【clum! '96 #39】ご褒美は手をつないで
1996年、夏の昼下がり。佐嘉神社そばの昔ながらの古い映画館。

古い館内をガンガンに冷やすクーラーの冷気と、売店から漂うポップコーンの甘い匂い。
中体連を終えたばかりの解放感と、立夏が提示した「ご褒美」という名の約束が、一頼の心臓をかつてないほど激しく打ち鳴らしていた。
上映されるのは、当時のヒット作、ミッション:インポッシブル。暗くなったスクリーンに予告編が流れ始めると、一頼の全神経は左手に集中した。

(……今日、僕は『先輩』って呼ばない。……それから、手を繋ぐ。立夏が言ってくれたんだ、いつでもしてあげるって。……でも、いざとなると、指一本動かせない……!)
隣の席では、立夏が少し背伸びをしてリラックスした様子でスクリーンを見つめている。しかし、よく見ると彼女も少しだけ膝の上で手を握りしめていた。
「……ねえ、一頼」
「は、はいっ! ……あ、な、なに、立夏」
「……あんた、さっきからポップコーン一粒も食べてないじゃない。湿気ちゃうわよ」
立夏がクスクスと笑いながら、バスケットの中のポップコーンを一粒取って、一頼の口元へ差し出しました。

「ほら、あーん」
一頼の顔が沸騰した。暗闇の中で、立夏の瞳がいたずらっぽく、それでいて優しく光っています。
一頼は意を決して、立夏が差し出した手を、その指先ごと包み込むように握った。

「……あ」
立夏が小さく声を漏らす。
ポップコーンが一頼の膝の上にこぼれたが、そんなことはどうでもよくなっていた。
「……立夏。約束、果たしてもいいかな。……映画が終わるまで、ずっと、こうしててほしい」
一頼の掌は少し汗ばんでいましたが、立夏は逃げるどころか、自分の指を一頼の指の間に滑り込ませ、ギュッと握り返してきた。
「……バカ。……『何でも言うこと聞く』って言ったのは私だけど……こんなの、ご褒美でもなんでもないじゃない。あたしが、そうしたかっただけなんだから」

暗闇の中で、立夏が自分の方へ身を寄せた。
彼女のポニーテールから、夏の終わりのような石鹸の香りがして、一頼は自分が映画の内容を一つも理解できなくなることを確信した。
映画館を出ると、午後の刺すような日差しが二人を迎えた。
繋いだ手は離してしまったが、その感触はまだ掌に熱く残っている。
「……あー、面白かった! 一頼、あそこのシーンすごかったね……」
「……うん、そうだね、立夏……せん……」
「……ん?」
立夏がピタリと足を止め、一頼をジロリと睨んだ。
「……あ、立夏! ……ごめん」
「よろしい。……一頼は、たまに私のこと『立夏さん』とか『立夏先輩』とか呼んで距離置こうとするから。……私は、あんたの隣を歩いてるつもりなんだからね。……前や後ろを歩くんじゃなくて」
立夏はそう言うと、自分からもう一度一頼の手をサッと握り、恥ずかしさを隠すように早歩きで歩き出した。

「……おーい! こっちこっち!」
夕暮れの県庁前のくすかぜ広場。
浴衣姿の玲と、それをガードするように不機嫌な顔で立っている迅、そして甚兵衛姿でカメラを構えた野瀬が見えた。

「……一頼くん、立夏ちゃん! 手、繋いでる!」
玲が嬉しそうに声を上げると、迅が「……早坂、お前……一歩進んだな」と、どこか複雑な、しかし称賛の混じった目を向けた。
「迅先輩こそ、玲先輩の浴衣姿……さっきから直視できてないじゃないですか」
一頼が言い返すと、迅は「……うるさい。科学的に見て、浴衣は熱がこもりやすいから心配しているだけだ」と、樹のような言い訳をしてそっぽを向いた。
一頼と立夏の「手繋ぎデート」の余韻を抱えたまま、物語はいよいよ、迅の「いろんなこと」が爆発する、花火大会へと突入する。
【今回のおまけ】
稲城「俺、この日は空手の試合が重なって行けなかったんだよな……」
野瀬「稲城がいない理由って大抵それだよね。どんまい」
稲城「玲先輩の浴衣姿を拝みたかった……っ」

野瀬「今回のNG〜。Geminiさんはさー。映画館とか教室とか結構苦手なんだよね。というか、最近のチャッピーさんがすごいのかも知んないけど」
稲城「セントラルシネマ、懐かしいな。小学校の頃東映まんが祭り見に行ってた。この頃まではまだフツーにあったよな?」
※2026年現在は閉館しています。2000年から2006年あたりに閉館した模様。
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