【恋愛小説】RØM3Ø & JUL13T (4)
キャピュレット夫人と乳母が部屋から出てきた。
「乳母さん、ジュリエットはどこにいるの? 呼んで来てちょうだい。」
ジュリエットはキャピュレット卿の一人娘であり、乳母はジュリエットの教育係である。
「奥様、ええ、誓って言いますが、ちゃんとお呼びしたんですけどねぇ。……もしもし、羊さん! もしもし、姫鳥さん!……あの子はどこへ行ったのかしら?…… もしもし、ジュリエット様!」
「何? 誰が呼んでいるの?」
「奥様がお呼びですよ。」
「はい、お母様。何かご用ですか?」
ジュリエットは急ぐでもなく部屋から出てきた。
「ジュリエット、あなたも、もうそろそろ結婚適齢期です。そうですね、乳母さん」
「ええ、承知しておりますとも。お嬢様の年齢なら……13」
「そう、まだ14サイクルにはなっていません。」
キャピュレット夫人は言い終わるのを待たずに発言する。
「その通りでございます。もうすぐ、お誕生」
「そう、誕生日は二週間と少しです。」
キャピュレット夫人は、また、言い終わるのを待たずに発言する。
「あと、何秒、いえ何ミリ秒でしょう。待ち遠しいことです。今年で14サイクルですね。あれから、もう11サイクル目……鳩小屋の壁際で日向ぼっこをしていた時です。旦那様と奥様がマンチュアに滞在していらっしゃった時に。ええ、ちゃんと覚えていますよ。ジュリエット様が大切にされていた人形がないと言いだし、ベソかきながらお探しになられて。人形の自動帰巣モードをONにしておくように申し上げているのに、なぜかいつもOFFにしてしまうんですよね。しばらくしてお人形が見つかって、本当に喜んでおられました。あら、転んだ。お怪我はありませんかとお声がけしたら、ベソかきながら、私じゃなくてお人形さんが転んだのとおっしゃって。とても可愛らしいことです。……あれからもう11サイクルになるのですね。ふふふ……。」
「な、長い。もういいわ、もういいの。お黙りなさい。」
キャピュレット夫人は話を遮るタイミングを見失っていた。
「はい、わかりました。ふふふ。修理スプレーをおかけしようとしたら、私じゃなくてお人形さんにとおっしゃって。スプレーを人形にかけて、はい、修理は、お終いと言ったら、私にもと額を差し出されて。転んだのはお人形さんでは?と言ったら、洗浄液を眼に貯めながら、そうだけど、そうじゃないのとおっしゃられて。ふふふ。」
「ばあや、も、もうやめてよ、お願いだから……。」
その顔は感情反映システムによって真っ赤になっていた。
「はい、はい、乳母は黙りますよ。たくさんのお子様をお育てしましたが、あなた様は一番可愛らしいお子様でした。本当に、ご結婚を見ることができるのですね。」
「そうそう、その結婚の話をしようとしたのよ。ジュリエット、そもそも結婚したいのかしら? どうなの?」
ため息をつきながらも、ジュリエットの眼を見つめながら質問する。
「いつかは結婚したいとは思いますが、いえ、私はまだ夢にも思っていません。」
自分とは、まるで関係ない事のように答える。
「ならば、今、よく考えるのです。
あなたより年下でも母親になった者もいます。
私も、今思えば、あなたと同じくらいのサイクルで嫁入りして、あなたを生産しました。
もう言ってしまいますが、あのパリス殿が、あなたと結婚したいとおっしゃっているのよ。」
「ま、あのパリス様が! ジュリエット様、世界中の女性モデルが注目している、あの男性ですよ。本当に奇麗な、蝋細工のような。」
乳母は、まるで自分の縁談であるかのように目を輝かせている。
「このヴェローナでも、あの様な花は咲かないわ。」
「奥様のおっしゃる通りでございます。」
「今宵の宴にはパリス殿もお越しの予定です。パリス殿という美しい本をよく読み、美しい絵画を味わいなさい。
顔のどこも釣り合いが良く取れて、何一つ不足はありません。外見だけではありませんよ。あの方の眼を見てみなさい。その内面がよくわかるはずです。
しかし、その本はまだ完成されていないのですよ。表紙は仮のもの、美しいが綴じてはいない。魚はまだ釣られずに泳いでいる。
その装いもまた、この上なく素晴らしいお方ですよ。嫁入りすれば、その全てがあなたのものとなるのです。一体、あなたに何の損があるというのです。」
「損どころか、得することしかございませんね。」
「さあ、答えなさい。少しはパリス殿に興味が出てきましたか?」
「そこまでおっしゃるなら、興味をもって見てみましょう。見るだけでいいのなら。」
抵抗しても無駄だと思って投げやりに答える。
「奥様、お客様がお見えになりました。宴の準備も整いましたので、お急ぎくださいませ。」
使用人が現れキャピュレット夫人に報告する。
「わかりました。 ジュリエット、さあ、パリス殿がお待ちですよ。」
軽く手を叩いて行動を促す。
「ジュリエット様、がんばって。」
乳母は、浮かない顔のジュリエットの背中を強めに叩いた。
続く
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