見出し画像

べらぼう17話|蔦重の冴える往来物ビジネス

大河ドラマ『べらぼう』の17話、「乱れ咲き往来の桜」を往来物の紹介と共に感想・考察します。

◎前回の特番「ありがた山スペシャル」にちなみ、蔦重が手掛けた主な作品を振り返る記事は下記です。文化大河の面白さを堪能しましょう!

◎ドラマ16話、壮絶な平賀源内の最期が描かれた「さらば源内、見立は蓬莱」についての感想・考察はこちら。17話の冒頭で出てきた芝居の中の「本重」という件についても紹介していますよ~。

今回は新之助とうつせみが無事だったことにまずはほっとしましたね。実は源内のツテで百姓をやっていたとは。うつせみも「おふく」という仕合わせそうな名前になって、性に合った仕事ができていて何より。

そして新之助から商売のアイデアのヒントを得た蔦重は、新しい本の販路を開拓することができました。

今回は、ドラマの中の蔦重のビジネス感度について、また史実の往来物の紹介をメインに書いていきたいと思います!
ではいってみましょう~♪


ドラマの蔦重はビジネス感度が抜群!!

さすが現代で「コンテンツビジネスの風雲児」などと呼ばれる蔦重。今までも人間の心理を巧みについたアイデアで、市中の本屋から追い出されるような逆境も吹き飛ばしてきました。

特に印象的なのは、相手を巻き込む力ですね。単純にお金を出してくれ、ではなく、相手にも利があることを説く。モチベをあげさせる。

お金を渋る相手になら「これなら吉原の宣伝になって損はしないでしょう」、面白いことを書きたいという相手には「じゃあ一緒に考えましょう、あなたの本を読んでみてえんですよ!」と手を取る。

富本節の版権獲得時に、「遊女は普段芝居を見られないから、吉原に来て唄を聞かせてほしい」と太夫の感情に訴えて協力を引き出したところはあざといくらいでしたね。

平賀源内や朋誠堂喜三二、山東京伝にも愛され(喜三二や京伝は吉原での豪遊目当てというオチがつくのもご愛敬)、自然とこの人となら仕事してもいいかなと思わせてしまう、そんな編集者としても魅力ある人物像を横浜流星さんが演じています。 

今回登場した往来物。
「村には本は小間物屋に置いてあるか、ほかは行商や古本屋、貸本屋くらい」
と新之助から聞いて、
「つまり江戸の本屋の流れには入ってないということか」と気づいた蔦重は鋭い。

すぐに吉原の駿河屋らに相談して助太刀を頼む。そして吉原に遊びに来る地方の豪農たちを紹介してもらい、彼らに新しい往来物の意見を出してもらいながら本作りを行っていきます。

ここがポイントで、蔦重は豪農たちを本作りに関わらせることで、「江戸で遊んでいることを自慢したい」「自分が関わった本だからみんなにすすめたい」という心理をついて、彼らが仲間として協力し、自発的に販路を拡大してくれることを見越しているわけです。

しかも、今まで往来物の版木をもっていないことを逆手にとって、数百種類もあるという往来物を四五六という腕利きの彫師に毎年20両払うという約束で頼むという仕掛け。

四五六にしても、いつ途切れるかわからない単発の仕事をやるよりも、毎年20両決まって入れてくれる取引先のほうがありがたい。フリーランスの神です!

「これは自分の本だぞ」とあちこちに自慢できる豪農たちもうれしい、職人もうれしい。もちろん蔦重もうれしい。

うれしくないのは市中の本屋だけ。風間俊介さん演じる赤子面…いや、鶴屋喜衛門の「守りだけは固めましょう」という厳しい声もむなしく、市中の本屋の上得意だった手習いの師匠たちもが蔦重の作った往来物にごっそり流れて行ってしまう…。

よっ、策士・蔦屋重三郎!

しかし蔦重もまた、駿河屋や義兄、源内、喜三二、瀬川などなど、協力してくれたみんなの想いをしょって掲げる「耕書堂」の看板を日本一にしなければならない、そんな覚悟を決めていたのです。

横浜流星さんの蔦重、一気に大人びて経営者然としたたたずまいになってきましたよね。今までは駆けずり回ってなんとか目の前のことをこなしていた若者が、今、一人前の経営者として未来を考えている。

これまで獲得してきた、吉原細見(吉原ガイド)、富本節の正本(流行歌の歌詞集)、そして今回の往来物。この三つが史実でも耕書堂の三本柱として経営基盤をがっつり支えていくことになります。

さて、その往来物とは…?

耕書堂を支える三本目の柱・往来物とは?

史実では蔦重が往来物を出した経緯について詳細はわかっていないようです(それにしてもドラマの流れはうまくはまっていて凄すぎますよね…)。

史実の蔦重は安永九年、『大栄商売往来』『新撰耕作往来千秋楽』という二点の往来物を出版しています。『新撰耕作往来千秋楽』は鱗形屋の版の『百性往来』が原型であり、鱗形屋から版権を引き継いだのではないかとも。

参考/べらぼうコラム #17


往来物はいわゆる教科書

往来物とは、手習所(寺子屋)で学ぶ初級教科書のこと。「往来」という言葉は、平安時代に往復書簡(往来)の形をとった文例集から来ています。

『小野篁歌字尽』(東京書籍株式会社付設教科書図書館東書文庫所蔵) 出典: 国書データベース

たとえば、上図は往来物の中でも有名な『小野篁歌字尽(おののたかむらうたじづくし)』という往来物。

同じ部首や字形の漢字を列挙し、それを暗誦するための遊び歌(和歌)を添えたものです。これで文字や言葉、意味を覚えていくわけですね。


一寸子花里「文学ばんだいの宝」パブリックドメイン/なかなかカオスな授業風景ですネ。左側、先生の鼻に筆(?)つっこんでる子がいる…笑

上図は江戸時代の手習いの様子が描かれたもの。

いつの時代もやんちゃな子供たちと、それに手をやく先生たちの様子がよくわかりますね。このように、当時の子供たちは手習所(寺子屋)で手習い(習字)をしたり、単語や九九を覚えたりしていました。

蔦重は、安永九年に最初の往来物を出して以来、毎年のように往来物を出しており、その数は蔦重が没する寛政9年まで40点以上にものぼるそうです。

往来物が経営基盤を支えた理由は、ドラマでも出て来ていましたが、大量に売れることはなくとも、版木を摺りつぶすまで長年にわたって増刷可能であるということ。

流行を描く青本(黄表紙)などが一発屋で、当りも外れもある商品なのに対して、往来物は爆発的に売れなくても流行に関係なく安定した売り上げが見込める、ロングセラー商品だったのです。


黄表紙にも取り込まれた往来物

往来物つながりで、面白い黄表紙をご紹介。
こちらは恋川春町の廓𦽳費字盡(さとのばかむらむだじづくし)。先ほどの往来物の『小野篁歌字尽』のパロディーです。

恋川春町 [作]『廓〓費字尽 : 3巻』,つた屋,[天明3(1783)]. 国立国会図書館デジタルコレクション

『小野篁歌字尽』がよく知られた往来物なので、それをもじって春町が創作文字を作って遊んだもの。

右側の大きな文字は「門構えに笠と書いて<しのぶ>」「門構えに絵本と書いて<本問屋>」
面白いでしょう?

そう、ここは吉原で、門とは吉原の出入り口・大門(おおもん)のこと。大門をくぐるとときは、侍などは人目を忍んで笠をかぶることが多かったのです。

ちょうど蔦重の店の前が描かれています。左上に蔦重のマーク(富士山型に蔦の葉)があるのが見えますでしょうか。

これは蔦重が出した春町作品。つまり、この「門構えに絵本」の文字は、蔦重の店のことなんですよね。蔦重はこんなところでも宣伝の手を緩めていないのです笑


おわりに(来週はいよいよ歌麿登場!)

以上、べらぼう17話について、ドラマの蔦重のビジネスセンスや史実の往来物について感想・考察しました。

それにしても毎回ドラマの内容はみっしり。
将軍家の跡継ぎ問題に、田沼意次が築いた相良城。
いやほんと意次は息子の意知の話を聞いてあげて~。系図を池ポチャしたこと謝って佐野を取り立ててあげて~とハラハラしますね。

あと、新之助もうつせみも新天地で仲良く暮らしていてよかったよかったと思ったら、今後天明の大飢饉に浅間山の大噴火…、二人は大丈夫かとXでは鬼脚本を恐れる声がたくさん。

そして唐丸は結局歌麿だったんですね。
私は写楽かな~と思っていたのですが、やはり歌麿だったのか。外してしまいました笑
でもそれならそれで写楽とは今後どんな出会いがあるのか、俄然楽しみになってきました。

色々気になることが多すぎますが、皆さんはどこに注目していますか?
歌麿か、新之助うつせみの今後か、はたまた宮沢氷魚さん演じる好青年の田沼意知のこれから…?

は~、いずれにせよハラハラです。かわいすぎる誰袖も登場したし、倒れた大文字屋のカボチャの旦那も大丈夫かな。初代から二代目になるのかしらん。

それではまた次回を楽しみに!
次の記事でお会いしましょう~♪


大河べらぼう鑑賞のお供にピッタリのマガジンを作っています。ぜひフォローしていただいて、一緒にべらぼうを楽しんでいきませんか? ポチっとな~。

参考文献/「蔦屋重三郎」鈴木俊幸著(平凡社)、「別冊太陽 蔦屋重三郎 時代を変えた江戸の本屋」(平凡社)

いいなと思ったら応援しよう!

大和愛 江戸の面白ネタを掘り起こして発信中。サポートしてもらえると、さらに楽しい記事をお届けできます!

この記事が参加している募集