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(11)【僕たちは逃げた】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-


■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。


【僕たちは逃げた】


2026年の現在から約30年前の1994年。

「完全失踪マニュアル」
という本が発売され、話題になっていた。

本が好きだった僕はその本を買い、
夢中になって読んだ。

まさか、その知識が
自分の人生で役に立つ日が来るなんて
思いもしなかった。

発売から30年。
今では世の中のシステムも変わり、
通用しないことも多い。

でも、変わらないものもある。

「失踪宣言」

自分の意思で失踪すること。
事件や事故ではないこと。
探さないでほしいということ。

それを置き手紙などで残しておく。

そうすると警察も
捜索願いは受理するかもしれないが、
積極的な捜査はしない(らしい)。

僕が失踪した時、
一応それをやっていた。

もちろん今回の
人夫出しからの逃亡には
そんなものは必要ない。

ただ、見つからないように
逃げるだけだ。

「だいたいな、
6時の集合時間に
なっても来んかったら、
まず手配師に連絡が行くんや。」

松下さんが言った。

「そしたら手配師がアパートに来る。」

そして少し声を落とす。

「ただな。。。隣の部屋に上田がおるやろ。
そこが問題やねん。」

上田。威圧感の塊みたいな男だ。

「上田が現場に行ってしまえば問題ない。
でもな、手配師が先に上田に連絡したら。。。」

松下さんは笑った。

「アイツ、ひつこく探し回るで。
あの蛇のような男やからな。」

僕は思わず笑ってしまった。

「だから作戦はこうや。」

松下さんが言う。

「5時くらいに荷物持って外出る。
アパートを見張る。」

「上田が出て行ったら、
俺らもすぐ名古屋駅や。」

そしてニカっと笑う。

「優雅にモーニング食おうや。」

午前5時。

僕たちはアパートを出た。

缶コーヒーを買う。

人生が終わった日も、どんな日でも
朝のコーヒーだけは欠かせない。

冷たい空気の中で
アパートの様子を見張る。

しばらくすると、

05:30。

上田が部屋から出てきた。

「アホ面で行きよんなぁ。腐れが。」

松下さんは相当、
上田のことが嫌いらしい。

「今から5分後、出発やで。」

松下さんはタバコに火をつけ、
ゆっくり吸った。

そして言った。

「もう、ええやろ。行こか。」

僕たちは歩き出した。

その直後だった。

ガラガラガラ。。。

壊れたようなエンジン音の車が
アパートの前に止まった。

手配師だった。

「新人やから、
05:30に来なくて心配だったんやな。」

松下さんが笑う。

「まぁ、折角や。
慌てぶりを拝見しよ。」

僕たちはアパートの陰から
様子を見た。

ボロボロのハイエースを横付けして、
手配師がゆっくり階段を登る。

そして僕の部屋に入った。

数秒後。

ドタドタドタッ!

手配師があわてて、走って
階段を降りてくる。

ドンッ。

階段を踏み外して
盛大にこけた。

僕と松下さんは
思わず吹き出した。

「痛かったろうなぁ。
ひねって捻挫したかもな。
まぁ搾取のバチが当たったんや。」
松下さんは言った。

そしてハイエースは
急発進して走り去った。

僕たちは名古屋駅に向かった。

喫茶店に入り、
名古屋名物のモーニングセットを頼む。

トースト。
ゆで卵。
そしてコーヒー。

この上ない開放感。
この上なくうまいコーヒー。
僕は、コーヒーのおかわりをした。

金はある。
ゆっくり仕事を探せばいい。

松下さんがニカっと笑いながら言った。

「今日はパチンコでもするか?」

僕は笑って頷いた。

でもこのあと、
僕たちはまた地獄を見ることになる。


(第12話【たたまれた布団】につづく)




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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」

【第一章・失踪編】
目次から読む
1話から読む

【第二章・新聞配達編】
目次から読む
1話から読む


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