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【clum! '96 #34】夕暮れ

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1996年、夏の夜。

中体連初日を突破した碧翔学園の面々は、興奮冷めやらぬまま、それぞれの帰路についていた。

(……ご褒美って、何。立夏りっかさん、ご褒美って……!)

自転車を漕ぐ一頼かずよりの頭の中は、立夏のあの囁きで埋め尽くされていた。

いつもは「程よい距離感」を保ち、一頼が踏み込みすぎないよう、あるいは自分が怖くないよう、見えない境界線を引いていた立夏。そして、ついこの前、一頼に意図せず壁に追い詰められたことで過去がフラッシュバックし、パニックに陥っていた立夏。

そんな彼女が自ら提示した「ご褒美」という言葉。

折館おりたち先輩は上書きしたって言ってたし、れい先輩は「いろんなこと」って言ってたし……。立夏さんの言うご褒美って、やっぱり、その……! いや、でももう怖がらせるわけには!)

坂道を立ち漕ぎで駆け上がりながら、一頼は煩悩を振り切ろうと必死だった。

しかし、脳裏に浮かぶのは、汗で張り付いた立夏のポニーテールや、勝利の瞬間に見せた弾けるような笑顔ばかり。

「……落ち着け、僕! 明日も試合なんだ。明日を何とかしなきゃ、ご褒美も何もないんだ……!」

一頼の1996年の夏は、かつてないほど「邪念」との戦いになっていた。


一方、岡本家。

玲が自分の部屋で部屋着に着替えてくつろごうとしていると、ドアもノックせずにたちきが姿を現した。

「……玲。今日の試合、じんとの接触時間は合計で4分12秒だった。心拍数の上昇、および頬の紅潮から見て、君の交感神経は過剰に刺激されている。今夜はハーブティーを飲んで早めに就寝しろ」

「もう、お兄ちゃん! 迅くんが頑張ってたんだから、ドキドキするのは当たり前じゃない。ていうか、勝手に入ってこないで!着替え中!」

玲がぷうっと頬を膨らませると、樹は眼鏡を指で押し上げ、不機嫌そうに窓の外を見た。

「……迅のやつ、試合中の目つきが異常だった。あれは勝利への執着というより、何か別の……『不純な動機』に基づいたドーピング的集中力だ。玲、あいつに何を吹き込んだ?」

「えっ……? 何も言ってないよ。『いろんなことしようね』って約束しただけ……」

「……っ!!」

樹は持っていたスコアブックを落としそうになった。

「……いろんなこと。……玲、お前というやつは、自分がどれほど無防備な核兵器を振り回しているか自覚しろ。明日、迅が暴走して退場処分にでもなったら、僕の計算が狂うじゃないか」

樹は「やれやれ」と頭を抱えながらも、妹の幸せそうな顔を見て、それ以上の追及を諦めた。


その頃、折館おりたち家では。

迅は暗い自室で、仰向けになって天井を見つめていました。

(……いろんなこと。……いろんなこと……)

玲のあの笑顔が、網膜に焼き付いて離れない。

「上書き」したはずのキスの感触が、今度はもっと強い欲求となって彼を突き動かす。

「……いや、明日は県大会常連の強豪との対決だ。玲とのことは、勝ってからだ。……勝って、それから……」

迅はムクリと起き上がり、自室の隅で腕立て伏せを始めた。溢れ出す「熱」を物理的なエネルギーとして消費しなければ、明日のティップオフまで理性がもたないと判断したのだ。


1996年、夏の朝。
碧翔学園の校門前には、再び6人が集まりました。

「みんな、顔色が悪いわよ? 寝不足?」

立夏が不思議そうに首を傾げます。

「……まあ、色々とな」

迅がクマの浮いた目で答え、一頼は立夏と目が合った瞬間に「ヒッ」と短い悲鳴を上げて視線を逸らした。

「なによ一頼、変な子ね」

立夏はクスクス笑いながら、一頼の背中をバンと叩いた。

「さあ、行くわよ! 今日勝てば、県大会が見えてくるんだから!」

夏の熱い地面を蹴って、彼らは再び戦いの舞台へ。

「ご褒美」と「いろんなこと」を懸けた、彼らの人生で最も必死な第2戦が始まろうとしている。



【今回のおまけ】

野瀬「いいなー、みんなそれぞれいいこと待ってて」

稲城「じゃあ俺たちもご褒美だ!」

なんか最後のコマ、ハート出た(笑)

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