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本当の自分にさよなら|【狸の短編小説】

 机の上の雑誌が、「本当の自分」という黒い太文字を掲げて、私を見つめている。ペンを取って、最初の問いに目を落とした。「見知らぬ人の集まりには、A.積極的に輪に入る B.壁際に佇む」。何年も前の私なら迷わずAを選んだだろう。ただ、今日の私には、壁に映る人影と仲良くすることしかできそうにない。結局、答えを選べず、ペンは宙を舞った。


 気を取り直して、次のページを開く。「予期せぬ問題に直面した時、A.冷静に分析する B.直感に従う」。数年前の私はAだった。しかし、雨の匂いに誘われて、目的もなく歩き出した今朝の私は、まぎれもなくBだった。ペン先が紙の上で微かに震えて、小さな黒い点を残す。


 どの私を基準にすれば、この診断は「本当の自分」を指し示してくれるのだろう。雑誌から顔を上げると、窓の外では雲がゆっくりと形を変えている。昨日、犬に似ていた雲は、今日はただの白い塊となって空に溶けている。同じ雲は、どこにもなかった。


 私は雑誌を静かに閉じた。診断結果は開かないまま、代わりに白紙のノートに一行だけ記す。「今日の私、晴れ、時々、理由のない曇り」。ペンを置いて、ただ窓の外を眺めている。流れる雲は、何も語りかけてはこなかった。




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