「いいや、何も知らないよ。私はすごくない」|葬送のフリーレン
アニメ『葬送のフリーレン』の主人公であるエルフのフリーレンは、「人間の気持ちがわからない」というキャラクター設定になっている。
しかし、他の人の気持ちがわからないのは、何もエルフだけに限らない。
私たちにできるのは、大切に思う誰かをもっとわかりたいと思ったり、自分のことをわかってほしい、わかり合いたいと思ったりする、その感情のやり取りだけだ。
『葬送のフリーレン』では、エルフと人間を明確に描き分けることで、人間同士のあいだに存在する「わかり合えなさ」の輪郭を浮かび上がらせているように思う。
(「フリーレンはあなたのために、思い悩んでくれる」)
S2E31『好きな場所』では、ひょんなことから、シュタルクとフェルンはデートの約束をする。
しかしシュタルクは、フェルンと一緒にどこへ行けば、何をすれば彼女が喜ぶか、わからない。
そこでシュタルクは、フリーレンを頼る。
フリーレンとシュタルクの2人は、フェルンが好きそうな場所を下見する。
フリーレンいわく、フェルンは:
お腹が空くと機嫌が悪くなるから、まずは市場で何か食べさせた方がいい。
つまみ食いが好きだから、屋台は外せない。
アクセサリーのような綺麗なものが置いてあるお店も、きっと喜ぶだろう。
スイーツが好きだけど、気分によって好みが変わる。
フリーレンは歩きながら、フェルンの好きそうな場所や物について、すらすらとシュタルクに説明する。
最後に、物静かで見晴らしの良い広場まで案内してくれたフリーレンに、シュタルクは驚いたように「フェルンのことよく知ってんじゃねーか。すごいな、フリーレン」と言う。
しかしそこでフリーレンは、以下のように返す。
いいや、何も知らないよ。
私はすごくない。
すごいのは、ハイターなんだ。
ことあるごとにハイターは、フェルンの好みを話していたからね。
この言葉を字面だけで見たら、冷たいと受け止める人もいるかもしれない。
フリーレンが人の心を理解することを諦めている、あるいは突き放しているように聞こえるかもしれない。
でも私はこのフリーレンの言葉を聞いたとき、「フリーレンの心は、いつも開いている」と感じた。
これだけフェルンのことを知っていて、一緒に旅をし、生活を共にして、それでもまだ「何も知らない」と言うのは、「もっと知りたい」という思いの表れだと思ったからだ。
またときに、人の気持ちを「わかっている」と決めつけることは、その相手の声を奪うことにもつながりかねない。
フリーレンはさらに、以下のように続ける。
お腹が空くと不機嫌になるのも。
つまみ食いが好きなのも。
綺麗なものが好きなのも。
気分によって好みが変わるのも。
どれも全部、ハイターが教えてくれた。
こう話しながらも、フリーレンは気づいていない。
「ハイターが教えてくれた情報」はすでにフリーレン自身のものとなり、彼女自身の記憶や経験や感情と、強く結びついていることを。
フリーレンとハイターのつながり、ハイターとフェルンのつながり、そしてフリーレンとフェルンのつながり。
連鎖したすべてが、今は彼女の一部になっていることを。
フリーレンは、フェルンの好きなものを新しく見つけることができていないから、自分はハイターが望んだような親の役割を果たせていないのではないか、と言う。
このフリーレンの心の動きが、ひどく人間らしいと私は感じた。
多くの場合は人間も、自分の中の考えや感情について「どこまでが人から受け取ったもので、どこからが自分のものなのか」区別がつかない。
ほとんどの感情に名前はつけられないし、どの感情を原動力に、誰から教えてもらった方法で行動に移したのか、相手のためにやっているのか、自分のためにやっているのか、すべてを切り離して区別することはできない。
シュタルクは、このフリーレンの中の変化に直感的に気づいているように思う。
そしてフリーレンに、こう伝える。
でも、こうしてちゃんと覚えているじゃねーか。
フリーレンは多分、ちゃんと親をやれてるよ。
この言葉で、フリーレンは思い出すのだ。
旅に出てから初めてフェルンの誕生日を祝ったのも、今シュタルクと立っているような、物静かで見晴らしの良い場所だったことを。
それをフェルンが実際に喜び、フリーレンが贈った髪飾りを気に入ってくれたことを。
フリーレンとフェルンの間には確かな関係性があることを。
そしてフリーレンは、そのときにフェルンが言った言葉を、思い出していたかもしれない。
あなたが私を知ろうとしてくれたことが、
たまらなくうれしいのです。
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