立夏と玲は、そのメロディに耳を傾けながら、ゆっくりと眠りの淵へ沈んでいった。
「『チェリー』、いい曲だね……。……ねえ、玲ちゃん。……高校生になっても、こうしてまたお泊まりしようね」
「……うん。……おやすみ、立夏ちゃん」
1995年の嵐を共に乗り越え、戦友のような、そして本当の姉妹のような絆を深めた二人の夜。
自分たちの身体の変化に戸惑い、恋に悩みながらも、彼女たちはこの一瞬しかない「14歳の春」を、大切に噛み締めていた。


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