【clum! '95 #25】観覧車二人きり×2

9月に入って2回目の日曜日。大安吉日。
佐賀には中高生が楽しめるような大きな遊園地はない。
なので、少し足を伸ばして、福岡の「スペースワールド」か「だざいふえん」、熊本の「三井グリーンランド」のいずれかに遠出するという選択肢に絞られる。
残暑が厳しい北九州市のスペースワールドのゲート前に、私服姿の4人が集まった。
開園から5年が経ったばかりのスペースワールドは、夏休み明けだというのに、大勢の人で人で賑わっていた。

「よーし! 今日は遊び倒すわよ! 早坂くん、プランは完璧なんでしょうね?」
佐野立夏先輩は、スポーティなポロシャツ、ミニスカートに膝上のソックス、スニーカーという服で、とてもかわいい。私服、初めて見た。
その隣で、リュックを背負った僕、早坂一頼は、事前に取り寄せたパンフレットを握りしめて答える。
「は、はいっ! 混雑予想とアトラクションの位置、休憩ポイントまで完璧にシミュレーションしてきました!」
「よし、合格!」
そんな気合十分な僕達の後ろで、折館迅先輩は気だるげに欠伸をした。
「……なんで俺まで、こんな遠くに」
「ご、ごめんね折館くん。立夏ちゃんが『4人の方が楽しいし、折館くんがいないと玲ちゃんが来ないでしょ!』って……」
隣の岡本玲先輩が申し訳なさそうに謝る。彼女は清楚なラベンダー色のワンピース姿だ。こちらも似合っている。
折館先輩は玲先輩の姿をチラリと見て、少しだけ視線を泳がせた後、「……まあ、いいけど」と呟いた。
玲先輩が楽しそうだから、帰るとは言えないのだろう。

「わーーー!! 最っ高ーーー!!」
急降下する『タイタン』のコースターの上で、佐野先輩が両手を挙げて絶叫する。
その隣で、僕は魂が口から抜け出しそうだった。
「うわぁぁぁぁぁ……」
「あはは! 早坂くん、がんばって!」
一方、後ろの座席の折館先輩と玲先輩は、
「きゃぁっ!!」
「……」
岡本先輩は怖くて目を瞑り、隣の折館先輩の腕をギュッと掴んでいる。うらやましい!
折館先輩は無表情で風を受けているが、岡本先輩が安心するようにどっしりと構えていた。うらやましい! 僕もそうなれたらいいのだけど。無理。
コースターが止まると、折館先輩はフラフラの岡本先輩に手を貸して降りる。
「……大丈夫か」
「う、うん。怖かったけど……折館くんがいたから平気」
「……そうか」
自然なスキンシップを見せつける二人に対し、僕たちお試しカップル」は……。
「早坂くーん! しっかりー! 次は『惑星アクア』いこー!」
「せ、先輩……僕の三半規管が……」
僕はベンチで佐野先輩に水を飲まされながら、介護されていた。

続いて僕たちが向かったのは、スペースワールド版お化け屋敷『エイリアンパニック』。
ここで形勢が逆転した。
「……む、無理。絶対無理。入らない」
建物の前で、佐野先輩が柱にしがみついて抵抗を始めた。
絶叫マシンは平気だが、オバケ系は大の苦手なのだそう。
「佐野先輩、これもコースに入ってます。……行きましょう」
「やだやだやだ! エイリアンに連れてかれる!」
「……立夏、往生際が悪いぞ」
折館先輩に背中を押され、強制的に中へ押し込まれる。
中は真っ暗闇。
「いやあぁっ! 無理ぃぃ!」

佐野先輩はパニックになり、近くにいた僕の背中に飛びついた。
僕のTシャツの裾を握りしめ、背中に顔を埋める。
僕の心臓の方が違う意味で飛び跳ねそうだ。
「わ、早坂くん! 置いてかないで! 絶対離れないでよ!」
「は、はいっ! 任せてください!」
僕にとって、これは千載一遇のチャンスだ。
先輩が……僕に頼ってる!
僕は怖さを押し殺し、震える佐野先輩を先導して先を歩いた。
「大丈夫です、あれは作り物です! ……うわっ!……だ、大丈夫です!」

日が暮れて、園内のイルミネーションが少しずつつき始める頃。
最後のアトラクションは直径80メートルの観覧車『スペース・アイ』だ。
当然、ペアはそのまま二手に分かれる。立夏と早坂。そして、岡本と、俺。
筒形のゴンドラの密室に、二人きり。
外にはまだ夜景と呼ぶには早い夕暮れの風景が広がっている。
静かな時間が流れる。
「……今日は、ありがとう。付き合ってもらって」
「別に。……飯も食えたし」
「ふふ、チュロス美味しかったね」
岡本が窓の外を見つめながら微笑む。
ガラスに映る彼女の顔を見て、俺はポケットから小さなキーホルダーを取り出した。
さっき、岡本がお土産屋で「可愛い」と言っていた、星のついたキーホルダーだ。

「……ん」
「え?」
「やる。……土産」
「えっ、いつの間に……? うそ、嬉しい!」
岡本がキーホルダーを受け取って喜んでいる。俺はその姿を直視できなくて、外の風景へと視線を移した。
「……樹に見つかるとうるさいから、隠しとけよ」
「うん! 絶対大事にする!」
ゴンドラは頂上をゆっくりと超えていった。

こちらは「審判」の時間だ。
「……ふぅ。やっと座れた」
「お、お疲れ様でした、先輩」
僕は緊張していた。
今日のデートが「つまらない」と判定されれば、その場で交際終了(お試し期間終了)になる。
「……早坂くん」
「は、はいっ!!」
「今日のデートだけどさ」
佐野先輩が夕方の景色から視線を外し、僕の方を向く。
僕は膝の上で拳を握りしめ、判決を待つ被告人のように身を固くした。
「……合格、にしてあげる」
「えっ……?」
「タイタンでは情けなかったけど……エイリアンのとこでは、ちょっとだけ頼りになったし。それに……」
佐野先輩は少し頬を染めて、つぶやいた。
「……全部楽しかった。早坂くんと一緒で」

その言葉に、つい、涙がじわっと滲んだ。
「せ、先輩ぃぃ……! よかったぁぁ……!」
「ちょ、泣かないでよ! ムード台無し!」
「だって、別れ話かと思って……!」
よかった!……よかった!
泣きじゃくる僕を見て、佐野先輩は「しょうがないなぁ」と苦笑いしていた。
お試し期間は、もう少し延長してもらえそうだ。

そんな4人の様子を、僕は、地上から双眼鏡で見上げていた。
「……むぅ。玲のゴンドラ内で、折館が何かを手渡したのを確認! プレゼントか!? 爆発物か!? ……いや、玲が笑っているから良しとするか」
僕、岡本樹は、妹の無事を確認して満足げに頷く。
少し、ジェットコースターに乗りたかった気持ちがあるのは認めざるを得ない。
「しかし、早坂のやつ……泣きすぎだろう」


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