見出し画像

【clum! '96 #42】休憩という免罪符

←   前の話へ

※今回はキスシーンのイラストが出てきます。それ以上の描写も少しばかり。苦手な方はご注意を。

1996年、8月の午後。

佐賀の夏特有の、ねっとりとした熱気が窓の外で陽炎を揺らしている。

弘道館高校への外部受験を控えた折館おりたちじんの自室は、冷房が微かに唸る音と、ページをめくる音だけが響くはずの場所だった。

しかし、机に並べられた難解な数学の参考書は、ここ数十分間、一行も進んでいない。

「……迅くん、そろそろ集中力が切れちゃうよ? 少し休憩にしようか」

隣で並んで勉強していた彼女、岡本おかもとれいが、伸びをしながらおっとりと笑いかけた。その無防備な仕草に、迅の理性の細い糸が音を立てて千切れる。

「……ああ、そうだな。休憩だ」

迅はペンを置くと、磁石に引き寄せられるように玲の方を向いた。

花火大会であの「深いキス」を覚えて以来、迅の自制心は玲を前にすると驚くほど脆くなっていた。

迅の大きな手が玲の頬を包み込み、引き寄せる。

「あ……ん、っ……」

重なる唇。最初は熱を確かめるような静かなものだったが、迅が玲の腰を引き寄せ、自分の膝の上に強引に乗せた瞬間、それは「貪る」ような激しさを帯び始めた。

一度知ってしまった熱は、二度と忘れることはできない。

迅の舌先が玲の口内を執拗に弄り、彼女の甘い吐息を全て吸い尽くそうとする。

玲の手が迅の首筋に回り、細い指が金色の髪を翻弄するように震えた。

「……っ、迅、くん……はぁ、」

わずかに唇が離れた隙に、玲が熱っぽい視線で迅を見上げる。

その瞳に映る自分自身の独占欲に煽られるように、迅の手は無意識のうちに玲の華奢な肩から、その下へと滑り落ちていった。

薄手のブラウス越しに触れた、想像以上の柔らかさと、確かな重み。

「……っ!」

迅の大きな掌が、玲の豊かな胸を服の上から包み込んだ。

玲の体が小さく跳ね、熱い吐息が迅の首筋にかかる。

「……だめ、迅くん……そこ、は……」

拒絶の言葉とは裏腹に、玲は迅の胸に顔を埋め、逃げることなくその刺激に耐えるように身を縮めた。

迅は、掌に伝わる玲の激しい鼓動を感じながら、指先を沈めるようにその膨らみをなぞる。

まだ「大人の世界」を覗き見たばかりの少年には、その柔らかさはあまりにも劇薬だった。

「……悪い。……玲、嫌か?」

迅の声は掠れ、切羽詰まった欲望が隠しきれなかった。

玲は顔を真っ赤にしたまま、潤んだ瞳で迅を見つめ返した。

「……嫌じゃないけど。……でも、これ以上は……お兄ちゃんが来たら、本当に、迅くんが消されちゃう」

玲の冗談めかした、しかし切実な言葉に、迅はハッとして手を離した。

(……何をやっているんだ、俺は)

迅は乱れた呼吸を整えるように、玲を抱きしめたまま強く目を閉じた。

先月の悪夢よりも、今この腕の中にいる玲の体温の方が、ずっと自分を狂わせそうだった。

その時。

コツ、コツ、と正確なリズムでドアがノックされた。

「……折館。休憩時間は終了だ。玲の血中エンドルフィン濃度が上昇しすぎると、午後の学習効率に著しい支障をきたす。……3秒以内に離れろ。さもなくば、このドアを科学的に開錠する」

樹の声だった。

迅と玲は慌てて距離を取り、参考書を広げ直した。

「……一歩進むたびに、たちきが壁になるな」

迅がボソリと毒づくと、玲は少し乱れた服を整えながら、クスクスと楽しそうに笑った。

受験勉強という大義名分を盾に、少年たちの熱い「上書き」の夏は、さらにその深度を増していくのだった。


【今回のおまけ】

野瀬「俺たちが合宿で少しセンチメンタルになってる間に、当の本人はこんな……こんな……っ。いや、今回も内容には触れません」

稲城「もう十分触れてるよ?」

野瀬「夏の、お部屋ファッションでーす」

稲城「玲先輩のブルーのスカートが眩しい……!」

野瀬「樹先輩は流石に暑いこともあり、プライベートであることもあり、白シャツで妥協しているそうだよ」


次の話へ →


↓  マガジンはこちら ↓

いいなと思ったら応援しよう!

ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。