ピラミッドに登らず高さを測る──TRIZ標準解4.1.2「コピーまたは画像を計測する」
この記事の3行まとめ
標準解4.1.2は「対象を直接測れない・測りにくい」問題を、コピーや画像を測ることで解決します
コピーの作り方は4つの型に分類できます。投影を測る・内部画像を測る・痕跡を測る・縮尺コピーを測るです
タレスのピラミッド測量、医療画像、衛星写真によるペンギン調査──素材もスケールも違いますが、構造は同じです
紀元前、影でピラミッドの高さを測った男
紀元前6世紀のギリシャの哲学者タレスには、ピラミッドの高さを影で測ったという有名な逸話があります。
ピラミッドに登って測るのではありません。 太陽光が作る影の長さを測り、自分の身長と自分の影の比率から、ピラミッドの高さを推定したとされています。
ここで測っているのは、ピラミッドそのものではありません。 ピラミッドが地面に作った「コピー」──影です。
直接測れない対象の代わりに、測れるコピーを測りました。
この「コピーを測る」という発想に、TRIZでは番号がついています。
標準解4.1.2「コピーまたは画像を計測する」です。
標準解4.1.2とは
4.1.2. コピーまたは画像を計測する 検出・計測の問題がSIS 4.1.1を用いて解決できない場合、対象物への直接的な操作を、そのコピーに対する操作に置き換えることが推奨される。たとえば、鉄道プラットフォームに積載された丸太の量を直接計測する代わりに、特定の縮尺で撮影した写真から計測を行う。
ひとことで言うと
直接測れないなら、測れるコピーを作って測ればいい。
この標準解が解いている問題
4.1.2が扱う問題は、素直に書くとこうなります。
対象を正確に知りたい。 計測や検出が必要だから。 しかし対象に直接アクセスできない。 大きすぎる、遠すぎる、内部が見えない、触れると壊れるなど。
この問題を、4.1.2は計測の対象をコピーにすり替えることで解いています。 コピーと対象の対応関係が明確であれば、コピーの計測結果から対象の情報を推定できます。
ここでいう「コピー」は、必ずしも対象と見た目が似ている必要はありません。対象の形を写したものだけでなく、対象の状態を反映する画像、影、痕跡、代理指標も、広い意味でのコピーとみなします。

4つの型
「コピーを測る」と一口に言っても、コピーの作り方にはバリエーションがあります。 整理すると、4つの型に分かれます。

4つとも、「対象そのものを直接計測する」ことを避けている点で共通しています。 違うのは、何をコピーとみなすかです。

投影を測る型──タレスのピラミッド、ナスカの地上絵
最も古く、最もエレガントな型です。
タレスのピラミッド測量では、太陽光が作る影──つまり対象の投影──を測りました。 ピラミッドの高さという垂直方向の情報が、影という水平方向の情報に変換されています。 「測れない次元の情報を、測れる次元に投影する」と言い換えることもできます。
ナスカの地上絵も、この型に近い例です。 地上に立っているだけでは、巨大な図形の全体像をつかむことは困難です。 しかし、上空から眺めると、線のつながりや図形の構造が見えてきます。
航空写真や上空からの観察は、巨大すぎる対象を「全体として見る」ためのコピーになりました。
ここで起きていることの本質は、対象を別の見え方に投影し、測れる形・認識できる形に変換していることです。
内部画像を測る型──レントゲン、CT、MRI
あなたも一度は経験したことがあるはずです。レントゲン、CT、MRI。
体の内部を直接測りたい。しかし切り開くわけにはいきません。 だからX線や磁気共鳴を使って、体の内部の「画像」を作り、それを読みます。
Before: 体内の状態を直接見るには、本来なら身体を傷つける必要があります。
After: 電磁波や磁場を使って体内のコピー(画像)を生成し、画像上で計測します。身体に触れることなく、腫瘍の大きさや骨折の位置を知ることができます。
「投影を測る型」が光の投影を使うのに対し、「内部画像を測る型」はX線、超音波、磁気共鳴といった場を能動的に照射して画像を構築する点が異なります。 受動的な投影ではなく、能動的な画像化です。
現代医療の画像診断は、4.1.2の発想を最も大規模に発展させた領域の一つと言えるかもしれません。
痕跡・代理指標を測る型──衛星写真でペンギンのコロニーを見つける
南極のコウテイペンギンのコロニーが、どこにあり、どれくらいの規模なのかを知りたい。 しかし、南極の海氷上を歩き回って調査するのは困難です。
研究者たちは衛星写真を使いました。 しかも面白いことに、直接ペンギンの姿を探すのではなく、氷上に残されたペンギンの糞の染みから、コロニーの位置や規模を推定しています。
ペンギンそのものではなく、ペンギンが残した糞の染みを測っている。 これは、対象に似たコピーではなく、対象と因果的につながった「代理指標」を測る型です。
この型のポイントは、対象と「コピー」の間に因果関係さえあれば、コピーは対象に似ている必要すらないということです。 糞はペンギンに似ていません。しかし、糞の分布面積はコロニーの規模と相関しています。それで十分なのです。
痕跡・代理指標を測る型は、4つの型のなかで最も抽象度が高い型です。
縮尺コピーを測る型──丸太の写真、風洞実験
原典に挙げられている丸太の写真は、この型の典型例です。
鉄道プラットフォームに積載された丸太を直接測るのは非現実的です。 特定の縮尺で撮影した写真から、積載量を算出します。
風洞実験もこの型です。 実物の航空機を空に飛ばして空力特性を測定するのは、開発段階ではコストもリスクも大きすぎます。 縮小模型を風洞に入れ、スケール則に基づいてデータを実物に換算します。
この型の特徴は、コピーと対象の間に明確なスケール則(縮尺)が存在することです。 投影を測る型や痕跡を測る型と違い、コピーは対象と幾何学的に相似であることが求められます。
4.1.1→4.1.2→4.1.3:バイパス三兄弟
4.1.2は、サブクラス4.1「バイパス」の2番目の標準解です。 前後と並べると、計測問題への対処法が段階的に整理されていることがわかります。
4.1.1:測らなくて済むようにする。 システムを変更して、計測の必要性そのものをなくします。
4.1.2:本物の代わりにコピーを測る。 直接アクセスできない対象の代わりに、コピーや画像を計測します。
4.1.3:全体ではなく差分を逐次追う。 全体を一度に測ることが困難な場合、変化分(差分)を逐次的に追跡して全体を推定します。
4.1.1は「そもそも測るな」、4.1.2は「別のものを測れ」、4.1.3は「少しずつ測れ」。
3つとも、「対象を直接・一度に・正確に測る」ことへの執着を手放す点で共通しています。 TRIZは常に「理想から出発して、段階的に譲歩する」という思考の型を持っています。 4.1.1が最も理想に近く、4.1.3が最も現実的な妥協です。 4.1.2は、その中間に位置しています。

まとめ
4.1.2は、「直接測れない」ことに悩むのではなく、「何を測れば同じ情報が得られるか」を問う標準解です。
投影を測る型:対象の影や上空からの投影像を測ります。
内部画像を測る型:場を照射して対象の内部を画像化し、画像上で測ります。
痕跡・代理指標を測る型:対象が残した痕跡や、対象と因果的につながる指標を測ります。対象に似ている必要すらありません。
縮尺コピーを測る型:スケール則に基づくコピーを測ります。
タレスの影。レントゲンの画像。ペンギンの糞。丸太の写真。 素材も、時代も、スケールも違います。 しかし、構造は同じです。
対象を直接測れないなら、測れるコピーを作って測ればいい。
次に何かを「測らなきゃ」と思ったとき、一歩立ち止まって考えてみてください。
──それ、コピーで測れませんか?
参考文献・出典
プルタルコス『饗宴についての問答(食卓についての問答)』第2巻:タレスのピラミッド測量の逸話
Fretwell, P.T., & Trathan, P.N. (2009). "Penguins from space: faecal stains reveal the location of emperor penguin colonies." Global Ecology and Biogeography, 18(5), 543–552.
UNESCO World Heritage Centre: Lines and Geoglyphs of Nasca and Palpa
Altshuller, G. S. (1985). Standards for Inventive Problem Solving (76 Standard Solutions).
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