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【clum! '95 #65】満開の桜の下、迅

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「桜が散っちゃう前に、神野こうの公園でお花見デートしよう?」

れいの思いつきの一言で、デートの日取りが決まることが増えてきた気がする。

クリスマス前から付き合い始めて、そろそろ3ヶ月が経つ。

玲にすっかり餌付けされている俺は、花見の弁当のおかずは何だろうと気楽なことを考えながら着替えと身支度を済ませていた。

「出掛けるのか」

「……父さん、帰ってたのか。おかえり」

久しぶりに聞く父親の声に、軽く驚いて目を向けると、以前より白さを増した金の髪が目に入る。いずれああなるのだろうかと、自分の髪をかき上げる。

「……ただいま。さっき帰ってきたところだ。今から寝る」

シャワーを浴びるらしく、服を脱ぎ始めた父親とすれ違うと、身長が同じくらいになったことに気付く。

珍しく、目が合う。

じん。また背が伸びたな。あと……」

何か小言でも言われるんじゃないかと身構えていると、父の口から溢れたのは意外な言葉だった。

「雰囲気、変わったな」

「……?」

意味がわからず反応し損ねた。

そういえば、この前泊まっていった野瀬のせが似たようなことを言っていた。

「一年前はまさかこうして泊まらせてもらうような関係になるとは思ってなかったなー。どっちかってーと、怖い先輩だと思ってたし」

「それはお前がサボってたからだろ」

「だーかーら、サボってませんって。美術部の活動でそう見えるだけで」

野瀬は珍しく、少し照れながら言葉を続けた。

「まぁ、何て言うか、案外話しやすい人だったんだなーとか、雰囲気とかやわらかくなったなーとか、そーゆー話っすよ」

目の前の父が、俺から目を逸らして話を続ける。

「少し前までは、『おかえり』なんて殊勝なこと言わなかっただろ。思春期だか何だか知らんが」

そうだった。さっきのは……たぶん。理由なんてもうはっきりしてる。

玲のおかげだ。

「いつも待たせちゃってごめんね」
「荷物持ってくれてありがとう」
「うん、大丈夫だよ」
「桜、すごいね、きれいだね」

玲が俺にくれる言葉は、どれもやわらかくて優しい。

優しい言葉をたくさん注がれて、当たり前のように吸い込んで。

もしかしたら俺から出る言葉も、少しずつ優しくなっているのかもしれない。

「弁当、作ってくれてありがとう」
「重いだろ。持つよ」
「そこ、段差気をつけて」
「これだけ咲いてるとすごいな」

玲は、なんていうか、全部がやわらかくて優しくて甘い。

クリスマスにあげた雪の結晶の栞だとか、この前の誕生日にあげた月のペンダントだとか、今見てるこの桜だとか、そんなのと同じで。

「あ、これ、無くしたくないから、デートのときにだけつけようと思ってるの」

三日月のペンダント。玲の桜色のニットによく似合っていて、鎖骨の上の白い肌に小さく乗っていて、

さわりたくなる。

その下のやわらかそうなふくらみにもつい目が行って、

想像してしまう。

慌てて目を逸らすと、玲がそっと俺の腕をつかんできて、

ふれる。

こんなに、こんなにたくさんもらってるのに。

もっと欲しくなって、さわりたくなって、食い尽くしてしまいたくなる。

その本能に身を委ねた結果が、11月の例のアレだ。もうニ度と繰り返さない。傷付けない。そう誓ったのに。

「触るな」
「静かにしろ」
「することは終わってるのか」
「しばらく留守にする」
「俺に話してどうする」

父親は、父は、いつもそんな言葉を浴びせてくる人だった。

「母さんが生きていれば」
「俺は守れなかった」
「大事な人ひとり守れない」
「写真なんか飾っても辛いだけだ」
「お前も早く忘れろ」

やめてよ。父さん。そんな言葉、自分にも向けないでよ。俺はまだここにいるのに。俺を見て欲しいのに。

今思えば、そんな言葉を浴びて育った自分が優しいまともな人間になれるはずもなく。刺々しい言葉は、いつしか自分の口からも溢れていた。

それでも「目つきと口が悪いのだけが欠点よね」とため息をつきながらも隣にいてくれた立夏りっかや、「迅ちゃんかっけー!」と無邪気に慕ってくれた稲城いなぎには感謝してもし足りない。

「迅くん、今日は会う前からすこしご機嫌だったね」

見透かされたような玲の言葉につい無防備に、正直に話してしまう。

「……あー……父親が久しぶりに帰ってきてて、割とフツーに話せたから、かな」

「迅くんのお父さん……お会いしてみたいな。迅くんのお家にもお邪魔してみたい。たちきは行ったことあるんだよね? いいなぁ」

「まぁ、この前みんなで泊まったからな」

「わたしも立夏ちゃんとお泊まり会したよ!」

「それ、する前から何度も聞いたって」

「だって嬉しかったんだもん」

こんな日々がずっと続けばいいのにと、最近よく思う。壊さないように、崩さないように。彼女に伸ばしたい手を少し我慢して、自分の髪をかき上げた。

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