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【clum! '96 #30】バスケ部創設者たち

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中体連地区大会が目前に迫る、蒸し暑い夕暮れ時。

碧翔学園の体育館裏では、ヒグラシの鳴き声と、遠くで響く吹奏楽部の練習の音が混ざり合っていた。

自販機で買った冷たいスポーツドリンクを片手に、並んで座っている二人の3年生。

女子バスケ部キャプテンの佐野さの立夏りっかと、男子バスケ部キャプテンの古賀こが賢治けんじ(通称 コガケン)。

彼らは、1年生の時に共に部員を集め、顧問に掛け合ってこの碧翔学園にバスケットボール部を創設した「同志」だった。

「……早坂のやつ、最近ちょっと急ぎすぎだ。あいつ、自分の持ち味のパスセンスを殺してまで、ゴール下で当たり負けしない身体を作ろうとしてる」

コガケンが、スポーツドリンクの缶を持ったまま、ポツリとこぼした。

立夏は遠くの空を見つめて、小さくため息をつく。

「……気づいてた? さすがコガケンね。私も、あいつのプレースタイルが変わってきてるの、気になってた」

「気づくさ。俺とお前で作ったチームだぜ。……佐野、あいつ、お前のために『壁』になろうとしてるんじゃないか?」

コガケンの直球な問いに、立夏は言葉を詰まらせた。

「一頼は……優しいから。あたしが昔のことで息苦しくなってるの、この前見せちゃったし、自分が守らなきゃって思ってくれてるんだと思う」

「だとしても、あれは良くねえ。早坂は生来の『壁』じゃねえよ。無理に鎧を着込めば、あいつ自身の足が止まっちまう」


「……その原因の一端は、俺にあるかもしれない」

不意に、体育館の角から静かな声が響きました。

近付いてきたのは、金髪の長身――折館おりたちじんでした。玲の部活が終わるのを待つ間、立夏の様子を見に来たのです。

「……折館」

コガケンが目を向ける。二人は同じ中学の同学年として、互いの強さを無言で認め合う関係だ。

「迅……あんた、一頼に何か言ったの?」

立夏が驚いて立ち上がると、迅は静かに首を横に振った。

「脅したわけじゃない。ただ、この前お前がパニックになったとき、俺がなぜお前の側にいるのか……お前が抱えているものの『重さ』について、あいつに俺の口から少しだけ伝えた。……お前の隣を、あいつに託すために」

迅の言葉遣いは、その威圧的な見た目に反して、とても静かで理性的でした。

自分がいつまでも立夏の「彼氏」のポジションにいることはできない。だからこそ、一頼に事実を伝え、覚悟を問うたのです。


その事実を聞いて、コガケンは頭をガシガシと掻きむしり、大きなため息をついた。

「……お前ら、幼馴染だか何だか知らねえけど、そういうとこ重すぎんだよ! 呪いかよ!」

コガケンの怒声に近い声に、迅がわずかに眉をひそめる。

「呪いじゃない。事実だ。早坂が立夏と歩くなら、あいつは俺の代わりに――」

「だから、それが違うっつってんだよ!」

コガケンは立ち上がり、迅を真っ直ぐに指差した。

「折館、お前は生まれつきの『城壁』だ。佐野を守るために自分をガチガチに固めても平気な、特別製なんだよ。……でもな、早坂は違う。あいつはパスを回して、周りを見て、誰かと一緒に走ることで輝く奴だ。お前の代わりになんて、なれるわけねえだろ!」

迅は、碧い瞳をわずかに見開いた。

「佐野、お前もだ」

コガケンは立夏に向き直る。

「お前、早坂に『折館の代わり』になってほしいのか? 自分の暗いところを全部一人で被ってくれる、傷だらけの壁になってほしいのかよ」

「っ……そんなわけない! 私は、一頼にはただ……笑っててほしいのに……!」

立夏は、自分の声が震えていることに気づいた。

「……早坂のやつ、折館からお前の過去を聞いて、完全に『自分が折館先輩を超えなきゃ』って思い込んじまったんだな。だからあんな、自分を殺すようなバスケをしてる」

コガケンは静かにそう結論づけた。

迅もまた、自分が良かれと思って一頼に「覚悟」を渡したことが、結果的に一頼という少年を「立夏の壁になるという呪縛」に縛り付けてしまったことに気づき、沈痛な面持ちで目を伏せた。

「……どうすればいいの。私が、あいつを苦しめてる……」

立夏が顔を覆うと、迅が痛ましそうに一歩近づこうとした。

「待てよ、折館。お前が今、佐野を慰めたら、余計に早坂は自分が情けなくなるぜ」

コガケンが手で制する。

「佐野。これはお前と早坂の、二人の問題だ。あいつがお前のためにぶっ壊れる前に、お前がちゃんと、あいつのプレースタイル……『居場所』を決めてやらなきゃダメだぞ。キャプテンだろ、お前」

1996年、夏。

コガケンという「陽」の視点が入ったことで、立夏と迅は初めて、自分たちが共有している暗闇が、一頼という純粋な光をいかに歪めようとしているかを自覚した。



【今回のおまけ】

野瀬「今回も間違い探しの域です。うちのバスケ部のスリートップです」

稲城「新設校だから、このメンバーを中心に人を集めてバスケ部を作ったんだな。放送部もうちの先輩方が頑張ったのだと聞いた」

野瀬「一頼が真面目過ぎるのがなー。折館先輩になんか、誰もなれるわけないのに」

稲城「……強くなりたいって、ずっと言ってるもんな……」

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