心配ごとの九割は、後部座席で起こらない 第3話 (連載AIマンガ・一部手描き・実話)




——数日後、雪の日。
藤森さんのシビックで健康診断へ向かう。
たかが健康診断、されど健康診断。
結果が悪ければ再検査、改善されなければ不採用もある。
2回目からは自己負担だ。
血圧に不安のあったオレは、2週間前からタマネギを主食のように食べ、借り物の血圧計でまめに計測していた。
エイズ検査まであるという、映画『アルマゲドン』では肛門の検査までしていたなあ。
コンフォートで空を飛ぶことはないハズだからパンツをおろす系はないと思うが、油断はできない。
「今日は勝負パンツだったかな?」と身震いする。
刺青の有無も確認される。
ドライバー志願者は、健康で健全であることが絶対条件なのだ。
車中、藤森さんが打ち明けた。
「私、家に帰る事のできない立場ですからねえ。いろんな人に追われているんですよ」。
目の下にクマ。
最後に関わった建築でトラブり、億単位の金を動かしていた男がタクシーの運転手。
「ええ、いい思い、しましたねえ……」と遠い目をする。
不況のせいで、社長の冠をかぶった事のある志願者は多い。
だが前職のプライドを捨てきれない人は勤まらない。
年下の客に怒鳴られて、去っていくのだ。俺はどうだろう?
大沢病院。ひび割れた外壁のコーキングが血管を連想させる。
「雪だ!」と若い看護士さんの無邪気な声。
検査は順調。
「普段高めでしたら、計る前に深呼吸してくださいね」のアドバイスで血圧も正常値。タマネギよ、ありがとう。
最後は血液検査。
「血管が細いですねえ」
「はい、身体は思いっきり太いんですけどねえ」
「……」。
冗談が通じない。
だが看護士さんの腕は確かで、ほとんど見えない静脈に一発、しかも痛くない。
——上着を持って廊下に出た瞬間。
「どうしたんですか! 宇佐美さん!」
藤森さんが指さす先、俺のワイシャツの袖が真っ赤に染まっていた。肘から先がてかる程ぐっしょり。バンドエイドがめくれ、小さな穴から血が噴き出していたのだ。
「あびたこぼんちゅらえったかどっこい!」
言葉にならない声が出た。
場外乱闘で大流血の様相である。
だが看護士さんは「あらあら」と穏やかに処置し、「すぐに洗わないと、血は落ちにくくなりますよ」と片袖をアルコールで洗ってくれた。小さな背中は、やはりプロだった。
末尾の返し
「心配してた血圧は、タマネギが解決した。
起こったのは、心配してへんかった大流血やった。
……そしてそれも、プロの手であっという間に片づいた。
心配の的は、いつも外れる」
#noteで読めるマンガ
受講生様のnoteです。
