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【clum! '95 #13】双子の衝撃

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1995年7月上旬。

放課後の2年A組の教室。

雨続きで、陸上部が体育館を使うことになり、バスケ部が休みになった俺、折館おりたちじんは、自分の席で外を眺めていた。

その前で、白衣を着た岡本おかもとたちきがブツブツと何かを唱えている。

「……気圧が1005hPaを下回った。そしてこの湿度、れいちゃんの偏頭痛を誘発する恐れがある。帰宅ルートの安全性確保と、温かいハーブティーの準備が必要だ」

俺は呆れたように樹を見た。

この3ヶ月で分かったこと。それは、樹が「岡本おかもとれい」という女子に対して、異常なほどの執着と愛情を持っているということだ。

……こいつ、また「玲ちゃん」のことか。

俺の頭の中に、岡本玲の控えめな笑顔が浮かぶ。

最近、一緒に過ごすことが増えた2年B組の大人しい女子。家にパーティーをしにも行ったし、この前は一緒の傘に入って帰った。

彼女が作るお菓子は美味いし、俺が貸したCDの感想を丁寧に手紙でくれる律儀さもある。

幼馴染の立夏のような騒がしさはなく、一緒にいると不思議と心が安らぐ。

……俺、あいつのこと結構いいなと思ってるけど。

だが、目の前には「最大にして最強のライバル」がいる。

「なあ、樹」

「なんだい、折館くん」

「お前さ……その、岡本さんのこと、好きなのか?」

俺は単刀直入に聞いた。

もし樹が本気なら、友達として一歩引くべきか迷っていたからだ。

樹は眼鏡を光らせ、真顔で答えた。

「好き? ……愚問だね。彼女は僕の生きる意味であり、細胞レベルで求め合う存在だ。僕の愛は太平洋の水量よりも深い」

……重い。重すぎる。

俺は天を仰いだ。

これほどの熱量で愛されているなら、部外者が入り込む隙はない。

「……そうか。悪かったな、変なこと聞いて」

「ん? なぜそんなことを聞くんだ?」

樹が不思議そうに首を傾げる。

俺はため息をつき、覚悟を決めて言った。

「……いや、俺も少し、あの子のこと気になってたんだけど。お前がそこまで本気なら、諦めようと思ってな」


雨音が教室の静寂を埋める。


樹は数秒間、ポカンと口を開けてフリーズした。


そして次の瞬間、ガタッ! と椅子を蹴倒して立ち上がった。

「なっ……なんだってーーー!!??」

樹の叫び声が廊下に響く。

「お、折館くん! 君、まさか玲ちゃんに……恋愛感情を!? 異性として!?」

「あ? ……まあ、そうだけど。だから引くって言ってんだろ」

「引くとかいう問題じゃない!! これは緊急事態だ! 警報レベル5だ!!」

樹は頭を抱えて教室内をウロウロと歩き回り始めた。

「まさか僕の友人が……金髪の野獣のような折館くんが、僕の大切な玲ちゃんを狙う狼だったとは! 迂闊うかつだった! 音楽の趣味が合うからといって油断していた!」

「おい、落ち着けよ。何なんだよお前」

「落ち着けるわけがないだろう! 愛する『妹』に恋人ができるかもしれないんだぞ!!」


「……は?」

思考が停止した。

今、こいつ何て言った?

「…… 妹?」

「そうだ!! 玲は僕の最愛の双子の『妹』だ!! 知らなかったのか!?」


「……はあああああ!!??」

今度は俺が叫ぶ番だった。

「お前ら双子だったのか!? 名字一緒だけど赤の他人だって、お前自分で言ってたろ? それに、何もかも、全然っ似てない!」

「他人だなんて、そんなこと言ったかな? まぁ、二卵性だからね! 似ていないのは遺伝子の悪戯だが、僕たちは同じ日に生まれ、同じ母胎を共有した運命共同体なんだよ!」

俺は愕然とした。

岡本樹と岡本玲。

確かに名字は同じだが、性格は真逆。

樹が普段から「玲」「玲ちゃん」と名前で呼ぶため、てっきり岡本玲を一方的に溺愛している変人だと思い込んでいたのだ。

……なんだ。ライバルじゃなくて、身内か……。

その事実を消化した瞬間、俺の胸に去来したのは、安堵感だった。

友達と同じ人を好きになったわけではない。略奪愛でもない。横恋慕でもない。

「……なんだ、妹か。……びっくりさせるなよ」

「何が『なんだ』だ! 余計にタチが悪いぞ! 兄として言わせてもらうが、君のような目つきの悪い男に玲は渡さん! 絶対にだ!!」

樹が指を突きつけて威嚇してくる。

しかし、俺にはもうその言葉は脅威ではなかった。

むしろ、「兄」だと分かったことで、樹への接し方が定まった。

「……へえ。お兄様は心配性だな」

「なっ、その余裕は何だ!?」

「別に。……ま、これからよろしく頼むわ、お義兄にいさん」

俺はわざとらしく、樹の肩をポンと叩いた。

「き、貴様ーー!! 誰がお義兄さんだ! 認めん! 僕は断じて認めんぞーー!!」

雨の教室に、樹の絶叫がこだまする。

俺はそれをBGMに、カバンを持って立ち上がった。

まあ。

仲良くする相手が一人増えたってことだろ。

窓の外の雨はまだ降り続いていたが、俺の心は梅雨明けのように晴れ渡っていた。

こうして、俺の「対・シスコン兄攻略戦」の幕が切って落とされたのである。

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ゆりしま みつき|青春群像の庭師|『clum! 』連載中 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは製作費に使わせていただきます。