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【畏怖】第一部/二話:「なんでも解決できるとオオモイカネ?」


前回までのあらすじ(一話からの続き)

地上と天界が交差する世界。地上に暮らすアヤカは、神々が共同生活する「天神シェアハウス」で静かな日常を送っていた。ある朝、突如として太陽神・天照大神(アマテル)が勝手に降臨して"休暇宣言"をするという前代未聞の事件が発生する。
アマテルは天界の激務とトラブルに疲れ果て、愚痴をこぼしながらもアヤカの元で癒やしを求めていた。主神であるアマテルが逃避したことで、世界の秩序にまで影響が出かねない事態に。
こうして、「勝手に地上降臨」してしまった太陽神と、それに振り回されるアヤカとシェアハウスの神たち。一方その頃、天界では緊急事態に直面していた。まさにこれから起こる事態に、頭を抱えた神々が臨時会議を開くのであった。


「なんでも解決できるとオオモイカネ?」


< 静寂と書斎、そして緊急連絡 >

 夜明け前の天界は、今日も静かだ。

 オモイカネ(=思金神)は、お気に入りの書斎にこもり静かに本を読んでいた。夜も明けきらないこの時間は、誰にも邪魔されず思考を深められる貴重なひとときだ。

 ──ピピッ〜!。

 静寂を破ったのは、大臣専用の通信端末だった。
「……こんな時間にメッセージ?」

 表示された発信者は「運輸大臣・Ameno(=天鳥船あめのとりふね)」──個人的な連絡ではない。何か起きたに間違いない。

 短い文面が端末に表示された。

《主神・リンク切断:4時35分》
《テンイ・可能性:92パーセント》

 これがAmenoの通信だ。いつも通りのロボットらしい簡潔さだ。しかし、その内容はシンプルなものではなかった。

「……転移? 転送ではなくか?」
(しかもリンク切断?)

 天界における"アメノネット"の神リンクは自動同期。切断となれば、それは明確な意思による拒否だ。

 そんなこと、あり得るのか?
 思考が追いつかないまま、オモイカネは立ち上がった。服を着替えながら、すぐさま各大臣に緊急連絡を入れ、招集をかけた。

 臨時閣議が開かれる「あかつきの神殿」へ向かう道中、オモイカネは報告を受けた。

『天候庁、非常事態マニュアル発令』
 ──やはり現場は混乱しているらしい。

 オモイカネは覚悟を決めた。
 静かな時間は、突然の非常モードに塗り替えられた。


< 神でも太陽は創れない >

──早朝5時30分ごろ/暁の神殿・閣議室──

 やはり、天照は姿を消したようだ。

 閣議室・中央の大型モニターには、詳細なデータが表示されていた。オモイカネは、Amenoから提供された正確なデータを見て唖然とする。データを見つめながら、オモイカネは独りごちる。

 周囲の大臣たちも神妙な面持ちでデータを見ている。

【臨時閣議メンバー】
 国務大臣 オモイカネさん(=思金神)
 外務大臣 アマノイワー(=天石門別神あまのいわと
 労働大臣 おかめちゃん(=天鈿女命アメノウズメ
 農林水産大臣 トヨ殿(=豊受大神トヨウケビメ
 防衛大臣 ハチマン(=八幡やはた
 天候庁の風神(代理出席)他、政府職員・補佐など数名が招集。

「主神がいなくなるなんて……縁起でもない」
「これじゃ、本当の神隠しじゃないか?」

 若手職員たちの声が漏れ聞こえた。
 オモイカネは聞き流しながら、気持ちを引き締めた。

 ついに来てしまったか、あの悪夢が……。
 そんな緊迫した空気のなか、重々しく口を開く。

「まさか二度目があるとは……だが、居場所がわからんことには、どうにもならん」

 アマノイワーが端末を確認しながら質問した。
「転送ではなく転移なの? それでリンクも断絶状態なのね……ということは、追跡不能ってことよね?」

 その言葉に、誰もが黙り込んだ。

 トヨ殿が、ゆるく笑いながら扇子で口元を隠した。
「でも、カネさま。天候の操作は、お得意なんでしょ?」どこか艶を含んだ声が、室内の空気をかすかに揺らす。

「あぁ、天候は問題ない。それより"太陽神・エネルギー"が無い方が問題じゃ」オモイカネはそう言って、大型モニターのグラフを指し示した。普段は乱雑な波形を見せるエネルギーフローが、まるで死んだように沈黙していた。

「神は光さえあれば問題ないが……生命にとってエネルギーは重要だ」

 太陽は"ただの光"ではない。
 重く静かな空気が流れる。

「あの時は地上が真っ暗になって、大変だったからね……」
 アマノイワーが思い出したかのようにため息をつく。

「あんなに踊ったの初めてよ〜。今なら絶対、動画が拡散されちゃう〜」
 おかめちゃんの明るい笑いが室内に響いた。

 ──アメノウズメの舞。
 オモイカネは、二人の言葉であの時の舞を思い出した。それに爆笑する神々。若気の至りといえばそれまでだが、今なら炎上不可避だろう。政治スキャンダルなんて洒落にならん。

 その軽い空気を引き締めたのは、ハチマンだった。
「オモイカネよ、太陽神がいない場合、生命はどのくらい耐えられるんだ?」武人らしい"低い声"でオモイカネへ質問する。

 オモイカネはすぐに答えた。
「個体や種族によっても違うが、もって数週間じゃ」

 オモイカネの耳に、室内の空気が静まり返ったように感じられた。
「ここ数世紀の近代化でも、太陽神・エネルギーの代替には、まだ至っておらん」
「じゃが、太陽の件はすぐにでも打開する必要があるのう」

 笑いながらおかめちゃんが軽口を叩く。
「私たち神なのに、太陽って造れないのよねぇ〜(笑)」

 オモイカネが強い声でツッコミを入れた。
「笑い事ではないわぃ!」──たしかに神々は万能ではない。多くは役割に特化して生まれた存在だ。万能神はイザナギや造化三神のようなごく一部の先代たちだけ……。だからこそ、新世代の神政では、近代化を進めてきた。

「すべての神が万能ではないからのう」

 ハチマンが頷く。
「なるほど──だが、進化しても変えられぬ"モノ"もある、か」


< 閣議決定と請求書 >

──時刻6時00分──

 そのとき、AIアナウンスが時刻を告げた。
 室内の空気がさらに引き締まった。

「……時間もそうないわい。では、まず第一の閣議決定といこう」
 オモイカネは深呼吸し、提案を読み上げた。

【オモイカネの緊急プラン】
 1 エネルギーの代替として「熱」を供給する。
 2 気候庁へ"竈三柱神かまどみはしら"を派遣、熱力の供給を24時間体制にする。
 3 竈神には政府から臨時手当の支給と請求にも全て応じる。
 4 地上への"光の演出"はホログラム技術で偽装して補完する。
 5 混乱を避けるため、一週間は「曇天:MAX」の天候設定にする。

 淡々と読み上げた。
 ──あの時と同じように、これでもベストを尽くしたつもりだ。内心で納得させるように、自分に言い聞かせた。

 オモイカネは、大臣たちが端末を確認し、順に首を縦に振る様子を目にした。

「では、決定じゃ」
 オモイカネは風神に耳打ちし、静かに頷いた。風神は一礼して退出していく。反応の速さはさすがだった。

「とはいえ、カグツチ殿がいないのが、ちと痛いのぅ〜」
 トヨ殿が扇子をあおぎながら、半ば独り言のように言った。

 オモイカネはそれを聞きながら答える。
「カグツチはもうおらが、他のお二人方がフル稼働でもアマテルの10分の1程度じゃろう」

 竈三柱神──カグツチを含む火の三柱だが、カグツチは黄泉にいて天界にはいない。オモイカネは、日射影響の少ない「曇天」と最低限の「熱」で一週間の猶予を得る作戦だ。

「竈の火とはいえ、24時間フル稼働で働かせるとは……ブラックじゃのぅ〜」トヨ殿がニヤつきながら呟いた。
 その口調は、オモイカネには冗談とも本気とも判断がつかなかった。
「やれやれ、それだけの熱力では、わらわの農作物たちも心配じゃのぅ」そう続けるトヨ殿に、オモイカネは即座に返す。

「そこは、安心せぇ。天候庁が24時間サポートをする」

 それが可能なように、気候庁の予算はオモイカネがかつて手掛けた部局の一つ。接待──いや、VIP待遇の準備も含めて、すでに伝えてある。内部事情も、運用方法も熟知していた。

「まぁ、何か被害があったら、請求を送るでのぉ〜」
 トヨ殿が視線を向けた。オモイカネはそれを聞き、「ふん」と顔を背けた。自分の中に少し照れくさい気配を感じた。空気が、ほんのわずかに緩んだような気がした。

 しかし、根本は、まだ解決されていない。
 これが一時しのぎに過ぎぬことは承知している。だが、やらねばならぬ。それが、この時代の"知恵の神"の務めなのだ。


── つづく ──



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