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K-42【第11話】「名前」

 第7区画には、たくさんの“番号”がいた。

 L-13。
 黒猫のC-2。
 カラスのR-11。

 みんな、番号で呼ばれていた。

 K-42はそれが少し気になっていた。

 図書室の机。

 K-42はノートを広げて、真剣な顔で考え込んでいる。

「……むずかしい」

 隣でL-13が本を閉じる。

「何してるの?」

「名前です」

「名前?」

「自分の呼び名…番号じゃないやつ」

 L-13は少し目を丸くした。

 K-42はノートを見せる。

 そこにはたくさんの文字が並んでいた。

  ソラ
  ユキ
  ミル
  シロ
  ココア

「本で見つけました」

「……最後ちょっと変じゃない?」

「おいしそうだったので」

 L-13が吹き出す。

 K-42は少し嬉しくなる。

 笑ってもらえると、なんとなく安心する。

「なんで急に名前?」

 K-42は少し考えてから答えた。

「番号って、仕事みたいだから」

「仕事?」

「呼ばれるための記号というか……」

 言葉を探しながら続ける。

「でも名前って、“その人”って感じがします」

 L-13は静かに聞いていた。

 K-42は最近、人間たちを観察して気づいたことがある。

 人間は、名前を呼ぶ時だけ少し声が違う。

 やわらかくなる。

 嬉しそうになる。

 怒っていても、名前を呼ぶ時だけ少し特別だった。

 だから。

 K-42も欲しくなった。

 “自分だけの呼ばれ方”が。

 その時、図書室の扉が開く。

 黒猫のC-2が入ってきた。

「何してんの?」

「名前考えてます」

「へえ」

 C-2は机のノートを見る。

「……ココア?」

「だめですか?」

「いや、お前っぽいけど」

「本当ですか?」

「なんか甘そう」

 K-42は少し困る。

 褒められたのか、よく分からない。

 するとL-13がぽつりと言った。

「K-42は、K-42っぽいけどね」

「え?」

「そのままでも」

 K-42は目をぱちぱちさせる。

「番号なのに?」

「うん」

「変じゃないですか?」

「変でもいいんじゃない」

 静かな声だった。

 でも、不思議と温かかった。

 K-42はノートを見る。

 たくさん並んだ名前。

 どれも素敵に見える。
 けれど、どれもしっくりこない。

 “自分”って、何なんだろう。


 その時だった。

  ピロリロリン♪ 

 K-42のポケットから音楽が鳴った。

 スマホを取り出して、開く。
 
 研究員からひとつのファイルが届いていた。

  音声メッセージ.mp3

 送信されたファイルをおもむろに開ける。

 するとスピーカーから大声が聞こえてきた。

「K-42!」

「わっ」

 珍しく慌てた様子だった。

「大変なの、」

「上の階で、第7区画のアクセス記録が見つかった…!」

「管理部がすでに調査を始めてるよ!」

 秒数を表すバーが一番右までたどり着いた。

 メッセージはここまでらしい。


 空気が変わる。

 C-2の耳が立つ。

「……誰か気づいた?」

 図書室が静まり返る。

 第7区画のみんなが、不安そうな顔をした。

 K-42はその空気を感じながら、そっとノートを閉じる。

 表紙には小さく、こう書いてあった。

 “名前候補”


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