【clum! '96 #14】噂の正体
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1996年、梅雨の湿り気が校舎の廊下に居座る頃。玲に向けられる視線は、雨粒のように冷たく、執拗に彼女の背中を濡らしていた。
事態の根源は、碧翔学園が「設立3年目」の新設校であるという特殊な環境にあった。1期生である彼女たちの人間関係は、まだ全校生徒に正しく共有されていなかったのだ。

中等部の廊下や女子トイレでは、玲が通るたびにひそひそ話が波のように広がっていた。
「ねえ、見た? B組の岡本さん、また折館くんと一緒にいたよ」
「前はあのアクの強い科学部の男子と付き合ってたよね? 腕とか組んで歩いてたし」
「えっ、じゃあ乗り換えたの? それとも二股?」
「……おしとやかなフリして、やるよね」
1996年当時、双子であることを隠して「恋人のふり」をしていた樹の戦略は、玲を虫から守るどころか、彼女を「魔性の女」に仕立て上げる最悪の火種となっていた。
「……ちょっと、あんたたち! さっきから何デタラメ抜かしてんのよ!」
昼休みの廊下。噂話をしていた女子生徒たちの前に、仁王立ちで現れたのは立夏でした。ポニーテールを揺らし、鋭い眼光で彼女たちを射抜く。

「玲ちゃんが二股なんてするわけないでしょ! あの二人は……その、えーっと……」
(あいつらが「双子」だって公表してないから、勝手にバラすわけにもいかないし……!)
立夏は、樹から「玲の安全のため、血縁関係は伏せておくように」と釘を刺されていたことを思い出し、言葉を飲み込む。
「……とにかく! 折館くんと玲ちゃんは、今、真剣に付き合ってるの! 樹くんとは、その、幼馴染みたいな……腐れ縁なのよ! 文句ある!?」
立夏の勢いに押され、女子たちは「……別に」と気まずそうに散っていきます。立夏は彼女たちの背中を睨みつけながら、悔しそうに拳を握った。
「もう! 迅も樹くんも、玲ちゃんを囲んで守ってるつもりだろうけど、それが一番の原因だって気づきなさいよ! この前までの靴隠しの件だって、絶対それが原因よ」
一方、科学部室では樹が白衣のポケットに手を突っ込み、苦々しい顔をしていた。

「……佐野くんが廊下で吠えているのが聞こえた。玲の周囲のノイズが増えているようだな」
「樹、お前が『恋人のふり』なんて中途半端な策を講じたせいだぞ。おかげで俺まで浮気相手扱いだ」
迅が窓際で冷たく言い放つ。
「ふん、凡人どもの推論など科学的根拠に乏しい。……だが、玲の精神衛生を著しく阻害する個体については、何らかの処置が必要かもしれないな」
樹の眼鏡の奥で、危うい光が揺れる。
二人は、自分たちが「最強のガード」として玲を挟んでいる姿が、周囲から見れば「学園の二大有名人を独占する不届き者」に見えているという事実に、まだ無頓着だった。
そんな様子を、一頼は複雑な思いで見守っていた。
「立夏さん、あんまり無理しないでくださいね。……でも、僕も玲先輩がそんな風に言われるのは悲しいです。僕にできることがあれば、何でも言ってください」
一頼は、放課後の部活動の前、立夏に冷たいスポーツドリンクを手渡しながら言った。
「ありがと、一頼。……本当にあいつら(迅と樹)、顔が良いだけで全然女子の気持ちがわかってないんだから!」
1996年。閉鎖的な学園という箱の中で、真実を知らない周囲の「視線」は、時として物理的な嫌がらせよりも深く、玲の心を削っていた。
そして立夏は、今日も親友の名誉を守るため、学園中を駆け回るのだった。
【今回のおまけ】
野瀬「女子は怖いね〜やだやだ」
稲城「男子に妬み嫉みが無いわけではないけど、どうしても女子の方が集団で表面化しやすいんだろうね」

稲城「今回はNGっていうか、立夏先輩が怖過ぎでボツになった分です。でも、俺も同じ気分だな」
野瀬「やれやれ。本編が重くなってきたので、良かったら気分転換に、爽やかでかわいいテーマソングを聴いていってよね」
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