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棚田さんの夏休み|【狸の短編小説】

 「お腹すいたな〜

 お腹の音で目が覚めた。

 リビングのテーブルには、
 昨日までなかったスーパーの袋。
 中には菓子パンが入っている。

 「今日はこれ!

 袋の中からいちごジャムサンドを取り出す。

 ふわふわの白いパンの間に、
 赤いジャムが一本の線になって覗いている。

 まず、三つの角を丁寧にちぎって食べる。
 真ん中のジャムを食べないように。
 
 ジャムがないとこを食べ終えてからが本番。

 ジャムが詰まっている真ん中を、
 一気に口の中へ。

 ジャムで溺れそうになる、
 この時が一番楽しい。


 次の日は、チョコレートの輪っかのパン

 指で表面の茶色いところだけを
 そっと剥がして先に食べる。

 残った輪っかを牛乳に浸す。
 ジュワッと音がして、
 甘い染みが広がるのが好き。


 その次の日は、クリームパン

 食べる前に、太陽の光に透かしてみる。
 黄色い影が、パンの中でぼんやりと光る。

 一番影が濃いところ、そこがクリームの都。
 そこを目指して、最初の一口をかじる。


 そのその次の日は、あんパン

 真ん中のおへそに指をかけて、二つに割る。
 あんこがぎっしり詰まっている方が当たり。

 当たりは、もちろん最初に食べる。


 ある日、冷蔵庫に麦茶の容器を見つけた。

 甘いパンと苦い麦茶の組み合わせは、
 なんだか大人になった気分。

 でも、麦茶は次の日にはもうないよ。

 八月ももうすぐ終わり。
 
 宿題の絵日記は、
 食べたパンの絵で埋まってる。

 「メロンパンのあみあみ
 「クリームパンのクリーム

 絵日記を描いていた時、
 クシャクシャの紙が目に止まった。

 夏休み前に配られた「給食だより」。
 
 楽しそうに給食を食べるみんなの写真と、
 夏野菜カレーや冷凍みかんの文字。

 途端に思い出した。
 甘いカレーの匂い。

 みんなで一斉にスプーンを口に運ぶ時の、
 食器が触れ合う音。

 友達と笑いながら食べた、温かいご飯の味。

 その日のテーブルには、
 珍しく焼きそばパンが置いてある。

 夢中で頬張る。

 ソースの味は濃いけれど、
 給食のカレーみたいな、
 じんわりと温かい感じはないよ。

 食べ終わったら、空の袋を小さく畳む。

 窓の外では、虫がリンリンと鳴いている。
 虫と合唱するように、ぽつりと呟く。

 「早く学校、始まらないかな



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