(18)【救われた言葉】人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。-失踪編-
■この物語は筆者の実体験をもとに執筆しています。
・正直、極限まで恥をさらしてます。
・僕が生きてきた記録(ノンフィクション)です。
・ほぼ毎日更新を目指しています。
【救われた言葉】
朝4時。
浅い眠りの中、目が覚めた瞬間、
「今日も行ける」
と感じた。
昨日までとは違う。
身体は重い。
腰も痛い。
腕も上がらない。
でも、心が折れていない。
理由はわかっている。
呼ばれるからだ。
認められたからだ。
朝の静けさの中、共同の洗面所
に水を取りに行く。
コーヒーメーカーでコーヒーをいれる。
日課になった。
静寂の中で、ゆっくり飲むコーヒー。
自分を取り戻す時間。
誰にも邪魔されない。
そして今日も
安定のC班。
松下さん、吉田、
顔しか知らない2人。
現場に着くと、いつもの朝礼があった。
昨日の続きだ。
今日から足場を組み立てるらしい。
いつものざわつきの中で
「おみゃ〜さん。こっちおいでや〜」
あの人の声がした。
職長だ。
迷いなく僕を呼んでくれている。
「おみゃ〜さん、
あの人のサポートしてちょ〜よ。」
短い指示。でもそれが、嬉しかった。
認められている。
なんて大げさなものじゃない。
ただ、
「使える」と思われただけだろう。
それだけだ。そう思う事にしよう。
僕は「失踪者」であり「逃亡者」
そのことを忘れてはいけない。
「使える」と思われた、
それだけなのに、
昨日までの自分とは
まるで違う人間みたいに
自信が出てきた。
足場のパイプとパイプを繋ぐ
クランプと言う部品。
僕は職人さんに手渡ししていく。
松下さんは踏み板を職人と設置している。

吉田と他の2人は、
クランプや
踏み板
パイプなどを1階から各階に
荷上げしている。

また階段の行き来か。。。
荷上げはキツそうだ。
たとえ、運びやすいものでも。。。
恵まれた。
昼休憩の時間になった。
缶コーヒーを開ける。
労働のあとで、春になりかけの
青空のもとで飲む缶コーヒー。
今日は缶コーヒーを、
とても美味く感じた。
「お前さ」
隣に座った吉田が言った。
「なんで職長、
お前ばっか呼ぶと思う?」
少し笑いながら。
でも目は笑ってない。
笑ってない目、その奥にある感情は
なんとなくわかった。
羨ましさだ。嫉妬だ。
僕は少し考えるフリをして答えた。
「。。。分からんすね。」
本当に、分からなかった。
器用でもない。
要領も悪い。
仕事も初心者だ。
怒鳴られることも多い。
でも、ひとつだけあるとしたら
仕事から逃げなかった。
それだけだ。
向かい風の中進む、ヨットのように。
少しずつ進んだ。
向かい風に押し戻されながらも、
少しずつ。少しずつ。
ヨット上級者になると
向かい風でも、
ヨットのスピードが増すと言う。
僕も、
ヨットの上級者になれるだろうか。
冷えていく缶コーヒーを飲みながら
漠然と考えをめぐらした。
作業が終わり、
帰る準備をしていると
職長がポツリと聞いた。
「おみゃ〜さん、前何やってた?」
一瞬、言葉に詰まる。
言えない。
起業して、失敗して、
逃げてきたなんて。
仕事を失うかもしれない、
だから、少しだけ嘘をついた。
「。。。色々です。」
職長はそれ以上聞かなかった。
ただ、ひとこと言った。
「まあいいや。」
そして
「明日も来てちょ〜よ。」
それだけだった。
会社兼寮に帰る。
人間、少しいい環境に行くと
更に上に行こうと贅沢になる。
ふと、思う。
カセットコンロと
雪平鍋が有れば
インスタントラーメンが
食べれるなぁ。
ペットボトルの水が有れば
朝、水を汲みにいかなくていいし、
もっと美味いコーヒーが
飲めるかもしれない。
そして、
「明日も来てちょ〜よ。」
その言葉が、
頭の中で何度も繰り返される。
嬉しかった。
純粋に嬉しかった。
必要とされたわけじゃない。
期待されたわけでもない。
でも。。。
「来ていい」と言われた。
「来てちょ〜よ。」
あの一言がなければ、
僕はどうなっていたか分からない。
それだけで、
人はこんなにも
救われるのかと思った。
布団に入る。
相変わらず、
身体はバキバキだ。
でも今日は
少しだけ、
眠れそうだった。
少年の頃みたいに
何も考えず眠ることは
許されないのに。
それでも
昨日よりは、
確実にマシだった。
朝のコーヒー。
あれは、
ただの習慣じゃない。
「また一日を始めてもいい」
と思うための儀式だ。
そして今の僕は。。。
その時間を待ちながら、
浅い眠りにつく。
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「人生が終わった日も、朝のコーヒーだけは飲んでいた。」
【第一章・失踪編】
→目次から読む
→第1話から読む
【第二章・新聞配達編】
→目次から読む
→第1話から読む
