[32]【再出発】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしています。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。
【再出発】
福岡に帰ってきた翌朝。
懐かしい匂いで目が覚めた。
母が、オムレツを作ってくれていた。
子供の頃からの大好物だった。
母は、覚えてくれていた。
ケチャップをたっぷりかけて食べる。
うまい。
美味しい。
そんな言葉だけでは足りなかった。
ほんの数ヶ月前まで、僕は飢えていた。
身体だけではない。
心も、渇いていた。
裏切り。
逃亡。
母には言えないことも、たくさんしてしまった。
オムレツと一緒に、いろんな想いを飲み込んだ。
もう母に迷惑をかけるのは、これで最後にしよう。
いや、母だけではない。
家族に迷惑をかけるのは、これで最後にしよう。
そう誓った。
もっとも、実際にはこのあとも、まだまだ迷惑をかけることをやらかしていく。
それでも、その朝の僕は本気でそう思っていた。
外では、父が日曜大工をしていた。
棚のようなものを作っている。
弟は仕事に行っていた。
日常だった。
本当に、平和な日常だった。
日常がこんなにも幸せなものだなんて、僕は知らなかった。
タンスを開けてみた。
何年も前の僕の服が、まだ残っていた。
ここに、僕の服がある。
確かに僕は、ここに存在していた。
そして今も、生きている。
明日からも、鹿島で新聞配達を頑張ろう。
そう思った。
母が言った。
「プリペイド携帯じゃ不便やろ」
でも、僕の名義では携帯を契約できない。
母はそう考えて、母の名義で携帯電話を契約してくれた。
新しい携帯電話。
新しい電話番号。
それだけのことなのに、僕には人生まで新しくなったように感じた。
プリペイド携帯を出す時の、あのなんとも言えない後ろめたさ。
恥ずかしさ。
それとも、やっとお別れできる。
ただ、プリペイド携帯はすぐには捨てなかった。
着信だけ使える期間が終わるまでは、持っておくことにした。
もしかしたら、松下さんから連絡があるかもしれない。
吉田から連絡があるかもしれない。
それ以外にも、僕が置き去りにしてきた誰かから、連絡があるかもしれない。
そんな気持ちが、まだどこかに残っていた。
夕方。
福岡空港まで、父と母が見送りに来てくれた。
弟も仕事を抜けて来てくれた。
僕は、また鹿島に戻る。
宮本さんや社長も待っていてくれるだろう。
鹿島のみんなに土産も買った。
また新聞を配る生活に戻る。
けれど、福岡に帰ってきた時とは少し違っていた。
新しい携帯電話がある。
新しい電話番号がある。
家族に会えた。
オムレツを食べた。
父と母と弟に見送られている。
再出発。
その言葉が、本当にふさわしいと思った。
明日からも、頑張ろう。
僕は心からそう思った。
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
