見出し画像

べらぼう22話『小生、酒上不埒にて』春町の復活と皮肉文字

べらぼう22話、『小生、酒上不埒(さけのうえのふらち)にて』。

恋川春町が復活するまでのストーリー、泣けましたね。まさか屁っぴり芸を感動しながら見ることになるとは…!
史実の春町作『廓𦽳費字盡(さとのばかむらむだじづくし)』についても、今回もモリモリっと感想・考察していきます♪

◎前回21話、『蝦夷桜上野屁音』の感想・考察はこちら。山東京伝(北尾政演)に嫉妬して大暴れ。そこからの屁尽くしの狂歌の大宴会を、狂歌を紐解きながら感想・考察していますよ!


自分の才能はえてして自分では気づかない

前回、歌麿大明神会と称する歌麿の名を売る会で、酔っぱらって山東京伝や大田南畝、朋誠堂喜三二に皮肉いっぱいの狂歌を投げつけ暴れた恋川春町。

新人ながら大田南畝の青本ランキング「岡目八目」で一等をとった山東京伝に嫉妬して、筆を折ると言って家に閉じこもってしまいました。

歌麿が気にして蔦重に様子を見に行ったほうがいいと勧めますが、面白いのは蔦重には春町先生の悩みがいまいちピンと来ていないというところ。あくまで蔦重は版元であり、編集者、ビジネスマンであって、《自らの作品を世に出して批評される立場》ではないからでしょうか。

「あのこと(宴会での暴言)を気にしてらっしゃるなら大事ねえですよ」
「青本が元ネタひっぱってくるのは当たり前。盗人呼ばわりされちゃ、政演もかわいそうだと思いますよ」
「南畝先生も評判記は戯れに始めたお遊びだって言ってるんですから、ただの遊びにそうカッカしなくても」

わかってないなあ~、蔦重。
今まで、花魁も真っ青の手練手管でいろんな人の心をつかんできた蔦重にしては、ちょっと的外れ。ビジネスシーンでは活きる「利を説く術」は得意でも、作家のメンタル面のサポートは不得手ということですね。

たった一人、座敷で「屁の中に屍と書いてひとり」なんて文字をうじうじ書いている人にこんな正論ぶつけたら、かえって「こんなつまらないことを気にしている自分が悪いということか…」ともっとこじらせてしまうだけです。

そこで登場したのが、歌麿と喜三二

歌麿は以前から春町の絵を「なんとも言えねぇ味があって好きさ」と言っていた、つまり春町先生のファン

喜三二は春町の親友で、今までも喜三二作・春町画で本を出してきた仲。公私共に幾重にも付き合いが深いコンビです。

さらに歌麿も喜三二も同じクリエイターとして、春町の悩みが分かるからこそ、ビジネスを超えて春町を心から心配し、その才を惜しんで言葉を尽くします。

歌麿「俺は春町先生の絵、好きですよ。うまい下手じゃなく好きです」
喜三二「みんなお前のやるこた好きなんだよ、面白えから真似したくなるんだよ。筆を折るなんて言うなよ、俺は寂しくてならねぇよ」

まるで天岩戸から天照大神に出て来てもらおうと一生懸命になる神々のよう。踊る代わりに言葉を尽くして、春町の固くなった心を解きほぐします。

このシーンの歌麿も喜三二も、本当に優しくて心がこもっていて温かくてよかった。こんな友やファンを持っている春町はなんと幸せかと思いますよね。

人は自分の才能にはえてして気づかない。
ついつい他人と比べて自分を卑下して、自分にないところにばかり目を向けていじけてしまう。自分にできることは当たり前だと思っているので、その素晴らしさがわからないのです。

歌麿「『御存』には化け物がいなかったから寂しかった」
喜三二「わかるぞ!あいつらがいたからよかったのに!」

歌麿と喜三二が声をあげて必死になって自分を励ましてくれることで、春町は自分の感情が受け入れられたと感じ、ようやく冷静になれたのでしょう。

そして春町は、蔦重の「皮肉屋の春町」という売り出しに応じて、オリジナルの創作漢字をメインに新作を書くことにしました。

この取材のシーンも良かったですよね~。ドラマでは堅物設定の春町が、吉原へ出かけて遊女や女将さんたちに取材する。そこに次々書きつけられていくのは、一文字でその情景が広がる皮肉の効いたとびきりの創作漢字!

ドラマでも紹介されていましたが、この春町先生の新たな新境地『廓𦽳費字盡(さとのばかむらむだじづくし)』とは、さてどんな作品だったのでしょうか?


春町作『廓𦽳費字盡』とは?

蔦重が往来物を出すことにした17話の記事でも少し書いていましたが、『廓𦽳費字盡』とは往来物のもじり。

往来物とは、手習所(寺子屋)で学ぶ初級教科書のことで、中でも有名なもののひとつが『小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)』という本。

上記のように、偏やつくりが同じものなど覚えやすいように並べて、歌にして暗記できるような文句が左に書かれています。

たとえば一番右、1行目「休(やすむ)伏(ふす)伸(のぶる)任(まかす)件(くだん)」という字。
左側には「きはやすむ、いぬはふす、さるはのぶる、みずのへまかす、うしはくだんよ」

これを歌うように読んで漢字を覚えていたのですね。

で、これをパロディーにしたのが、春町作の『廓𦽳費字盡』。タイトルも「おののたかむらうたじづくし」をもじって「さとのばかむらむだじづくし」。なんともうまい!

「廓(さと)」とは、吉原遊郭のこと。むだじとは無用の字、ということ。吉原にひっかけておバカな文字を作って遊んでみたよ、という感じでしょうか。


これがその『廓𦽳費字盡』の中の1ページ。ドラマでも出て来ていましたよね。このシーンは、なんと吉原の大門近くにある蔦重の本屋の前を描いているのです。左上に蔦重のロゴマークがあるのが見えますでしょうか。

そして大門にちなんで、門構えの漢字が右側に並んでいます。

「門構えに笠と書いて忍」「門構えに絵本と書いて本問屋(ほんといや)」「門構えに禿とかいてつける」「門構えに駕籠と書いて医者さん」

そしてその左側には本家の『小野篁歌字尽』よろしく、
「しのぶかさ えほんがほんといや かぶろがつける かごがいしやさん」
と覚え歌のように書いてあってこれが解説になっています。

私が分かる範囲で少し説明をすると、

⓵「門構えに笠と書いて忍」
当時は武士など身分の高い人は吉原へ行くときは人目を忍んで笠をかぶっていくことが多かったことから(上図にも笠をかぶった人がいますね)
※大門へ行く手前で笠を売る店もありました。
②「門構えに絵本と書いて本問屋(ほんといや)」
これはまさにドラマで春町が言っていましたね。大門近くで絵草子を売る蔦重の本屋(本問屋)のこと(上図の書入れにも「コレがかのつたやサ」とあり)。
③「門構えに禿(かぶろ)とかいてつける」
これがよくわからなかったんですよねえ。禿が見張っているということ??言いつける?? 詳しい方、ぜひご教示ください。禿は高級遊女の世話をしながら遊女になる修行をする少女のこと(書入れを読むと「にがしてしかられさっしゃんなし」と言ってますね。門の中から覗いてるのが禿たち?その手前に「たのむたのむ、エエあぶねえ」と言いながら入ってくる人がいます)。

📙追記・さっそくコメント欄で青星さんが教えてくださいました。持つべきものはべらぼう友!略してべら友!ぜひコメント欄も合わせてチェックを♪

④「門構えに駕籠とかいて医者」
これは吉原の大門の中へは、どんな身分の高い人でも駕籠に乗って入ることは許されなかった、急患のためのお医者さんだけが駕籠に乗って入れた、ということから。

どうです?これだけで、随分当時の吉原の様子が見えてきますよね。楽しい~~。


これもドラマに出ていましたね。「女と男がへだたって見ている→みたて 」「女がうしろをむいている→ふる」などなど。

かなり吉原通でないとわかりづらいものもあるので、もしかしたら当時の人も謎解き気分で楽しんだのかもしれませんね~。判じ物的な?

まさに「皮肉屋春町先生」の新境地。まあ、春町の今後を知る者からすると、この皮肉屋路線→風刺の流れが良いのかどうなのか…。

しかし、とりあえず今はまさかの屁っぴり芸でみんなと打ち解けた春町先生。次郎兵衛義兄さんも三味線でナイスアシスト! これにて、狂名・酒上不埒が爆誕いたしました。

平賀源内先生の「放屁論」が受け継がれているとも見える、花咲男の屁っぴり芸。なんと二週続けて屁の騒ぎ。不思議な感動と共にドラマの春町先生がぐっと好きになっていった21話でした。


おわりに(次回、蔦重が日本橋へ!?)

以上、今回は春町先生の復活劇と、『廓𦽳費字盡』について、感想&考察いたしました。

まだまだほかにも気になる点がいっぱい。
春町先生を励ましに行ったとき、歌麿が「己の内から出てくる色ってあんまり良いものになる気がしねぇんですよね」なんて言っていましたよね。

はい、ここで歌麿の未来が気になる、東京・太田記念美術館のXのツイート。

#大河べらぼう 第22回。どんな絵師でも真似することができる歌麿ですが、ドラマから約12年後に刊行された美人画の中には「人真似嫌い、敷写し無し、自力画師歌麿」と記されています。はたして歌麿にこれからどのような心境の変化が訪れるのでしょうか。

なんとなんと、大田なんと!
これはとても気になりますよね。これからさらに、歌麿の絵師として殻を打ち破るシーンが描かれていくのでしょうか。

松前藩の抜け荷に関わる誰袖と田沼意知のやりとりも、まるで松本清張の「黒革の手帖」めいて気になります笑

そして、次回は蔦重が吉原の五十軒道からお江戸の中心・日本橋へ進出する話がでる模様。次回も見逃せません。

あなたは恋川春町先生にぐっと親近感を持ちましたか?
それとも誰袖と意知にハラハラ?
気になったことなどお気軽にコメントくださいね。

それでは、また次回の記事でお会いしましょう~!



『べらぼう』をもっと楽しむなら!

  • べらぼう感想マガジン:毎話のディープな感想や江戸文化の裏話をたっぷりお届け! ドラマの魅力をさらに深掘りしたい方はこちらをフォローしてチェック


  • 黄表紙のぞきシリーズ:べらぼうにも登場した『金々先生栄華夢』や『楠無益委記』、『御存商売物』など江戸の黄表紙を当時のレイアウトのまま現代語訳で楽しめるシリーズ。大河べらぼうのお供に最適です。通販サイトアリスブックスからどうぞ♪


いいなと思ったら応援しよう!

大和愛 江戸の面白ネタを掘り起こして発信中。サポートしてもらえると、さらに楽しい記事をお届けできます!

この記事が参加している募集