【clum! '96 #29】キャプテンの懸念
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中体連を間近に控えた碧翔学園の体育館は、茹だるような熱気と、バッシュが床を擦るスキール音に満ちていた。
男子バスケ部キャプテンのコガケン(古賀賢治)は、コートの端でタオルで汗を拭いながら、ハーフコートゲームで無双している自チームのエース、折館迅の姿を半ば呆れたように見つめていた。
「……おいおい、今日の折館、キレッキレだな。ディフェンス2人引きずってダンクかよ」

ドンッ! という地鳴りのような着地音とともに、迅がリングから手を離す。
その碧い瞳には、一切の迷いも疲労もない。むしろ、内に秘めた得体の知れない熱量を、強引にバスケットボールにぶつけて発散しているような、凶暴なまでのエネルギーに満ち溢れていた。
「……古賀キャプテン。迅先輩、なんか今日、オーラが違いますね。近づいただけで火傷しそうです」
隣で息を整えていた一頼が、少し引いたような声で呟く。
「ああ。お前が一人で勝手に背負い込んでカチコチになってるのとは真逆だな。あいつは今、完全に『燃料満タン』状態だ」

コガケンはニヤリと笑った。陽の強者である彼には、エースの「異常な絶好調」の原因が手に取るように分かっていたのだ。
ゲームの合間の休憩時間。
迅がベンチに戻ってくると、コガケンはスポーツドリンクを差し出しながら、わざとらしく鼻をクンクンと鳴らした。

「……おい折館。お前、汗の匂いに混じって、なんかシャンプーか石鹸みたいな……すげえ甘い匂いがするぞ。お前がそんなファンシーなモン使うわけねえし、まさかとは思うが」
迅はドリンクを受け取りながら、ピタリと動きを止めた。
そして、顔色一つ変えずに、しかしその耳の裏を微かに赤く染めて、コガケンを鋭く睨みつける。
「……気のせいだ。それに、俺のプライベートは今日の練習メニューには関係ないはずだが」
「関係大アリだろ。お前、さっきからゴール下で無双してる時、完全に『早く終わらせてえ』って顔してんじゃねえか。……調理部の彼女さんとの『いろいろ』が、相当いいカンジの起爆剤になってるみたいだな?」
図星を突かれた迅は、反論する代わりに、無言でキュッとドリンクのボトルを握りつぶしそうなほど力を込めた。
実は最近、玲とのこっそりとした「休憩時間」――触れ合う熱や、彼女から向けられる純粋な愛情――が、迅の中の独占欲とアドレナリンを常時限界突破させていたのだ。

彼がバスケで暴れ回っているのは、そうでもしないと、今すぐにでも玲のいる調理室へ乱入してしまいそうになる自分を抑え込むための「ガス抜き」でもあった。
「……ふふん。まあいいさ。お前がその調子で中体連でも暴れてくれるなら、俺としては万々歳だ。ただ、あんまり気合入りすぎて、相手チームの選手を物理的に破壊すんなよ?」
コガケンが豪快に笑って背中を叩くと、迅は小さく息を吐き、真剣な表情でコートを見つめ直した。

「……壊しはしない。ただ、負けるわけにはいかない」
その声は静かだったが、そこには一頼のような「迷い」は微塵もなかった。
コガケンは、迅のその凄まじい執念(あるいは愛という名の執着)を前に、「……ったく、どいつもこいつも重てえ青春してやがる」と口の端を歪めて笑うしかなかった。
1996年、夏。
迷いの中でプレースタイルを崩していく後輩・一頼と、恋人からの圧倒的な愛情を燃料にして完成の域へと達していくエース・迅。
同じ「誰かを守るための強さ」を求めた二人は、違う場所で、それぞれの課題と向き合っていた。
【今回のおまけ】

野瀬「やっと我らがキャプテンがまともに出てる感じになってきたな〜。ちなみにこの絵はほぼ間違い探しでーす」
稲城「俺、迅ちゃんがキャプテンもしてるのかと思ってたよ」
野瀬「いやいやいや、あの人がそんなの、するわけないない」
稲城「そういえば聞いたことあるね。立夏ちゃんと一緒にバスケ部を作った人だよね。で、迅ちゃんは立夏ちゃんに誘われて入ったっていう」
野瀬「そうらしいね。ま、俺達の入学前の話だからね〜」
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