【clum! '95 #14】双子談義

1995年7月。
放課後の渡り廊下。
俺は、あいつらが双子だったという事実に驚いたまま、図書室へと向かう岡本玲を呼び止めた。
「……岡本。樹と『双子』だったんだな。……あいつから聞いた」
岡本玲は、持っていたカバンをぎゅっと抱きしめ、視線を足元に落とした。
「……知られちゃったんだね。……ごめんね、折館くん。わたし、自分から言うのが……なんだか恥ずかしくて」
「恥ずかしい? なんでだよ。あいつみたいな天才と双子なんて、すごいことじゃないか」
「……それが、いやだったの」
岡本玲の声は、蝉時雨に消えそうなほど小さく震えていた。
「お兄ちゃんは、生まれたときから特別な子なの。
わたしは……お兄ちゃんが持っているものを、全部お腹の中に置いてきちゃったみたいな気がして。
……比べられるのが、いつも怖かったんだ。折館くんにだけは、『出来の悪い方の双子』だなんて、思われたくなかった……」

え? 岡本、そんなこと思ってたのか?
比べる? あの変人と?
「――ちょっとちょっと! 何、シリアスな空気出しちゃってんのよ!」
そこへ、騒がしい足音と共に立夏と、少し困ったような笑みを浮かべた早坂がやってきた。
「折館くん! ついに岡本兄妹の『国家機密』を知っちゃったんですって? あたしも実は少し前に知ったばかりだったんだけどね〜」
立夏がニヤニヤしながら岡本玲の肩を抱き寄せる。
「玲ちゃんも水臭いわよ。あたしだって知ったときはびっくりしたけど、今じゃ『ああ、なるほどね』って納得しかないわ。……ね、早坂くんもそう思うでしょ?」
早坂は冷静に、でも優しく頷いた。
「確かに、ぼくも佐野先輩から初めて聞いた時は驚きました。でも、岡本先輩のお兄さんのあの『異常なまでの過保護さ』の正体が双子愛だと分かれば、納得ですね」
その後、早坂は少し小さな声で、
「あと、まぁ、身内が近くにいるといろいろやりづらいですからね。隠したい気持ちもわかります」
と、つぶやいた。
俺達は図書室の席に座り、他の生徒が少ないのをいいことに、小声で双子談議に花を咲かせた。

「正直、あの樹が兄貴とか、私なら1日で家出するわ。でも、意外と顔はそっくりよね、目元とか」
「二卵性とはいえ、何か特別なつながりとかありそうですよね。樹さんが玲さんのピンチを察知するのは、双子特有のテレパシーだったりするんでしょうか」
「俺はまだ信じられん。樹が学年1位なのもだが、こいつらが双子だとか。樹より岡本の方が……」
「100倍はかわいい」と、口が滑りそうになった。
言ったらとんでもないことになるところだった。危ない。
「……もう、みんなして……」
岡本玲は顔を赤らめながらも、少しだけ肩の荷が下りたような表情を見せた。
双子だとバレて、比べられることが不安だったんだろう。
立夏たちが冗談を言い合っている隙に、内緒で告げることにした。

「……岡本。さっき『出来の悪い方』なんて言ってたけど」
「……え?」
「樹が天才だろうが双子だろうが、俺には関係ない。比べるなんて考え方さえ、俺の中には無い」
「…………。……うん。……ありがとう、折館くん」
岡本玲の顔から、不安の霧が晴れた。
雨が止んだ窓から差し込む鮮やかな夏空の色が映り込む。
「ちょっと折館くん! 今、玲ちゃんに何て言ったのよ!? 顔がさらに赤くなってるじゃない!」
「別に何でもない」
「あはは、折館先輩の方が赤いかもしれませんよ」
早坂の笑い声と、立夏の騒がしい突っ込み。
岡本玲の少し照れた笑顔。
図書室には、いつもの賑やかな空気が戻っていた。
……まあ。
双子だろうが、天才だろうが。
俺にとって岡本は、
最初から岡本だったけどな。



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