【clum! '96 #36】迅の覚醒
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1996年、7月。中体連の地区大会。準決勝。
蒸し返るような熱気の体育館で、碧翔学園男子バスケットボール部は、ラフプレーで名高い強豪校とのタフな試合を迎えていた。
「いいか、相手はアタリが強いが、絶対に熱くなるな。ファウルに付き合わず、自分たちのバスケを貫くように」

ベンチの前で、顧問の牟田先生が檄を飛ばす。
「先生の言う通りだ。インサイドは俺と江頭で死守する。お前らは外からガンガン走れ!」
センターサークルに向かいながら、キャプテンのコガケンが力強く拳を突き合わせた。
スタメン5人――コガケン、江頭、野瀬、一頼、そしてエースの迅がコートに散る。
ピーッ! という笛と共に試合が開始。
しかし、序盤から相手の露骨な肘打ちや、審判の死角を突くチャージングに、碧翔はリズムを崩しかけていた。
「ぐっ……!」
リバウンド争いで江頭が突き飛ばされ、床に倒れ込む。
「江頭先輩! 大丈夫ですか!?」
一頼が駆け寄ると、江頭は「平気だ、ファウルをもらいにきただけだ」と汗を拭って立ち上がったが、相手の執拗な「潰し」の標的は、碧翔の絶対的エースである迅へと向かっていった。
第2クォーター、タイムアウト。
ベンチに戻ってきた選手たちに、タオルとドリンクを素早く渡したのは、白衣姿のままベンチ入りしている「特別マネージャー」の岡本樹だった。
「……牟田先生、発言の許可を」
「おう、樹。お前の分析を言ってみろ」
樹はバインダーに挟んだ自作のコート図を広げ、眼鏡を指で押し上げた。

「相手のディフェンスは、迅に対して過剰なヘルプを敷いています。しかし、右サイドのカバーに入る選手の反応速度は、平均して0.8秒遅い。……早坂くん、野瀬くん。君たちがボールを保持し、江頭くんのスクリーンを利用して右45度に侵入すれば、相手の陣形は論理的に崩壊します」
「なるほど、確率の問題っすね! 構図が見えました!」
野瀬が目を輝かせる。
「早坂、野瀬、樹の言う通りだ。俺と江頭で壁を作る。お前らが切り崩して、折館に最高のパスを出せ!」
コガケンの力強い言葉に、一頼は深く頷いた。
試合再開。
一頼は、ドリブルをつきながらコート全体を冷静に見渡していました。
(……僕は、迅先輩みたいな「壁」にはなれない。でも、古賀キャプテンが教えてくれた。僕には、僕にしか出せないパスがある!)
一頼の視線と野瀬の動きが交錯する。
野瀬が囮となって相手を引きつけ、江頭が泥臭く、しかし完璧なタイミングでスクリーンを掛けた。
相手のディフェンスに、樹の計算通り「0.8秒の遅れ」が生じた瞬間。
一頼の腕から、針の穴を通すような鋭く美しいパスが放たれた。

ボールの行き先は、ゴール下で相手の巨漢二人にマークされていた迅の手元。
「……良いパスだ、早坂」
パスを受けた迅は、応援席で心配そうに見つめる玲の姿を視界の端に捉えた。
自分のせいで、玲に不安な顔をさせるわけにはいかない。
その瞬間、迅の碧い瞳から一切の感情が消え、底知れない冷たさと圧倒的な集中力を纏った「覚醒」状態へと入った。

相手ディフェンスが迅を力ずくで止めようと跳びかかる。
しかし、迅は怒ることも、力でねじ伏せることもなかった。
「……そこは、俺のコースだ」
言葉数は少なく、極めて静かな声。
迅は空中で相手のブロックを芸術的なボディコントロールで躱し、ダブルクラッチからバックシュートを美しくリングに沈めた。

荒々しいラフプレーには、一切の隙もない「完璧な技術」で応える。
ファウルすらさせない圧倒的な実力差を見せつけることこそが、迅なりの相手への「静かなる制裁」だった。
「すごい……今の体勢で決めるんだ」
コート上で一頼が息を呑み、ベンチでは牟田先生が「よし!」と力強くガッツポーズを作る。
「迅先輩、今の空中姿勢、完全にルーヴル美術館行きっすね!」
野瀬がディフェンスに戻りながら歓声を上げ、コガケンと江頭が「ナイスシュートだ、折館!」と背中を叩いた。
試合終了のブザーが鳴り、スコアボードは碧翔学園の圧勝を示していた。
「お前ら、よく耐えて自分たちのプレーをした! 明日もこの調子で行くぞ!」
牟田先生の労いの言葉に、部員たちの明るい声が響く。
体育館の外に出ると、夕焼け空の下で女子バスケ部が待っていた。
「……一頼」
立夏が、スポーツドリンクのボトルを手にして歩み寄ってくる。
「今日のあんた、すごく良かった。無理してぶつかりにいかないで、周りを見てパス回してた。……江頭くんのスクリーンを使ったあのアシスト、鳥肌立ったよ」
立夏の屈託のない笑顔と褒め言葉に、一頼は照れくさそうに頭を掻いた。

(……少しだけ、立夏先輩の隣を歩くための「正解」が分かった気がする)
少し離れた場所では、迅が玲の前に立っていた。
「……怪我、してない? すごくヒヤヒヤしたよ」
玲が心配そうに見上げると、迅は静かに首を横に振った。
「……問題ない。玲が見ていたから。一本も外すわけにはいかなかった」
「もう、迅くんったら……」
「いやー、今日の早坂のパスと迅先輩のシュート、脳内シャッター切りまくりでしたよ! コガケン先輩と江頭先輩のスクリーンもいぶし銀で最高でした!」
野瀬がカメラを構えるフリをして笑い、隣で樹が「僕の計算式が完璧だったという事実も、記録のキャプションに加えておきたまえ」と眼鏡を光らせる。

コートの上で見つけたそれぞれの「役割」と「強さ」が、彼らの絆をより一層、熱く確かなものにしていた。
【今回のおまけ】
野瀬「やったー! 2年混合チームで決勝まで行くなんて、かなりの快挙だよ!」
稲城「すげーなー!」
野瀬「次回、決勝戦でーす!」

野瀬「一つにまとめたNG集です。Geminiさん、文章で『バックシュート』勧めてくれたのに、絵として出せなくてギブアップ」
稲城「ちょっとタッチが変わるので違和感あるけど、今回はChatGPTさんも出動してもらいました」
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