【clum! '96 #32】咆哮
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1996年7月下旬。
佐賀県立体育館のワックスの匂いと、何十台もの大型扇風機がかき回す熱気。
私立碧翔学園女子バスケ部、創立3年目にして初の「3年生が揃った」夏。その初陣の幕が上がった。
「……立夏、顔が硬いぞ。深呼吸しろ」

コートサイドで、迅が短く声をかけた。
男子の試合は午後からだが、彼は一頼や稲城、野瀬を連れて、女子の応援に駆けつけていた。
「わ、わかってるわよ! 緊張なんて……して、るわよ! 悪い!?」
立夏は膝を叩いて自分を鼓舞します。女子キャプテンとしての重圧、そして自分たちの代で歴史を作らなければならないという使命感。
ポニーテールをきつく結び直し、彼女はコートの中央へ向かった。
一頼は観客席の最前列で、手すりを握りしめていた。
(立夏……頑張れ。僕が、誰よりも声を出すから)

試合開始直後、碧翔学園は苦戦を強いられた。
相手は伝統ある公立の強豪校。
「新設校の私立なんて」という周囲の冷ややかな視線を、立夏は肌で感じていた。
「立夏、こっち!」
チームメイトが、懸命にパスを呼び込む。しかし、相手の激しいディフェンスに阻まれ、得点が伸びない。
「……みんな、顔を上げなさい!!」
第2クォーター、立夏の鋭い声が体育館に響いた。

「あたしたちは3年間、このメンバーでずっとやってきたの! 一番練習したのはあたしたちだって、見せつけてやるわよ!!」
立夏が自らトップからドライブを仕掛ける。
相手の肘が当たり、膝を床に打ち付けても、彼女は止まらなかった。ルーズボールに飛び込み、泥臭く繋いだパスを仲間が執念でゴールにねじ込む。

「……今の立夏先輩、最高。残念な美人なんて言って、マジですみませんでした」
野瀬が「写ルンです」ではなく、部室から持ち出した本格的な一眼レフを連写する。
ファインダー越しに見える立夏の表情は、普段の騒がしさが嘘のように神聖で、鬼気迫るものがあった。
「いっけええええ!! 立夏さーーーん!!」
隣で一頼が、喉が千切れるほどの声を上げていた。その姿に、立夏が一瞬だけ客席に視線を向け、不敵に笑った。

(一頼……見てて。あんたが信じてくれた「あたし」は、こんなに強いんだから!)
試合終盤。1点差を追うラスト10秒。
ボールを運ぶのは、やはり立夏だった。
相手のダブルチームを、バスケ部顧問・牟田先生が授けた「科学的」なスクリーン(樹のアドバイスが混ざったもの)で振り切る。

(あと一歩……あと、一歩だけ!)
立夏は、一頼との「程よい距離感」を思い出し、それが自分をどれほど自由にさせてくれていたかを噛みしめた。
背負うものが多すぎる自分を、ただの「佐野立夏」として愛してくれる少年の存在が、彼女の脚に最後の力を与える。
シュ……ッ!

立夏が放ったジャンプシュートが、吸い込まれるようにネットを揺らした。
終了のブザーが鳴り響き、碧翔学園のベンチが爆発したような歓喜に包まれる。
「やった……勝った……!」
コートに座り込んだ立夏の元へ、玲や部員たちが駆け寄る。
立夏は歓喜の輪の中で、真っ先に観客席の一頼を探した。
一頼は、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に手を振っていた。

立夏はその姿を見て、思わず駆け出しそうになるが、大勢の人の目があることに気づき、ぐっと踏みとどまった。

(……一頼。大会が終わったら、あたし……あんたに言いたいことが、たくさんあるよ)
女子バスケ部の劇的な勝利は、午後の男子の試合、そして迅と一頼、さらには彼らの「夏休み」へと、熱狂のバトンを繋いでいくことになる。
【今回のおまけ】
稲城「よかったああぁ! 立夏ちゃん、すごかったああぁ!!」
野瀬「興奮冷めやらぬところ悪いけど、おまけやるよ」
稲城「この空気の中で!?」


野瀬「題して、俺たちどこにどう座ってるの?シリーズ!」
稲城「……ほんとだ、2階席宙に浮いてる」
野瀬「ちなみに今回ChatGPTも使ったんだけどさ」

野瀬「こっちの方が位置関係は良かったりする」
稲城「こうやって並べると絵のタッチって、だいぶ違うんだな」
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