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【clum! '96 #25】独占欲

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1996年、夏の湿り気を帯びた朝。

悪夢の余韻を引きずったまま、迅は中体連前最後となる練習試合の会場へと向かった。

昨年の11月、同じような焦燥感と独占欲に突き動かされ、まだ付き合っていなかった玲を強引に抱きしめ、その唇を奪ってしまった記憶が、今の迅を再び縛り付けていた。

「迅……! お前、今日ちょっと当たりが強すぎないか!?」

折館おりたちじん古賀こが賢治けんじ

練習試合の第2クォーター、味方のパスを奪い取るようにしてリバウンドを制した迅に、キャプテンの古賀こが賢治けんじ(通称コガケン)が困惑の声を上げた。

迅のプレーは、いつも以上に殺気立っていた。

相手選手が、玲のいるベンチの方へ少しでも近づこうものなら、容赦ないブロックで叩き落とす。

ゴール下の番人というよりは、獲物を守る猛獣のようだった。

「……すまん。次は抑える」

短く答える迅の声は低く掠れている。

「頼むよ、エース」

コガケンが強く背中を叩いていった。

しかし、コートサイドでボトルを用意している玲に視線が向かうたび、悪夢の中の「甘い匂い」と、自分以外の男たちが彼女に触れるイメージが脳裏をよぎり、指先が微かに震えた。

タイムアウト。玲がいつものように、タオルとボトルを手に迅の方へ駆け寄ってきた。

「迅くん、お疲れ様。……顔色が悪いよ、無理しないで」

玲が心配そうに、迅にボトルを差し出した。

その瞬間――迅は反射的に、玲の手を強く弾くようにして避けてしまった。

「……っ!」

「あ……」

玲の動きが止まる。迅は、自分の拒絶に驚いた玲の悲しい瞳を見て、胸が抉られるような痛みを感じた。

(……触れるな。俺を、玲に触れさせるな)

今の自分は、昨年の11月と同じ「獣」だ。

もし今、彼女の細い手首を掴んでしまったら、そのまま誰もいない場所に連れ去って、二度と誰の目にも触れさせたくないという衝動を抑えられる自信がない。

「……悪い。汗で汚れるから、いい」

迅は玲の目を見ることができず、背を向けてボトルを受け取った。

その横で、一頼が心配そうに迅の様子を伺っている。

「……あーあ。迅先輩、完全にバグってますね」

ベンチの端でカメラを構えていた野瀬が、レンズ越しにその光景を捉えていた。

「野瀬くん、今の、迅くん、怒ってたのかな……」

玲が小さく肩を落とすのを見て、野瀬はフィルムを巻き上げながら、珍しく真面目なトーンで話した。

「逆ですよ、玲先輩。怒ってるんじゃなくて、怖がってるんです。……自分の中にある『何か』に飲み込まれそうになってるんですよ、あの先輩」

野瀬は、夢で見た「裏切り者」の一人として、迅の視線が自分や一頼、稲城に向けられるたびに、そこに鋭い警戒心が混じっていることに気づいていた。

試合終了後。

碧翔学園は勝利したが、迅の心は晴れなかった。

部室の外、夕暮れに染まる校舎の裏で、迅は一人、自分の大きな掌を見つめていた。

この手は、玲を守るためのものか。それとも、彼女を閉じ込めるためのものか。

立夏のことは守れなかった。故に閉じ込めるようにして守ってきたという自覚がある。果たしてそれも正解だったのか。

「……迅くん」

足音がして、玲がやってきた。

「……来るな。今は、一人にしてくれ」

迅の声は震えていた。

1996年の夏休み直前。

誰よりも強く、誰よりも美しく、誰よりも「不器用」なクォーターの少年は、愛ゆえの独占欲という泥沼の中で、溺れかけていた。



【今回のおまけ】

野瀬「実は『キャプテン』と言う名前では前から登場してはいたんですが、やーっと名前が出ました! うちのバスケ部の、部長でありキャプテンである、古賀賢治先輩でっす。お呼びしています。拍手!!」

古賀「え、こっちに呼んでもらえるとは思ってなかったな。どもども」

野瀬「今は3年生になりますが、1年生のときに我が校にバスケ部を作った立役者の1人でもあります。拍手!」

古賀「いやいや、出来ることは決まってたような部だから、俺は人間集めたぐらいしかしてねーよ。それでも人が少ないから2年をスタメンで使うしかなき弱小部だ」

野瀬「古賀賢治先輩は、その名前から『コガケン』先輩という愛称があります」

古賀「1文字しか減ってねーけどな」

野瀬「以上、ご紹介でしたー!」

古賀「……なぁ、野瀬。ここに呼ばれたら本編の出番が減るっていう話を聞いたんだけど、マジ?」

野瀬「……以上、ご紹介でしたー!」


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