「やる気出せ!気合い入れろ!」号令で動かそうとする経営者が、知らぬ間に殺している"内側の火"〜
「もっと本気でやろう」「もっと真剣にやろう」
「やる気のない者はいらない」
業績が落ち始めたとき、こう号令をかけた経営者の方を、私は何人も見てきました。
正直なところ、その気持ちはよくわかります。
数字が落ちる。
焦る。
なんとかしたい。
社員の顔を見ると、どうにも熱量が足りないように感じる。
だからつい、強い言葉が出てしまう。
でも、不思議なことが起きるのです。
号令をかければかけるほど、現場は静かになっていく。
会議で発言が減る。
「とりあえずやっておきます」が増える。
提案の中身が、どんどん薄くなっていく。
経営者はさらに焦ります。
「なぜわからないんだ」と。
そしてもう一段、号令を強めます。
ある支援先で、こんな場面に立ち会ったことがあります。
社長が朝礼で「今期は背水の陣だ」と檄を飛ばしました。
熱意のこもった、本気の言葉でした。
でも、朝礼が終わった直後、廊下で若手社員が私に向けてこう漏らしたのです。
「で、何をやればいいんですかね・・・」
何気なく朝礼を聞いていたものの、ハッとしました。。。
号令というのは、よく考えると不思議なものです。
「やる気を出せ」という言葉に、やる気を引き出す成分は、ひとつも入っていません。
入っているのは「お前は今、足りていない」というメッセージだけです。
受け取った側はどう感じるでしょうか。
「自分は信頼されていない」と感じるはずです。
そして、人は信頼されていない場所では、本気を出せません。
では、やる気とはどこから来るのでしょうか。
私はずっと、これは「内側からしか湧かないもの」だと感じてきました。
外から与えようとした瞬間に、それは別の何かに変質してしまう。
報酬で釣れば、報酬がなくなった瞬間に止まる。
恐怖で動かせば、見られていない場所では動かなくなる。
号令で奮い立たせれば、号令が途切れた瞬間に冷める。
では、内側の火は、どうやって灯るのでしょうか。
私が現場で何度も目撃してきたのは、「自分で問いを立てた瞬間」でした。
ある製造業のワークショップでのことです。
最初、メンバーから出てくるアイデアは、数個でした。
でも、ファシリテーターが「指摘」ではなく「問い」で関わり続けた結果、終盤には30以上の案が出てきました。
しかも、普段の自分たちでは絶対に出てこないような、地に足のついた、顧客目線の案ばかりだったのです。
あのとき、メンバーの目は明らかに変わっていました。
誰も号令などかけていません。
ただ「あなたの担当する顧客は、本当は何を成し遂げたいんでしょうね」と問いかけられただけです。
その問いが、内側の何かに火をつけた。
私はそう感じました。
号令と問いの違いは、どこにあるのでしょうか。
号令は「答え」を押しつけます。
問いは「考える余白」を渡します。
号令は「お前は足りない」と伝えます。
問いは「あなたの中に何かある」と伝えます。
人が動くのは、後者なのではないでしょうか。
正直なところ、私自身、過去に号令側にいたことがあります。
数字が見えなくなると、つい強い言葉が出ました。
でも、振り返るたびに思います。
あの号令で、いったい誰の何が動いたのだろうか、と。
動いたのは、たぶん私自身の不安だけでした。
「何かを言った」という事実が、私を少し安心させていただけでした。
経営者の仕事は、火をつけることだと、よく言われます。
でも、本当にそうでしょうか。
火は、つけるものではなく、灯るものではないでしょうか。
経営者にできるのは、灯りやすい環境を作ることだけだと、最近は思うようになりました。
「なぜ、この仕事をやるのか」
この問いを、現場が自分で立てられる状況を作ること。
それ以上のことは、たぶんできません。
号令をやめたら、現場が動かなくなるのではないか。
そう不安に思う経営者の方は、たぶん多いと思います。
私もそうでした。
でも、号令で動いている現場は、号令を止めれば止まるのです。
号令で動いていない現場こそが、本当に動いている現場なのではないでしょうか。
明日、現場に「やる気を出せ」と言いそうになったら、一呼吸おいてみてください。
そして、その言葉を「あなたなら、ここをどう考える?」に置き換えてみてください。
最初は、返事が返ってこないかもしれません。
でも、その沈黙の中で、内側の火がゆっくり灯り始めているはずです。
号令の声が小さくなったとき、現場の声は、たぶん大きくなります。
まとめ
「やる気を出せ」という号令には、やる気を引き出す成分はひとつも含まれていません
号令は「お前は足りない」というメッセージとして届き、内側の火を確実に消していきます
モチベーションは外から与えるものではなく、内側からしか湧かない経営資源です
内側の火が灯るのは、答えを与えられたときではなく、自分で問いを立てたときです
経営者の仕事は火をつけることではなく、火が灯りやすい問いの環境を作ることだと感じています
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