【clum! '96 #35】一頼の本気
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1996年、中体連2日目。
佐賀県立体育館の室温は、朝から30度を超えていた。
女子バスケ部の第2戦。相手は県内屈指の長身センターを擁する、優勝候補の一角だった。
「……大きいわね」
コートサイドで、玲が心配そうに呟いた。
相手チームのセンターは立夏より20cm近く高く、ゴール下はまさに「難攻不落の城」のよう。

立夏のドライブも、その長い腕にことごとく跳ね返される。
「立夏さん、落ち着いて! 相手の足元を突いて!」
ベンチのすぐ後ろ、観客席の最前列で一頼が身を乗り出して叫ぶ。
しかし、第3クォーター終了時点で点差は12点。立夏の顔には疲労の色が濃く、ユニフォームは汗で重く張り付いていた。
「……っ、もう、どうすればいいのよ……!」
タイムアウト中、ベンチに座り込んだ立夏が、珍しく弱気な声を漏らした。
エースとして、女子キャプテンとして。自分が止められればチームが終わる。その重圧が、彼女の足を重くさせていた。
その時、体育館の喧騒を突き抜けて、聞き慣れた声が届いた。
「立夏さーーーーーん!! 負けるなーーー!!」
一頼だ。周囲の観客が驚いて振り向くほどの、喉が潰れんばかりの大声。
「立夏さんは、誰よりも走ってきたじゃないか! 僕が一番知ってる! そのポニーテール、まだ全然揺れてないよ! 最後まで、カッコいい立夏さんを見せてよ!!」
立夏はハッとして顔を上げた。
観客席で顔を真っ赤にし、拳を振り上げている一頼。その隣では、迅が腕組みをして静かに頷いている。

ベンチ付近では玲が両手を祈るように合わせている。
(……一頼。あんた、本当にかっこ悪いほど一生懸命なんだから)
立夏の口元に、不敵な笑みが戻りました。
「……玲ちゃん。ポニーテール、結び直して。一番きつく」
「ええ……! 任せて、立夏ちゃん」

玲が震える手で、立夏の長い髪をグッと高い位置で結い直した。それは、戦場へ向かう戦士の儀式のようだった。
「行くわよ、みんな! ゴール下がダメなら、外から走って走って走り倒すわよ!」
再開された第4クォーター。立夏の動きは一変した。
長身センターの周囲を、まるで竜巻のように駆け抜ける。一頼の応援に応えるように、彼女のポニーテールが激しく、力強く跳ねた。

一頼が教えてくれた「自分の強み」。
真正面からぶつかるのではなく、相手を翻弄するスピードとスタミナ。立夏はわざとセンターを外に釣り出し、空いたスペースに走り込む部員たちへ、魔法のようなパスを供給し続けた。
「いっけえええ!!」

一頼の絶叫と共に、立夏が自ら放った3ポイントシュートが、吸い込まれるようにゴールへ。
試合終了のブザー。
大逆転。碧翔学園女子バスケ部、ベスト4進出。
コートに大の字になった立夏は、天井のライトを見つめながら、荒い息をついた。

(……勝った。……勝っちゃったよ、一頼)
観客席では、一頼が腰を抜かしたように座り込み、男泣きしていた。
立夏は玲に支えられて立ち上がると、観客席の一頼に向かって、人差し指を一本立てて「1(あと1回)」と合図を送った。
それは、「明日、男子も勝ったら……本当に『ご褒美』なんだからね」という、彼女なりの照れ隠しの宣戦布告だった。
【今回のおまけ】
野瀬「中体連編。毎日がクライマックス!です!!」
稲城「俺も自分の空手の試合があるから、全部は応援に行けないのが悔やまれる!」
野瀬「今日も面白いNGは無いんだけど、まぁ、体育館がコロコロ変わってるのは勘弁です」
稲城「同じ場所で毎回生成できたらいいけど不安定だよね」

野瀬「美しいワンシーンで行きます!」
稲城「立夏ちゃんが髪を解く瞬間だ!」
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