2分で読めるショートショート②教育的配慮がすぎる|近未来譚
夏休み。
子どもたちは、首からIDタグを下げて学校へやってくる。
数年前から導入された「夏休み児童健全支援システム」のおかげだ。
ニュースではアナウンサーが晴れやかな顔で言っていた。
「親の負担を劇的に減らす画期的な教育的配慮です! これで夏休みのお昼ごはん問題も、子どもの学習遅れも完全に解決しました!」
エアコンが25度に保たれた教室で、
大型スクリーンに映し出されたAIの「先生」が微笑む。
『みなさん、おはようございます。今日のプログラムを開始します』
私は職員室のモニターで、時々その様子をチェックしている。
教員になって三年目。今日は夏休み当番の日。
12時になると「パーフェクト・フード」が配られる。
カロリーは計算済みだ。
アレルギーリスクゼロ、喉に詰まるリスクゼロ、栄養満点。
お母さんたちは
「夏休みに毎日メニューを考えなくていいなんて、夢みたい!」
と大絶賛していた。
休み時間に校庭に出ることは禁止されている。
『熱中症リスクおよび外傷リスクを回避するため』だ。
子どもたちは涼しい部屋で、安全にプログラミングされたVRの森を散歩する。
転んでも膝は擦りむかないし、泥で服が汚れて怒られることもない。
午後の授業は国語。
四年生がタブレットで「ごんぎつね」を読んでいる。
今の教科書では、兵十はごんを撃たない。
火縄銃なんてとんでもない。
ごんと仲良く握手をしてハッピーエンドだ。
『悲しい結末は子どもたちの精神衛生上、配慮が必要です』
一年生の子が、質問している。
「ねえ、そういえば担任の山下先生は?」
AI先生が爽やかに答えた。
『山下先生は本日、働き方改革推進規定に基づき、ワークライフバランスを推進中です。現場の業務はすべて個別最適化されていますので、ご安心ください』
画面に、山下先生がハワイアンシャツを着て、
「みんな、安全にね〜」
と手を振っているビデオメッセージが流れた。
私はアイスクリームを食べながら、昼下がりの職員室で一人呟く。
「あ、山下先生、仮想旅行か。いいなあ」
でも夏休み当番も今日で終わり。
8月後半はゆっくりできるように、前半に当番を詰めておいたんだ。
教員とはいえ、今は「教える」必要がない。
ただトラブルが起きないように、システムに任せて見守ることが一番の仕事だから。
15時。下校のアラートが鳴る。
『今日も安全に有意義な時間を過ごしましたね。明日も遅刻しないで来ましょう』とAI先生が手を振る。
ストレスフリーな一日が終わった。
子どもたちは楽しそうに下校。
保護者は仕事に集中し経済が回る。
明日から私も夏休みだ。
いいことばっかり。

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