コイする、ゲブる、ミスる、オビュる、とは?(「る」動詞ターム産科編)(面白医学用語集④)
はじめに
ディする、パニクる、ググる、バズる、といった類の、外来語の語幹に「る」の付いた「外来語動詞化」が無数に存在しますが、医療の現場においても、この手のタームが多用されています。前回、前々回の記事において、医療業界で使用されることのある計40の「る」動詞タームを紹介しました。
今回はその続編で、産科医療編です。産科というと、生命の誕生に関わる深淵で神秘的かつ未来志向の明る医療分野ですが、一方で、子どもが欲しいけど子どもを授かることができない病苦への対応(不妊治療)、逆に、望まない妊娠への対応(中絶処置)、さらには、妊娠・出産に伴う致死的な重篤な病態への救急対応が求められる非常にシビアな診療科でもあるのです。そんな産科にも、ディープな「外来語動詞化」タームがあまた存在し、今回は20語ほど取り上げます。
なお、今回も生成AI(Nano Banana2)に、記事イメージに合致する画像作成を依頼しました。まずは、詳細条件を一切付与せずに「インコる、グリる、シンコる、マロるとは?」の記事のイメージ画像作成を2回別個に発注したところ、2回とも、次のようなスレチなのが生成されちゃいました。これはこれで、記事内容とのギャップがオモロいイラストですが(笑)。次いで、各用語について解説情報を付加して再作成を発注したところ、冒頭に示した記事内容に合致するイラストを提示してくれました。


① プレグる
多くの女性にとって、「プレグる」ことが、産科医療機関の扉をあける最初のきっかけですよね。妊娠を意味する英語「pregnancy(プレグナンシー)」に由来し、妊娠することです。
② コイする
プレグるための夫婦の営みである、「仲良し」すなわち「コイする」ことです。ここでいうコイとは恋ではなく、ずばり性交です。性交を意味するラテン語である「coitus(コイトゥス / コイタス)」に由来しますが、セックスとか性交とかの表現は生々しいので、産科の現場では「コイ」という隠語が用いられています。
③ ロムる
産科の現場で「破水する」、あるいは「破水が起きている」状態を意味します。破水のことを英語では「Rupture of Membranes(卵膜腔の破裂)」といい、略してROM(ロム)と表現することに由来します。
④ ゲブる
参考までに、Geminiで検索したところ、「産科の現場で「ゲブる」とは、妊婦さんが嘔吐(おうと)することを意味する医療スラングです。出産時や陣痛の最中によく使われます。」なんて回答を吐き出してきましたが、これ、大嘘(誤り)です。言葉の響きは似ていますが、ゲボる(吐く)ことと「ゲブる」は無関係です。出産を意味するドイツ語「Geburt(ゲブールト)」が語源で、出産のことを「ゲブる」と表現します。
⑤ ミスる
日常用語ではミスというと失敗を意味しますが、産科医療では全く別の意味で持いられます。流産を意味する英語「miscarriage(ミスカレッジ)」に由来し、流産してしまうことを指して表現されます。何度も流産を繰り返して号泣・落胆している女性を前にして、「ミスる」という隠語は絶対禁句です。
⑥ アボる
避妊にミスって(?)妊娠した場合に、産科を受診して受ける処置を「アボる」といいます。中絶を意味する英語「abortion(アボーション)」に由来します。
⑦ メノポる
女性が閉経を迎えることを「メノポる」といいます。閉経を意味する英語「menopause (メノポーズ)」に由来する表現です。
⑧ エクトる
ここからは、産科における病的事象に関連する言葉を幾つか紹介します。「エクトる」とは子宮外妊娠(異所性妊娠)が起きていることを意味しますが、英語の「Ectopic pregnancy(エクトピック プレグナンシー)」が語源です。
⑨ バキュる
バキュームカーみたいな響き、あるいはバギューンと発砲する擬音語がイメージされやすいですが、バキュームすること、すなわち「吸引すること」を意味する用語です。産科の現場では、吸引分娩のことを指します。吸引分娩とは、お産の途中で何らかのトラブルが起き、自力での出産が難しくなった際に、赤ちゃんの頭にシリコンや金属製のカップを吸着させて引き出す医療行為で、英語では「Vacuum extraction」と表現します。
⑩ アトる
陣痛促進剤の製品名「アトニン」から派生した古いスラングです。陣痛が弱くて出産が進まないときに、陣痛促進剤を投与して陣痛を人工的に起こす・強めることを意味します。
⑪ アトニる
「アトニる」とは、出産後に「子宮弛緩症」が起きている、または子宮の収縮が非常に悪いという意味で使われます。英語で「子宮弛緩」を意味する 「Uterine atony(ユータリン アトニー)」 が語源で、出産後の大出血につながる、警戒すべき危険な病態です。
言葉や響きは似てますが、出産「前」に、陣痛が弱いために陣痛促進剤(アトニン)を投与する「アトる」と、出産「後」に、子宮が緩んで大出血を起こしそう(子宮弛緩症)な状態で子宮収縮剤を投与すべき「アトニる」ことは、似て非なる語彙なので注意が必要です。
⑫ アブラる
胎盤早期剥離(早剥)は、赤ちゃんが生まれる前に胎盤が剥がれてしまう、一分一秒を争う超緊急事態ですが、早剥が生じることを「アブラる」と言います。日本語の「油」とは全く無関係の言葉で、早剥を意味する英語「placental abruption (プラセンタル アブラプション)」に由来します。
⑬ ファーティる
ここからは、不妊治療(生殖医療)の現場で用いられる言葉を幾つか紹介します。「ファーティる」とは、「受精させる」、あるいは「卵子が受精した(受精が確認できた)」という意味で使われる用語です。「受精(受胎)」を意味する英語 「Fertilization(ファーティライゼーション)」に由来します。
⑭ エジャる
男性が精子を放出する行為、いわゆる射精することを「エジャる」といいます。射精を意味する学術的英語「ejaculation (エジャキュレーション)」が語源です。
⑮ エレクる
泌尿器科や産科、不妊治療の現場において、「陰茎が勃起する」という意味で使われる用語です。勃起を意味する英語「Erection(エレクション)」に由来します。男性不妊の治療対象となるED(勃起不全)は、Erectile dysfunctionの略です。
⑯ オビュる
男性が精子を放出する行為である射精の擬音語「ドピュっ」の対義的であるところの、女性の卵巣から卵子が放出される排卵のことを「オビュ」と言うことがあります。ただし、こちらは擬音語ではなく、排卵を意味する英語「ovulation (オビュレーション)」が語源です。自然排卵だけでなく、排卵誘発剤を用いた誘発もありますが、ともあれ排卵することを「オビュる」と表現します。
⑰ プンクる
卵巣を穿刺して採卵することを、「プンクる」といいます。穿刺(針を刺すこと)を意味するドイツ語・英語の「Puncture(プンクチュール、パンクチャー)」に由来します。
⑱ イクシる
不妊治療(生殖医療)の現場において、「顕微授精を行う」という意味です。顕微授精の学術用語がIntracytoplasmic sperm injection(卵細胞質内精子注入法)であり、その頭文字「ICSI(イクシー)」に由来します。なお、顕微授精することを、「ピィクる」と表現するクリニックもありますが、こちらの語源については、針で卵子を突くこと(Pickピック)と、精子選別技術(PIXSIピクシー)の両説があります。
⑲ エンブる
不妊治療(生殖医療)の現場において、「受精卵(胚)を子宮に移植する(胚移植を行う)」ことを意味します。受精卵(胚)を意味する「Embryo(エンブリオ)」 が語源です。
⑳ インプる
産科、不妊治療の現場において、「着床すること」を意味します。着床を意味する「implantation (インプランテーション)」に由来します。着床までたどり着けば、狭義の生殖医療はひとまず成功で、胎盤が発育し、胎児が無事発達していくことを期待します。
おわりに
以上、産科領域の「る」動詞タームを20語紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。産科や不妊クリニックに通う患者さんで、医師やスタッフから発せられる隠語が気になっている方には、参考になると思います。また、医療小説や医療ドラマの脚本づくりのネタになるはずなので、ご活用くだされ。次回は、産科とは違った意味でディープな診療科である精神科領域の「る」動詞タームを紹介します。
