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瀬以の笑顔と鳥山検校の影:『べらぼう』第十一話が濃すぎる

NHK大河ドラマ「べらぼう」。
第十一話「富本、仁義の馬面」が放送されました。
毎回毎回、1話に込められた内容が濃すぎてどこから書こうかと悩んでしまいます笑

今回は、瀬川改め瀬以と鳥山検校の不穏さ、そして当時のヒットソングの歌詞集ともいうべき富本節の正本、さらにさらにようやく登場してくれた黄表紙の生みの親・恋川春町についてなど、お話していきましょう!

・前回の第十話についての感想・考察はこちらです ↓


瀬以と鳥山検校の不穏さ

久しぶりに蔦重にあった瀬川のうれしそうな顔! 瀬川は鳥山検校のもとに嫁いで、「瀬以」という名前に変わったようですね。

旧知の顔を見て跳ねるような声で大笑いしながら、「あんた耳掃除ちゃんとしてんのかい」とキツイつっこみをかます瀬以。しかし、鳥山検校が現れると、スッと黙り込みます。

部屋へ近づきながら屋敷に響く瀬以の声に、耳をそばだてる検校の様子が実に不穏。「私は気が乗らないが、お前がぜひというなら行く」とか、「お前の願いは何でもかなえてやりたい」とか瀬以に言ってましたけれど、そういう寛容さを見せつけて相手を精神的に縛り付ける(嫌といえば相手が加害者になってしまう)というやり口は大変に卑怯ですよね。

今回は、馬面大夫が「それが男ってもんだろう」と鱗形屋に、弱者にこそ力を貸すのだ(市中の本屋からのけ者にされた蔦重の見世にこそ直伝のお墨付きをやろう)という男の矜持を見せていましたが、そういういわゆる「男らしさ」と対局として描かれたのは鳥山検校ではなかったでしょうか。

そもそも、衣擦れの音、声の調子、手の脈で相手の心情まですぐに察してしまうひどく細かな神経の人物と暮らすのは、誰にとっても息がつまるところ。瀬以が蔦重に会って喜んだのは、初恋の相手だからというよりも、やっと気兼ねなく打ち解けて話せる相手が来た!という嬉しさが大きかったようにも見えました。ストレスたまってたんでしょうね笑

ただ、そうなってしまった鳥山検校の心情や、経緯も気になるところ。今回は特に役者や吉原ものがそれぞれ差別されながら差別するという何重にも重なる、制度はもちろんそれだけでない業深さについても、大黒屋のおりつの口から語られましたね。盲人もまた差別を受けたことは言うまでもありません。江戸時代の本には、め◎くらだのなんだのと揶揄する文章もよくでてきます(とはいえ同情のこもったものもあり、一概に昔の人はヒドいというわけではありません)。

実際に瀬川も身請けの際は、「検校なんかにわざわざ身請けされるとは瀬川も金に目がくらんだか」と心ない噂になったこともあったよう。それは盲目の人が自分たちより金を持っていることへのやっかみ、嫉妬もあったことだろうと思います。

当時の検校がどんなものであったかは、こちらの記事がとても分かりやすく、勉強になりました。↓

江戸時代、盲人の生活集団として「当道座」というものがあり、大きく分けて「初心」、「座頭」、「勾当」、「検校」という四官がありました。具体的には、琵琶や箏、三味線、按摩などを修めます。

上記の記事によると、江戸時代初期には下位の座頭は遊郭の座敷で音楽を奏でたり、遊女たちの三味線師匠をして暮らしを立てる者が少なくなかったそう。

しかし、ドラマで描かれる江戸時代中期には、大金持ちの座頭たちが吉原に次々と押しかけては高級遊女を買い上げ、世間を騒がせていたとか。その背景には、幕府が座頭に高利貸しを許したことがあったといいます。

しかも座頭たちは暴利をむさぼり、返せない家の玄関前に大勢の座頭仲間で詰めかけ、大声で悪態をついたりしていたのだそうです。まるでヤクザの取り立てのよう…。

鳥山検校もこうして財を成した一人であり、「検校千両」と言われるほどの大金を払って今の地位にいる、ということ。堅気とは思えない凄みもなるほど……と思えてきますね。個人的に市原隼人さんの目が見えないながら全身で周囲の状況を感じ取る演技が鳥肌ものですごいなあと思っています。

これから瀬以と鳥山検校がどう描かれていくのか、目が離せません。


蔦重のビジネスチャンス!富本節の正本

さて、蔦重の書店・耕書堂の経営を支えたのは、吉原細見と富本節の正本(直伝)といわれます。なぜこの二つが大きな支柱となったかというと、一定数確実にシリーズとして売れるからですね。

これを独占販売できるというのは、蔦重にとって大きなビジネスチャンス。今回、蔦重はそのチャンスを見事ゲットできましたね。

富本節の正本というのは浄瑠璃の歌詞が書かれたもの。現代でいえばカラオケのための歌詞カードといったところでしょうか。これで江戸の人たちは、流行りの富本節を練習したり、歌ってみたり、大夫を想ってうっとりしたりしていたんでしょうね。

上記に蔦重が出した富本節の正本がありました。興味のある方はリンクをどうぞ。
実際見てみるとびっくりされると思いますが、こういう浄瑠璃本ってほんとに字がまるっこいというか幅広で面白いんです。

私は「庶民の芸能を読む会」というオンラインの会でこういった読物を読んで学んでいますが、最初は「???」でした笑。今はだいぶん読めるかな~と冒頭のあたりを見ながら思いました。人は少しずつでも成長するものですね。

やっと登場した恋川春町

さてようやく、倉橋格(くらはしいたる)、ペンネームは恋川春町が登場しました!

私は黄表紙好きが高じて、江戸時代当時のレイアウトそのままに現代語訳で楽しく読める「黄表紙のぞき」という作品を作っています。ですので、大河ドラマに恋川春町が登場するのを、今か今かと首を長くして待っていました笑

金々先生栄華夢など黄表紙の傑作を当時のレイアウトのまま現代語訳した「黄表紙のぞき」

恋川春町とはどんな人物?

恋川春町は、黄表紙というジャンルを初めて世に生み出した戯作者であり武士です。

  • 生没年:1744年~1789年

  • 本名:倉橋格(くらはし いたる)、狂歌名は酒上不埒(さけのうえの ふらち)

  • 職業:駿河小島藩士

まるで少女漫画家?と思うほどロマンティックなペンネーム「恋川春町」は、藩の江戸屋敷があった小石川春日町に由来しており、また当時の人気絵師・勝川春章にちなんだものでもあったとか。ちなみに狂歌を詠むときは「酒上不埒(さけのうえのふらち)」という号を使っていました。

詳しくは下記の記事に書いていますので、岡山天音さん演じる恋川春町に興味を持った方はぜひご覧ください。


あの落書きはどこから?「辞闘戦新根」から!

倉橋格=恋川春町の登場シーンで、彼が子供に絵を描いて「これはな~んだ」なんて言って当てさせていましたよね。大木の切り口太いの根、とか、天井みたか、とか。

あの絵は、彼の黄表紙の作品「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらしいのね)」に描かれている、地口の化け物からとったのかなと思います。

大木の切り口太いの根
鯛の味噌吸
天井みたか
上記すべて恋川春町「辞闘戦新根」(国立国会図書館デジタルコレクションより)

恋川春町は、鳥山石燕を師匠とし、勝川春章にも私淑していたそうで、絵も得意。とっても面白くてかわいい絵を自らの黄表紙にたくさん描いています。
「辞闘戦新根」について詳しくは下記の記事で紹介していますので、合わせてどうぞ。↓


おわりに

今回は、大河ドラマ「べらぼう」十一話の感想・考察でした。
しかし、馬面大夫ってそれしれっと悪口じゃない?笑
愛あるあだ名というやつでしょうか。
大文字屋の市兵衛や、大黒屋のおりつさんにもすっかり親近感が湧いてしまいました。

次回は、俄祭りの企画を巡り、大文字屋と若木屋が争うそうですよ。俄って私も最初はなんだかよくわからなかったのですが、俄かに(いきなり)始まる即興芝居、から来ているんですね。了解了解。

来週こそ春町や喜三二のシーンが多いことを願って。

それではまた~!



◎黄表紙を当時のレイアウトそのままに現代語訳した「黄表紙のぞき」を通販中です。

・「金々先生栄華夢」などが読める「黄表紙のぞき」はこちら ↓

・悪玉善玉のはじまり「心学早染草」が読める「続 黄表紙のぞき」はこちら ↓
今回ドラマで春町がらくがきしていた「辞闘戦新根」もまるっと読めます!



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