会社のデータを渡す前に——確認は3つと、上司へのひと言
月曜の朝を想像してほしい。
前回の15分であなたは驚いた。今日こそ本番だ。
会社の売上データを開く。範囲を選ぶ。コピーする。チャット欄の上で指が止まる。
……これ、貼っていいんだっけ。
その迷いは正しい。そしてうれしい迷いだ。迷えた人だけがこの先ずっと安心して使える。
先に言っておく。この回はあなたを萎縮させるための回ではない。逆だ。
ここで整える3つの確認はあなたを縛る鎖ではなく、あなたを守る鎧だ。整えた人は誰に画面を見られても堂々とAIを使える。
渡す前の確認は、何か
3つだ。名前・ルール・設定。
順に見ていく。
1つ目。個人名・取引先名は消したか。
やり方は具体的にこうだ。
顧客名・担当者名・取引先名の列は列ごと削除する。分析にどうしても必要なら、「A社」「B社」や連番のID(1001、1002……)に置き換える。どのIDがどの会社かの対応表はAIに渡さず手元のExcelに残す。
メールアドレス・電話番号・住所も同じ扱いだ。
作業のコツをひとつ。元のファイルを直接いじらない。
コピーを作ってそのコピーから名前を消していく。
渡す用のファイルと社内用の元ファイル。
この2枚に分けておくと事故が起きようがない。
見落としやすいのは、備考欄。
自由記入の文章の中に「田中様よりクレーム、要フォロー」と名前が残っていたりする。
列を消して安心せず最後に目で全体を見る。
安心してほしいのは、分析に固有名詞はほとんど要らないということだ。
「誰が」はIDで足りる。
売上の傾向は名前を消しても何ひとつ変わらない。
2つ目。会社のルールはあるか。
総務か情報システムの担当に一言聞く。
「生成AIの利用ルールって、ありますか」。
あるなら従う。それだけだ。
ない会社も多い。ないなら、「ないことを確認した」という事実があなたを守る。
聞いた日付とやりとりをメールで残しておく。
3つ目。入力データが学習に使われる設定になっていないか。
無料版のAIでは入力した内容がAIの改善(学習)に使われる設定になっていることがある。
多くのサービスは設定画面でこれをオフにできる。
「データ」や「学習」といった項目を探せばいい。5分で終わる。
法人向けの契約では入力データを学習に使わないことが一般的だ。
だから、会社として契約するのがいちばん確実な道になる。
どのAIを、いくらで使うのか
答えから言う。
会社のお金で有料版を使う。
無料版と有料版の違いは一般論としてはこうだ。
有料版はファイルを添付できて、一度に読める量が多く、入力データの扱いに関する選択肢が広い。
練習は無料版で足りるが、会社のデータを継続的に扱うなら有料版が基本線だと考えてほしい。
費用は多くのサービスで月に数千円ほどからだ。
ここではっきり言っておきたいことがある。
自腹で契約して会社に黙って使うのはやめてほしい。
数千円が惜しいという話ではない。
会社に無断で会社のデータを外部サービスに入れると、何かあったとき、あなた一人がすべてを背負うことになる。
それは、この連載が目指す姿の正反対だ。
会社のデータを扱う道具は会社の承認で持つ。
それが筋であり、あなたの鎧の最後の一枚だ。
上司には、どう切り出すか
次のひと言をそのまま使ってほしい。
先日の「データを見といて」の件、AIを使って進めたいと思います。
会社のデータを入れる前に、
①個人名や取引先名は消してから使う
②入力したデータがAIの学習に使われない設定にする
の2つは必ず守ります。
有料版の利用料が月に数千円ほどかかるので、承認をいただけますか。
まず1ヶ月試して、できたこと・できなかったことを報告します。
このひと言には上司が心配する順番がすべて入っている。
何を入れるのか。
いくらかかるのか。
結果はどう確認できるのか。
だから通る。もし通らなくても、あなたは「確認した人」になった。
それは前進だ。

3つの確認は最初の一度だけ面倒で、二度目からはただの習慣になる。
ここを越えればあなたは会社の数字で走れる。
次回は、いよいよ道具の使い方の核心。
質問の型と検算の型だ。
📝 この章のチェックリスト(3点)
確認は3つ。名前を消したか・会社のルールはあるか・学習に使われない設定か。
自腹契約と無断利用はしない。会社のデータを扱う道具は会社の承認で持つ。
上司へのひと言には「何を入れるか・いくらか・どう報告するか」の3つを入れる。
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