K-42【第12話】「かくれる」
第7区画は、急に静かになった。
いつも聞こえていた話し声も、本をめくる音も少ない。
みんな、何かを待っているみたいだった。
図書室の窓のない壁に、非常灯の赤い光だけが揺れている。
K-42は落ち着かず、何度も尻尾を触っていた。
「……調査って、何するんでしょう」
L-13は小さく息を吐く。
「アクセスログを確認したり…… 古い設備を調べたり……」
「第7区画、見つかりますか」
その質問には、すぐ答えが返ってこなかった。
代わりにC-2が口を開く。
「だから隠れるんだよ」
黒猫は棚の上から、K-42を見下ろしていた。
「ぼくら、昔からそうしてる」
「どうしてですか?」
「……昔、怖がられたから」
K-42は耳をぴくりと動かす。
怖がられる。
その言葉は、胸の奥に少し重く落ちた。
「ぼくら、人間に似すぎてるんだって」
C-2は淡々と言う。
「喋るし、歩くし、考えるし」
図書室の空気が静かになる。
K-42は自分の手を見る。
小さな白い手。
ペンを持てる手。
ボタンを押せる手。
「……だめなんでしょうか」
「分かんない」
C-2は尻尾を揺らす。
「でも人間って、“自分たちだけのもの”を結構大事にするから」
K-42は考え込む。
“人間らしさ”。
それを真似してきた。
歩き方も、
会釈も、
言葉も。
でも。
似れば似るほど、不安になる人もいるのかもしれない。
その時。
廊下の奥で、ガコン、と大きな音がした。
全員の動きが止まる。
C-2が顔を上げた。
「……誰かいる」
続いて、遠くから声が聞こえた。
「この先の設備、まだ電源生きてるぞ」
「点検記録残ってないのか?」
人間だ。
複数いる。
第7区画のみんなが一斉に緊張する。
L-13がすぐ立ち上がった。
「灯り消して」
ぱちん。
図書室が暗闇に沈む。
非常灯だけ。
赤い光の中、みんな静かに身を潜める。
K-42も本棚の影へ隠れた。
胸がどきどきする。
上の階では、隠れる必要なんてなかった。
なのに今は、見つかってはいけない気がする。
足音が近づく。
重たい靴音。
人間の声。
「この辺、古い資料室か?」
「いや……地図に載ってない」
K-42は息を止める。
暗闇の中、隣のL-13の赤い目だけが見えた。
その時。
図書室の扉の向こうで、懐中電灯の光が止まった。
