罪渇(ざいかつ)の船|【狸の掌編】
喉が焼ける。
唇はひび割れ、舌は分厚い布のように重い。
一日に許された一口の水は、
乾いた砂に染み込む雫のように、
瞬く間に消え失せる。
私が乗るこの古びた木造船は、
いつから航海を続けているのだろう。
甲板は絶えずぎちぎちと軋み、
鼻をつくのは錆と潮の匂い。
しかし、海鳥の声ひとつ聞こえず、
見渡す限りの灰色の海は、
凪いだまま表情を変えない。
空には、太陽も月もなかった。
ただ、薄い和紙を透かしたような均一な光が、
世界を白々しく照らし続けているだけ。
船には私と同じ何人かの乗客がいる。
言葉を交わす者はいない。
とうに涙も枯れ果て、
誰かを責める怒りという感情さえ、
消え失せてしまったかのように、ただ静かだ。
我々は皆、
それぞれの消せない罪を積み荷として、
この終わりなき船旅に送られたのだと、
暗黙のうちに理解していた。
時折、波音に混じって奇妙な声が聞こえる。
『異議を……』 『…認める…』
低い男の声。
渇きが見せる幻聴だろうか。
私はその度に頭を振り、手すりに滲んだ潮を舐めて、僅かな塩気で意識を保つ。
私は犯した。取り返しのつかない罪を。
だからこの船に乗っている。
どこへ辿り着くでもない、贖罪の航海。
それを受け入れているつもりだった。
だが、この永遠に続くかのような渇きは、
私の決意を少しずつ削り取っていく。
もう、耐えられない。
この渇きから解放されるなら、どんな結末でもいい。
私はふらつく足で立ち上がり、船べりへと向かった。
他の乗客たちの無感動な視線が背中に刺さる。
構うものか。
この灰色の水底に沈めば、この身を苛む渇きも、
罪の記憶も、すべて洗い流されるだろう。
手すりに手をかけ、身を乗り出す。
最期の覚悟で、眼下の海を見下ろした。
そして、息を呑む。
揺らぐ水面など、どこにもない。
そこには、静まり返った法廷の傍聴席が、
どこまでも広がっていた。
***
冷たく整然と並んだ椅子に座る、顔のない人々。
その無数の視線が、証言台に立つ私へと突き刺さる。
ぎち、と鳴っていたのは甲板ではなく、
私が立つこの木の囲いの軋む音だった。
鼻をついたのは潮の匂いではなく、
古い建物の埃と、人々の放つ澱んだ気配。
どこか遠くで、厳かな声が響き渡る。
続いて、低い男の声が
この閉じた世界に判決を告げた。

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