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[20]【免許更新。ただの手続きのはずだった】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-新聞配達編-


■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指してます。


【免許更新。ただの手続きのはずだった】


午前1時。

コーヒーをいれる。

湯を注ぐ。
立ちのぼる湯気を見る。
カップを持つ。
一口飲む。

苦い。

まだ、
沁みるほどうまいわけじゃない。

それでも、カフェインが
身体に入っていく感じはした。

今は、それで十分だった。

地図を開く。

新しい契約。
切れた契約。
チラシの種類。
入り組んだ路地。
曲がる角。

ひとつずつ確認する。

前みたいに、
同じところを何度も見直して
頭が真っ白になることは減っていた。

不安が消えたわけじゃない。

でも、
何が不安なのかは
少しずつ分かるようになってきた。

ここを曲がる。
この家には入れない。
この並びは最後に回す。

そういうことを、
身体が覚えはじめていた。

部分的には、
もう作業になってきている。

作業だと思えれば、
少しだけ楽だった。

朝は、
ゆっくり普通に戻りはじめていた。

それなのに、頭の隅に
ずっと残っていることがあった。

免許の更新だ___。

昨日、
カレンダーを見てから、
そのことが頭から離れなかった。

行かないと。

バイクにも乗れなくなる。

そう思うたび、
胸の奥が少しざわついた。

販売所へ向かう。

冷たい空気。
暗い道。
眠気。

それでも、
前みたいな足の重さはなかった。

皆、いつものようにいる。

新聞の束。
擦れる音。
咳払い。
短い雑談。

その中に、
今日も自分がいる。

そのことが、
前ほど不思議じゃなくなっていた。

宮本さんが、
新聞を揃えながら言った。

「どうや、もう慣れたか?」

「少しだけですけど。」

「いいじゃん。」

そう言って、
宮本さんはすぐ
別の作業に戻っていった。

いいじゃん___。

その言葉が、
妙に残った。

なんか宮本さんらしい。


大丈夫とは言わない。
もう平気とも言わない。

でも、
前よりマシだと言う。

そのくらいが、
ちょうどよかった。

「たぶん大丈夫だ」と
思える朝があることが、
少し前の僕には信じられなかった。

完璧じゃなくていい。
少しだけでいい。

ここでは、
そういうふうに
朝が進んでいく。

ふと、
口が勝手に動いた。

「もうすぐ免許更新なんですよね。」

宮本さんは、
新聞を束ねたまま言った。

「じゃあ行っとかんとまずいな。」

「___そうなんですよね。」

「先延ばしすると面倒やぞ。
ちゃちゃっと行って来りゃええ。」

ちゃちゃっと行って来りゃええ___。

その軽さに、
少しだけ苦笑いが出た。

宮本さんにとっては、
ただの手続きなんだろう。

たぶん、
普通はそうなんだと思う。

いや、宮本さんは布団屋の2代目
と言っていた。
苦労しているはずだ。

それに
僕にとっては
そう簡単な話じゃあなかった。

部屋に戻る。

服を脱ぐ。
腰を下ろす。
コーヒーをいれる。

湯を注ぎながら、
カレンダーを見る。

もうすぐ誕生日だ。

誕生日なんて、
別にめでたくもない。

祝ってもらうような
年でもない。

でも、
誕生日が近いということは、
免許更新の期限も近いということだった。

行かないといけない。

それは分かっている。

免許が切れたら困る。
仕事にも困る。
動くにも困る。

そんなことは
嫌というほど分かっていた。

それなのに、
気が重かった。

何がそんなに嫌なのか、
自分でもうまく説明できなかった。

写真を撮られるからか。
名前を書くからか。
住所を書くからか。
人のいる窓口に行くからか。

たぶん、
その全部だった。

今の自分のままで、
そんな場所へ行っていいのか。

何となく、
そんな気持ちがあった。

少し前までの僕は、
目の前の朝を終わらせるだけで
精一杯だった。

転ばないこと。
誤配しないこと。
怒鳴られないこと。

それだけで、
頭がいっぱいだった。

でも今は、
次のことを考えている。

その先を考えられるように
なったからこそ、
避けていたことも見えてきた。

コーヒーを一口飲む。

苦い。

ちゃんと苦い。

朝が少しずつ
普通に戻ってきたからこそ、
次に行かなきゃいけない場所が見えてしまった。

免許更新なんて、
ただの手続きのはずだった。

でも、
僕にはそう思えなかった。

それでも___。

行かないわけにはいかない。

カレンダーをもう一度見る。

誕生日が近い。

めでたいなんて、
少しも思わなかった。

ただ、
逃げていたことに
期限がついただけだった。

逃げても、
日にちは勝手に近づいてくる。

今年の誕生日は、
祝われる日じゃない。

逃げずに行く日だ。


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4/25更新




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1話から読む

【第二章・新聞配達編】
目次から読む
1話から読む


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