2分で読める幻想短編①顔がある|日常異譚
みなさま。いつもありがとうございます🙇✨
懲りずに、また書いてしまいました。
ようこそ、「日常異譚」へ。
これは、どこにでもある毎日の中で起こる、少し不思議な出来事。
あなたのすぐ隣で、ひっそりと息づく幻想短編をお届けします。
【第一話】
そういえば、
今日はゴミの日だったかな。
俺はソファから、のろのろと起き上がった。
台所へ行き、流しに残った食器を片付ける。
飯も炊いとくか。
米びつを開けた。
すると、――え?
一粒の米に、顔があった。
子どもが落書きで書いたような、目と鼻と口。
その顔が俺を見上げ、パチンと一度まばたきをした。
……いやいやいや。
俺はふたを閉めた。
何だ。今の。
もう一度そっと開けると、
やっぱりいる。
目が合った。
「うわっ」
思わず、またふたを閉めた。
気持ち悪い。
どうする?
捨てる?
米を?
入れ物ごと?
俺は考えるのをやめて部屋を出た。
が、相談できる相手もいない。
コンビニで、おにぎりとお茶を買って帰る。
家賃が安いという理由だけで住んでいる、小さなアパート。
ソファに腰を下ろし、そっと台所の方を見る。
特に変わったことはなかった。
「大丈夫」
俺はそうつぶやいて、おにぎりを食べ、お茶を飲み、いつものようにスマホを見て寝た。
次の日も米を炊く気にはなれなかった。
のろのろと起き出し、
いつもと同じ通勤の道を駅へ向かう。
ホームは混雑していたが、みんなスマホの画面を見つめていて、そこに人がいるという気配はうすい。
会社に行く足取りは重かった。
最近、俺の周りの人間は、
みんな仕事が速くて確実な感じがするんだ。
AIとか、よく分からないテクノロジーを、
当たり前のように使いこなしている。
でも、俺はだめなんだ。
どう使えばいいか、どうしても分からない。
画面に並ぶ情報の多さに引いてしまう。
以前は違った。
自分の頭で考え、
自分で仕事を組み立て、
自分でコントロールできていた。
でも今は。
こうしてデスクの前に座っていても、
正直自分が何をしているのか分からない。
同僚の男が、「これ、いいですか?」と進捗を聞いてきた。
もういいのか悪いのかさえ分からなくて、俺は先手を打つように言ってしまう。
「大丈夫です。」
これ以上、俺に踏み込んでこないでくれ。
その時だった。
パソコンの画面の左上。
隅っこに、
あの、米についていた顔があった。
顔がある。
俺は固まった。
顔が、パチリとまばたきをした。
思わずカーソルを合わせ、
クリックしてしまう。
画面が一度だけ切り替わった。
メール一本が、
見事な文章に書き換えられ、送信された。
「‥‥‥え?」
もう一度クリックする。
今度は資料が完成していた。
もう一度。
今度は別の仕事が終わる。
画面が次々に切り替わる。
気づけば、俺の仕事は、
俺が何もしなくても、
完璧に処理されていた。
「大丈夫、大丈夫」
俺自身の声が、
頭の中で響く。
俺は定時にパソコンを閉じた。
業務終了。
結果オーライだ。
アパートに帰って米びつを開けてみると、
米の顔が20個ほどに増えていた。
俺はそれほど驚かなかった。
次の日も、
その次の日も、
俺はパソコンを開いては、「顔」をクリックした。
部屋の顔は少しずつ増えていった。
米だけではない。
壁にも天井にも現れた。
でも、それがなんだというのだ。
別に攻撃してくるわけでもない。
しゃべるわけでもない。
ただ無表情な顔があるだけ。
今日帰宅すると、
玄関のドアノブの横にも、小さな顔があった。
俺は靴を脱ぎながら、それを見ないようにする。
台所に行き、米びつを開ける。
中の米は、もうほとんどが顔になっていた。
「大丈夫」
誰に言うでもなく、そうつぶやいて電気を消す。
暗い部屋のあちこちで、無数の顔がこちらを向いている。
でも、問題はない。
仕事は終わっている。
二年後。
最近できた小さなパブで、
若い会社員が二人、しゃべっていた。
「最近さあ、いろんな人に『大丈夫』って言われることが増えたんだよ。
『大丈夫』って言われるとそれ以上は踏み込めないじゃん。
なんか、変なんだよな。
みんな無表情でさ。」
もう一人がグラスを置いて笑う。
「ま、いいんじゃないの?
別に俺らは困ってないし」

また、お立ち寄りいただけるとうれしいです🍒
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