渇きの器|【狸の短編小説】
喉が焼ける。
舌が上顎に張り付いて、剥がれない。
呼吸のたびに喉の奥が乾いた砂で削られている。
一日に一度だけ、差し出される椀の一口分。
それは決して喉を潤すことなく、熱い臓腑に吸い込まれて、儚く消えた。
床板がギチッと鳴る。
乗っているのか、囚われているのか。
錆と乾いた塩の匂いだけが空間を支配している。
空には鳥の影ひとつなく、灰色の水面は動かない。
薄紙一枚を隔てた光が、視界を白く洗い続けていた。
他にも人の気配がする。
視線は決して交わらない。
唇の端に白い塩の結晶をつけたまま、彼らは虚空のどこか一点を見つめている。
誰かの肩が揺れて、乾いた嗚咽が漏れることもあるが、決して誰も振り返らない。
波もないこの場所で、時折、声は聞こえてくる。
『異議を』
低い男の声が壁の向こう側から響いている。
『……認める』
また別の声が応えるが、私は耳を塞がない。
その声たちだけが、この停滞した時間に唯一の変化をもたらすものだった。
もう耐えられない。
この渇きが終わるならと、ふらつく足で立ち上がり、船べりへ向かった。
この水底に身を投げれば、すべてが終わる。
背中に突き刺さるいくつかの気配を振り払い、手すりに手をかけ、身を乗り出した。
眼下に広がる、冷たく整然と並んだ椅子群。
そこに座る、顔のない無数の輪郭と、集中する私への視線。
ギチッと木の囲いが鳴った。
鼻をつく、人々の汗が澱んだ気配に、頭上から厳かな声が響く。
その声がすべてを確定させたと同時に、また焼けるように喉は渇き始めた。

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