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【clum! '95 #67】深夜の電話、樹

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何時にかけても本人が出る家の電話というのは、良いものだ。おかげでこうして夜も気楽にかけることができる。

Prrrr……ガチャ

「はい、折館おりたちです」

「折館くん、今日の桜はさぞきれいなことだったろうね。僕にはまだ土産話の一つも届いてないんだが……」

「?? あぁ、じんの友達かな?」

……父親!? 声の周波数が似過ぎていて、こんなの瞬時に判別する方が無理だろう!?

「し、失礼しました。夜分遅くの電話で失礼します。同じクラスの岡本おかもとたちきと申します。迅くんにはいつもお世話になっております」

「ははは、しっかりした子だな。こちらこそ世話になってるね。ちょっと待ってなさい。子機を呼び出すから」

せ、セーフ! 万が一に備えて、シミュレーションは出来ている。完璧なリカバリーだ。

『禁断の遊び』のメロディが鳴り響き、ほぼほぼ同じトーンの声が話し始めた。

「……たちき?」

「折館……キミの親父さんは実在したんだな」

「そうみたいだな。俺もたまに存在を忘れる」

苦笑しながら折館が答える。

「まぁ、いい、それより今日のことだ。何か僕に報告や謝罪すべきことは?」

「樹……この、れいとのデートが終わる度に毎回電話してくるの、そろそろやめないか?」

「いーや、これは兄としての権利であり義務だからね。きっちり行使させてもらうよ」

「毎回そんなに報告するようなことが起こってたまるかよ。いつも通りでした。何もアリマセン」

「じゃあ、玲の

『迅くんの心臓の音がすごくてね。強くて速くて、あったかかったの』

という報告の根拠となる出来事について詳しく聞こうか」

「……玲の声真似やめろ。脳がバグる」

「まぁ、僕の現在の声域では、まだまだ玲の声帯模写くらいは余裕だからね。んんっ、

『迅くん……迅くんのこと、わたしにぜーんぶ教えて……?』」

「……ぅぐっ、やめろ。くそっ! 話すから……後で、リクエストさせろ」

「……まぁ、いいだろう。で?」

「弁当箱片付けるときに、玲がこけて倒れて、俺の上に……で、しばらくそのままだったから……」

「要領を得んな。抱いたのか?」

「だ!? ちげぇよ! 抱きしめたり、抱きついたりもしてないし! むしろ俺が押し倒されてるんだからな! あんまり降りそうにないもんだから、慌てて横に下ろしたし!」

「……で?」

「頭からシャンプーのいい匂いはするし! 髪はさらさらして柔らかいし! ニット越しでも胸の柔らかさが伝わってくるし! こっちは死ぬかと思ったんだぞ!」

「ふぅん、一度死んでこいよ。そういえば、最近、玲の下着が全体的に新調されてたな」

「……下着っ!? お前、まさかと思うけど、そんなことまで把握してるのか……?」

「勘違いするな。うちは両親も玲も大雑把でね。フツーに目の前に洗ったものが干されてて、嫌でも目に入るだけだ。確実に上下ともワンサイズ上がってる。これ以上の詳細は控えるが……」

電話の向こうの息が荒くなったのが聞こえた。こちらから仕掛けたこととはいえ、不快だ。

「身体だけでなく、妄想逞しいのは思春期男子として理解もできるし、健全極まりなくて結構だが、閑話休題だ。志望校は決まったのか?」

「……つ、ついさっき親父と話してたところだ」

「僕は久留米附設でもラ・サールでも好きにしろと言われているが、君はそうはいかないだろう?」

「あぁ、全寮制の弘道館を考えている。親父の負担も考えた上で」

「なるほどね。妥当…というか、それでも相当学力を上げないと厳しいだろうな。佐大の附属中からの受験が大半だと聞く。……ん?弘道館といえば、アレか」

「そう、アレだ」

「男子校か。男子校で全寮制。くくっ、まぁ、君の煩悩を祓って修行するには打ってつけなんじゃないか?」

県内か。玲からこれ以上離れたくは無いんだろうな。妥当なところだ。

「……僕も、同じところにしようかな」

口に出してしまってハッとした。これでは友人と同じところを受けようという浅はかな思考停止した人間のようではないか。

「はぁ? さっき、お前ラ・サールでも久留米附設でもって自分で言ってたじゃないか、天才様はよりどりみどりだって」

「玲と離れるなら、どこだって一緒だよ」

そう、一緒なのだ。すぐに歩いて会える距離じゃ無いのなら。

そうだな、全寮制ならそっちの方が24時間離れられていいのかもしれない。とにかく僕という存在を、彼女の視界から消すことができれば。

「あのさ」

「何だい、折館くん」

「俺が言えたことじゃないけどさ、無理はするなよ。話ならいつでも聞くし。その……玲とだって好きなときにデートすればいいし。3人で一緒に出掛けたっていい」

「そんなこと、キミに許可される筋合いはないね。元々、僕の妹だ。んんっ。

『それじゃあ、迅くん、お休みなさい。今夜はわたしのあたたかさとやわらかさを、思い出しながら眠ってね』」

「……おまっ……!」

大サービスだ。これで、少しは寝不足になるといい。受話器を置いて、僕は自室へと向かった。

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