『ホラーが書けない』21話 ホラー映画と同じように霊が視えているのか?【Web小説】
第21話 異能者が視てる世界はゼロ感の俺とは違っていた
居酒屋から出ても、にぎやかな声が外までもれている。先に店を出たコオロギ――神路祇――は夜道を歩き始めていて、俺――紫桃――はすぐにあとを追って隣についた。
コオロギは目が少しうるんで頬がピンクに染まっている。酔ってるけど足どりはしっかりとしていて、店から距離を置くようにゆっくりと歩道を進んでいる。
この辺りはオフィス街と違い、高層ビルがなくて夜空が広い。物の影がやたら鮮明に見えるから、もしかしてと空を仰ぐと満月が輝いている。街は人工の光であふれ、暗闇がなくて気づきにくいけど月の光がとても明るい。
満月からコオロギへ目を移すと、月華のせいかコオロギの肌がいつもより白く見える。上着が光を柔らかく反射し、輪郭がぼやけてなんだか幻想的だ。
見とれて足が止まっていると、コオロギは店からどんどん離れていく。俺はあわてて追いかけた。
隣へ行くとコオロギは、ふぅ――っと大きく深呼吸してから、ぽつりぽつりと話しだした。
「ふだんは見えないんだけど……
ごくまれに、不思議なナニカを視ることがある……。
ホラー映画のようにヒトの姿をしてる『幽霊』とわかるような妖が、そこかしこに視えているわけじゃない。自分の場合は、煙というか靄というか、そんなモノが視える場合が多い。
靄は不自然なんだ。人の形状をしていたり、ボールみたいに球状で漂っていたりもする。共通しているのは、その場所に靄が発生するのは変だということ。だから妖と気づける」
ここまで話したコオロギは一呼吸おいた。そして宴会の席でのことを話し始めた。
「店内を眺めると全体に薄い白い靄が立ちこめていたんだ……。
見づらいと思いながらクラスメートに目を移していくと鬼面が目に入った。面は能で使われる仮面のように迫力のある表情をしてて、とても鮮明に視える。だから現実の物なのか妖系なのか、すぐに判断ができなかった。それで観察を始めた。
鬼面は半透明をしており、祭りの露店で売られている面とサイズは同じくらいだ。二人とも鬼面をかぶっているように見えたけど違っていた。
よく見ると面に紐などはなく、空中で静止している。その位置がちょうど顔の前にあるから鬼面をかぶっているように視えていたんだ。通常のお面ではないから、この時点で『鬼面』は妖系だとわかった。
半透明の鬼面のせいで、面と顔の表情が重なって二人の顔ははっきり見えない。でも笑い声が聞こえてて楽しげだ。それなのに面は般若のように怖い顔をしている。
雰囲気と面の表情がちぐはぐでね、鬼面は隠している感情が現れているように思えて気味が悪かった」
鬼面の話が終わると、続けざまに妖が視えるときの状況を教えてくれた。
「自分の場合は、暗がりや夜に妖と遭遇するんじゃなく、昼間や明るいときに体験することが多い。
ホラー映画のように幽霊が襲ってくるとかわかりやすい怪異はなく、むしろ周囲に溶けこんでいる感じで、妖とすぐに気づけないことが多い。
それに視る体験は年に数回しかないから、妖を視てもソレが妖なのかすぐに判断できない。観察して見間違いなのか妖なのか分析する必要があるんだ。そして最後は自分の感覚で判断しているよ」
話し終わったコオロギは黙ってしまった。
話の邪魔をしないように聞き役に徹していたけど、話している間、コオロギにいつもの人なつこい笑顔はなかった。気づいた俺は声をかけづらくなり、ずっと黙ったまま聞いていた。
コオロギは無言のまま夜道を歩き続けていて、なんだか気まずい。
「……なんで視えるんだろうねえ?」
コオロギがつぶやいた声は、諦めともとれるようなニュアンスがあった。ちらりと顔を見れば、心の底から不思議に思っているようで、コントロールできない異能にうんざりしているようにも見える……。
コオロギには予知能力があるかもという疑惑から始まり、妖から接触を受けるというカミングアウトで異能者と確定した。そしてこの鬼面事件で妖の類いを「視る」異能もあるとわかった。
コオロギがもつ異能に驚かされてばかりいるが、いつもは明るく流すのに、このときばかりは憂いのある表情を見せた。俺はふれてはいけないところに踏みこんでしまったのかと焦りがでた。
拒絶されてしまわないか不安に駆られたが、いつの間にかコオロギは人なつこい顔になっていて、「そろそろお店に戻らないとね」と明るい声で言い、Uターンした。
酒宴に戻ると、クラスメートの長老(一番年上なのでみんなから長老と呼ばれている)が俺を出迎えた。にやにやしながら肩に腕を回すと、声をひそめて聞いてきた。
「紫桃くん、コオロギちゃんに告白したの?」
辺りに目をやると、男性陣がちらちらとこっちを見て、にやにやしている。
こいつら……
俺がコオロギに告白したか、賭けをしてるのか?
酒の肴にされてたまるか。
「どうでしょう?」
俺はしれっと曖昧なことを言って口をつぐむと、連中は教えなさいよと騒ぎ始めた。毎度冷やかしてくるから、うんざりしていたけど、このときばかりは救われた……。
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