カラメルは夜に燃える|【狸の短編小説】
熱い風が、僕の頬をなでた。口の端が少しだけ上がる。
バリバリと木が爆ぜる音。誰かの高い叫び声。遠くから聞こえるサイレンの音。それら全てが、自分とはまるで関係のない、遠い世界の出来事みたいだ。
目の前で悲鳴を上げる四角い建物。その三階の西側、僕らの教室だった場所から、オレンジ色の炎が夜空を舐めていた。
***
あいつが転校してきた日から、クラスは変わった。あいつはまさに、クラスの台風の目だった。その中心はいつも静かなのに、周りではいつも何かが巻き起こっている。
あいつが笑うと、みんなも笑う。あいつが黙ると、みんなも黙る。あいつは巨大な星で、僕らは名もない小惑星。その引力に逆らえず、ただ回るだけしかできないんだ。
あいつの前では、僕はいつもプリンだった。プルプルしていて、スプーンで簡単につぶされてしまう、頼りない塊。周りから、クスクスと笑い声が聞こえる。
僕は下を向いて、ただ自分の靴の先を見つめて、やり過ごすしかなかった。だから、決めたんだ。
「燃やそう」
放課後、理科準備室から小さな瓶を取り出した。それをカバンに隠して、誰もいない教室へ向かう。あいつの机に、瓶の中身を静かにかけた。教科書もノートも、全部びしょ濡れにしてやった。
最後に床に液体をこぼし、廊下の隅から火をつけたマッチを投げ入れた。甘いカラメルのような匂いが、一瞬だけした気がする。
炎は、あいつがいつも座っていた机を燃やしていく。何もかもを同じように、ただの灰に変えていく。あの日の笑い声も、グニャグニャだった僕も全部。
***
消防士の怒鳴る声が聞こえる。誰かにグッと肩を掴まれた。それでも僕は、燃え続ける教室から目を離さない。
炎の熱を浴びて、僕の表面は固まっていく。もう、誰かの一言で簡単につぶされたりしない。僕はもう、ただのプリンじゃない。
こんがりと焼かれた、焼きプリンだ。
そう思うと、夜空を焦がす炎が、なんだかとても綺麗に見えた。

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