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「re 前世」第1話 #創作大賞2024#漫画原作部門


〇あらすじ

 希実は自分の中に、ある映像を持って生まれてきた。
その映像とは、古い時代の景色で、現在の兄である睦と似た男の子を好きに想っているという物だった。
映像での想いと重なり、幼い頃から希実は、どうしても睦を想ってしまう自分に苦しみながら生きてきた。こんな映像さえ持って生まれなければ普通に兄と思って生きれたのに‥。
25歳になった希実は、似た経験を持つ同じ歳の沙耶良と出会い、「私は一年半前から同じ夢を見る。この夢の中の映像は前世の記憶だと思っている」と言われる。希実は、現在の自分は映像の中の少女の生まれ変わりなのかもしれないと認識し始める。けれど現世では睦と兄妹だという事実に変わりはなくて‥。
 


〇第一話


<前世 江戸時代後期の長崎>
 丘の上に立ち、仁とかおが二人並んで土石流の被害跡を見下ろしている。幼さが残る二人。
仁「父さんも母さんももうおらっさん」
かお「うちも‥父さんも母さんも竹一郎もきよも‥もうおらっさん‥うちにはもう家族は一人もおらんとやね‥もう家族が出来ることはなかとやね‥」
仁「うんにゃよ‥いつか一緒に家族ば作ろう」
かお「‥家族ば?」
仁「うん。もう少し大きくなったら一緒に作ろう」
かお「仁と?・・うん、そげんやね。そげんしたらまた家族の出来るとやね」
 笑顔になるかお。
 手を繋ぎ、傷跡の深い町並みを見つめる仁とかお。



<現世 20年前:2004年埼玉>
 
『5歳 お誕生日おめでとう』と書かれたケーキのロウソクを吹き消す成田希実、どことなくかおと似ている。
 希実の隣に座っている兄の成田睦、仁と似た容姿である。
 テーブルを挟んで二人の向かい側に座っている父親の和志と母親の未知音、ロウソクが全部消え一斉に拍手する。
 三人の拍手に嬉しそうに笑う希実。テーブルには未知音の手料理が並んでいる。
睦「希実、おめでとう」
 睦が希実にプレゼントを渡す。
希実「いいの?」
睦「うん、お年玉貯めといたから」
希実「嬉しい‥」
 照れたように頭をかく睦。
 希実がプレゼントを開けると鍵付きの可愛い木箱が入っている。
希実「可愛い‥ありがとう、睦」
睦「うん」
和志「希実ももう5歳か‥早いね、未知音‥」
 感動して涙ぐむ和志。
 未知音がロウソクを抜いていき、ケーキを切り分ける。
和志「希実も睦もゆっくりでいいからね。そしてこのままずっと俺達4人で    暮らそう。二人共ニートになってもいいんだからね。だからこの家出て行か  ないでね」
睦「え‥俺ニートなんてやなんだけど」
未知音「そうだよ。そりゃあずっとこうしていられればいいけど、そうはいかないでしょ?二人にはそれぞれ、いずれ一緒に生きていく人がきっと現れるんだよ」
 未知音の言葉にキョトンとする希実。
希実「え?希実は大きくなったら睦と家族になるんだよ」
未知音「ん?‥どういうこと?だってもう希実と睦は家族じゃない?」
希実「そうだけど‥そうじゃなくて‥大きくなったら二人で結婚して家族を作るの」
未知音「え?兄妹は結婚出来ないんだよ。だから希実と睦は結婚は出来ないの」
希実「嘘だよっ」
和志「‥あれ?こういう時って普通パパと結婚するっとかじゃないの?」
希実「しない」
和志「‥そっか‥そうだよな」
希実「だって‥希実は睦と結婚するために生まれて来たんだよ。睦と約束したんだもん」
 未知音に必死に訴える希実。
睦「え?」
 驚く睦。
睦「いつ?」
希実「ずっと前だよ。睦が仁だった時」
睦「‥仁だった時?」
希実「うん、仁だよ。睦の‥えっと‥ずっと前の時の名前でしょ?」
睦「‥」
 不思議そうに顔を見合わせる睦と未知音、和志。
未知音「睦はずっと生まれた時から睦だよ‥仁って誰のこと?」
希実「‥仁は睦が睦になる前の名前で、希実は希実になる前はかおっていう名前だったの。ね?」
睦「え?」
 希実に問われ、戸惑いで言葉が出ない睦。
希実「睦‥覚えてないの?」
睦「‥どういうこと?何かのお話?」
希実「お話じゃない!仁だった時のことだよ‥忘れたの?」
 睦の反応に深く落胆し、思わず涙が零れる希実。
睦「ごめん‥希実、どうしたんだよ。泣くなよ‥」
希実「だって‥」
 泣き出す希実に訳が分からずただ謝る睦。
 睦同様、意味が分からずに顔を見合わせる未知音と和志。
 希実の部屋。絵本やぬいぐるみなどが可愛く飾られている普通の5歳の女の子の部屋。
 ベッドに入っている希実に添い寝している未知音。
未知音「ねえ希実‥さっきのことだけど、もう5歳になるんだからさ‥睦と結婚するなんて言って欲しくないな‥」
希実「どうして?」
未知音「そんなこと言うとさ、周りの人達に変な子だって思われちゃうんだよ‥」
希実「そうなの?」
未知音「うん。だからあまり言って欲しくない‥」
希実「…じゃあ、言わなかったらいい?」
未知音「‥そうだね。とりあえず言わないでいてくれたらいいよ」
希実「分かった‥もう言わない‥」
未知音「うん、ありがとう」
希実「‥ねえ、ママは未知音になる前は何だったの?」
未知音「え?」
希実「希実はかおだったんだよ‥希実になる前‥」
未知音「‥希実になる前?さっきも言ってたけど、それどういうこと?」
 未知音の顔をじっと見つめる希実。
希実「‥ううん。やっぱりもういい」
未知音「‥」
 希実の髪を撫でる未知音。寂しげな希実、目を閉じる。
希実「‥希実は変な子なの?」
 一人小さく呟く希実、そのまま眠りにつく。
 翌日の幼稚園。
 教室の壁に貼られていた絵を先生が剥がし、それぞれに配っていく。
 睦と自分との結婚式の絵を描いていた希実。先生からその絵を渡される。
 複雑な面持ちでじっとその絵を眺めている希実。
 数日後、希実、睦、和志、未知音、家族揃って居間でテレビを観ている。
 テレビ画面に、お母さんが子供を残して亡くなっていくドラマのシーンが流れている。
 涙ぐんでみている4人。
 するとリモコンを手に取り、和志がチャンネルを変えてしまう。
未知音「え?何で変えるの?皆観てたのに‥」
和志「こんなの悲し過ぎるよ。嫌だよ‥」
未知音「ドラマだよ」
和志「ドラマでも無理過ぎる」
希実「パパ、チャンネル戻して」
睦「俺も続き観たい」
 和志に訴える希実と睦。
和志「嫌だ、俺は観ない」
未知音「だったらリモコンだけ返して、和君」
和志「駄目だよ、こんなのやだよ‥未知音が居なくなるなんて‥皆も観ないで」
未知音「え?ドラマでしょ?」
和志「俺、未知音が死んだらすぐその日に死ぬから」
未知音「‥和君死んじゃダメでしょ?睦と希実はどうするの?」
 睦の両肩に手を置く和志。
和志「睦‥希実のことは頼んだよ。二人で一緒に強く生きていくんだぞ。空から見てるからな」
睦「え?俺?」
 驚く睦。
未知音「睦はまだ7歳なんだからね」
和志「だって未知音がいなくなった世界になんて、俺1日だっていられないよ‥」
未知音「だけど和君はお父さんなんだよ」
和志「分かった。じゃあその日1日は頑張って二人を全力で慰めて、その次の日にいなくなることにするよ。だったらいい?」
未知音「絶対ダメ」
和志「お父さんだからって出来ないこともあるだろ?とにかく俺には出来ないから」
 自信満々に言い切る和志に絶句する三人。
 
ー希実『父さんがどこまで本気だったのかは分からない。よく考えると育児放棄もいいとこで、とんでもない話だ。けれど何故か私はこの時、この二人の元に生まれたことを幸せに思った。恐らく睦もそう思っていたと思う』ー



<現世 現在:2024年>

 洗面所で歯磨きしている25歳になった希実。
 ドアをノックする音が聞こえる。
和志「希実?」
 ドアの向こうから和志の声。
希美「ほうはよ(そうだよ)」
 歯磨きしながら答える希実。
和志「もうすぐさ、未知音の誕生日だろ?」
 ドア越しに話している和志。
 希実、うがいをした後ドアを開けると和志が立っている。
希実「うん、そうだね」
和志「あのさ、旅行行こうかななんて思ってるんだ」
希実「へえ、いいね」
和志「‥希実も行く?」
希実「ううん。シフト見てみないと分かんないし、私はいいよ」
和志「本当?じゃあきっと睦も行かないよな?仕方ない、残念だけど未知音と二人で行ってくるよ」
 そう言いながら嬉しそうな和志。
希実「あはは。いいよ、行ってらっしゃい」
和志「うん、ごめんね」
希実「全然」
和志「どうぞ、続けてください」
 和志、ドアをそっと閉める。
 弾んだ和志の足音が廊下を遠ざかっていく。
 希実、思わず少し笑って、ドライヤーをかけ始める。


 希実、自宅から少し離れた所にある大学病院の産婦人科で助産師として働いている。
 屋上の物干し竿に洗濯したベビー服やバスタオルなどを干していく希実。
 開いたドアからチーフの富畑美佳子が声を掛ける。
美佳子「希実ちゃん、後藤沙耶良さんから陣痛きたってさっき電話がかかって来たから、それ終わったら分娩室の準備お願い出来る?」
希実「分かりました。後藤沙耶良さんですか?」
美佳子「うん。初産です。宜しくね」
希実「はい、これが干し終わったら行きます」
美佳子「お願いします」
 去っていく美佳子。最後の一枚を干す希実。


 スタッフルームでカルテの確認をしている希実。
希実「えっと‥後藤沙耶良さん‥後藤‥あ、あった」
 カルテに『未婚。体外受精。4ヶ月、悪阻の為体重4キロ減。7ヶ月、貧血の薬を処方。9ヶ月、ママ教室参加』等書かれている。
希実「‥後藤沙耶良さん、25歳か‥おない年だ‥」
 『未婚。体外受精。』と書かれていることに少し不思議に思う希実。
 カルテに『朝7時、陣痛の連絡有り』とメモを貼る。


 分娩台の後藤沙耶良に声を掛ける美佳子、沙耶良を横向きにさせ腰をさすっている。
美佳子「‥大丈夫ですか?」
沙耶良「うー‥」
  陣痛がくる沙耶良、いきみ始める。
美佳子「あ、頭が見えてきましたよ。そう、もう少し」
沙耶良「んーっ‥」
美佳子「そう、出てきました!」
 赤ん坊の産声が聞こえる。
美佳子「もう力抜いて大丈夫ですよ」
 希実、素早く美佳子へタオルを渡す。
美佳子「おめでとうございます。赤ちゃんですよ」
 美佳子、沙耶良の胸の上に赤ん坊をそっと乗せる。
 髪の毛が金色の女の子の赤ちゃん。
沙耶良「‥会えた」
 沙耶良、愛おしそうに赤ん坊を抱きしめる。
 
 
 希実、更衣室で私服に着替えているとドアが開き美佳子が入って来る。
美佳子「ああ、希実ちゃんお疲れ様」
 美佳子も私服へと手早く着替えていく。
希実「お疲れさまでした。後藤さん、初産にしては早かったですね」
美佳子「そうだね。最初のお産は誰でも怖いものだけど、何かそんな感じがしない人だったな‥」
希実「確かに、静かなお産でしたね」
美佳子「誰もいらっしゃらなかったね‥一人きりのお産だったね‥」
希実「そうでしたね‥未婚で体外受精って珍しいですね‥」
美佳子「うん‥私なんか初産の時いきなり赤ちゃん渡されて戸惑ったけど、後藤さん、当たり前みたいに自然に赤ちゃん抱っこされてて‥」
希実「‥ああ」
美佳子「まあ、人ぞれぞれいろんな事情があるしね」
希実「そうですね‥」
美佳子「さ、早く帰らないと助っ人で呼ばれちゃうかもよ。今日大潮なんだって」
 美佳子、ナース服を手早く畳みバッグへしまう。
希実「そうなんですか?わあ、大変そう」
 慌ててロッカーを閉める希実。



 自宅に帰って来た希実、自分の部屋に入りベッドにバタンと倒れこむ。
 本棚には産婦人科に関する本が並んでいる。
 本棚の片隅に置かれている子供の頃に睦から貰った鍵付きの木箱。
 そのままウトウトする希実。
 夜になりいつのまにか暗くなった部屋、未知音がドアをそっと開ける。
未知音「希実?寝てるの?」
希実「ん?‥」
 未知音の声に目を覚ます希実。
希実「あ‥寝てた‥」
未知音「起こしてごめんね‥」
 気を使って小声で話す未知音。
未知音「今からすき焼き食べるけど、どうする?後にする?」
希実「あ、今日すき焼きか‥ううん、すぐ行く」
未知音「分かった。待ってるね」
希実「うん」
 ドアを閉め1階へと降りて行く未知音。

 1階の居間でテーブル上のすき焼き鍋を囲み座っている和志、睦、睦の恋人の本荘瑠衣。
未知音、ドアを開け居間に入って来る。
未知音「希実、寝てたみたい。今、降りてくるって。先に食べてよう」
 卓上カセットコンロに火をつける未知音、和志の隣に座る。
和志「そっか、夜勤明けなのに大丈夫かな」
未知音「いつものことでしょ。よくもつよね」
瑠衣「本当。でも生まれたての赤ちゃんにいつも会えるなんて贅沢な仕事だって話してくれて‥すごいなーって思います」
未知音「でも私と瑠衣ちゃんだって高校生の青春に毎日会えてるよ」
瑠衣「そうですね!大変だけど、やっぱり好きですもんね」
未知音「うん。あ‥この会話、職員室でもしたね」
瑠衣「あはは。本当だ」
 睦、箸立てからお箸を探している。
睦「えっと‥ピンクだから‥はい」
瑠衣「ありがとう」
 睦からお箸を受け取る瑠衣。
和志「偉いな‥瑠衣ちゃんも未知音も希実も、皆偉い‥」
 涙ぐみ鼻をかむ和志。
 希実が部屋へ入って来る。
希実「あ、瑠衣さん来てたんだ」
 希実、未知音と瑠衣の間に座る。
瑠衣「うん、お仕事お疲れ様。大丈夫?」
希実「うん。あ、こないだパンケーキありがとう!めっちゃ美味しかった!」
瑠衣「でしょ?絶対希実ちゃんも好きだと思ったんだ」
希実「うん、好きだった!」
 和志がお鍋からお肉をとろうとする。
未知音「和君、まだ少し早いよ」
和志「ごめん‥」
 しゅんとしてお肉を鍋に返す和志。
和志「‥あ、さっき希実のこと話してたんだよ。助産師さんって本当に凄いなって、皆で‥」
希実「本当に?嬉しいな‥」
和志「奇跡的な瞬間に立ち会うんだもんな。すごいよな‥」
希実「‥でも妊婦さんはそれどころじゃないんだって‥チーフが言ってた」
和志「え?そうなの?」
未知音「うーん‥まあね‥」
希実「何か私、自分が経験もしてないのに偉そうにアドバイスとかしててさ‥」
 ぐつぐつしてきたすき焼きに、お肉を追加する未知音。
未知音「でも出産の経験はなくても色んな人を見て来てるんだし、不安な中で助産師さんがアドバイスしてくれるのは有難いよ」
希実「うん‥」
未知音「それにいずれは希実だって出産するでしょ」
 和志、鍋の中のお肉を取ろうとして落としてしまう。
和志「え?希実が‥子供生むの?いつ?一人?二人?は‥野球チーム作る?サッカーチーム?ラグビー?って何人?」
希実「いや私、ずっとこのまま産まない気がする‥」
 お肉を和志のお皿によそう未知音。
未知音「今はそんなこと言ってたって、好きな人が出来たら気が変わるよ」
和志「希実に‥好きな人?‥いないでしょ」
未知音「何で?いるかもしれないじゃん。ね?」
 未知音の言葉に全員が希実に注目する。
希実「え?いない、いないよ!」
睦「え‥いないの?付き合ってる人はいなくても、好きな人くらいはいるんじゃないの?」
 睦、すき焼きを食べながら、希実に尋ねる。
希実「いないよ‥ずっと看護学校だもん。出会いだってないし」
 睦、箸を置き、瑠衣のお皿にお肉をよそってあげる。
睦「遠慮しなくていいんだからね。早く食べないとここんちはあっという間になくなるから、次は自分で取るんだよ」
瑠衣「あはは。うん、ありがとう」
 睦にお礼を言う瑠衣。
 嬉しそうに首を横に振る睦。
睦「でも確かに産婦人科じゃ出会い無さそうだな‥何かすっごい心配になって来た‥希実、本当にずっとこのままな気がする‥」
 希実を案じる睦。
希実「でしょ?私もそんな自信がある」
睦「まじか‥まあ、でも結婚だけが全てじゃないしな‥」
 野菜を継ぎ足していた未知音、ふと手を止める。
未知音「え?二人は?結婚しないの?」
睦「俺ら?いや、するつもりだけど‥」
和志「ええ?!いつ?いつ?いつ?」
 驚いて大声で聞く和志。
睦「いや、まあそろそろ‥」
未知音「本当?おめでとう!」
睦「ありがとう」
 照れながらお礼を言う睦。隣で嬉しそうに頭を下げる瑠衣。
 二人を微笑んで見つめる希実。
希実「睦、おめでとう」
睦「ありがとう。希実も諦めるな」
希実「あはは。諦めてないから」
睦「そっか。頑張れ」
睦、希実の頭を鷲掴みにして撫でる。
希実「あ‥ビール足りないよね。皆でもう一回乾杯しようよ!」
 希実、立ち上がり、キッチンの冷蔵庫へ向かう。

 キッチンの冷蔵庫からビールを5本取り出し、手元をぼうっと眺める。
希実「そっか‥結婚か‥」
 テーブルの方を見ると、感激した和志が睦を抱きしめている。照れながらも嬉しそうな睦。
希実「これでいいんだ‥」
 一人呟く希実。

 部屋に戻りベッドに寝転んでいる希実、本棚の中に置かれた鍵付きの木箱を眺める。
希実「‥子供の頃、睦と結婚するんだって思ってたな‥」
 ふと、映像の中の仁の顔が浮かんでくる。
 昔ながらの絣姿の仁。
希実「あれって一体何なんだろう‥夢を覚えてるだけなのかな‥何か実際にあったことのようにリアルな気がするんだけどな‥そんな訳ないよな‥」
 ドアをノックする音が聞こえる。
希実「はい」
睦「俺、開けるよ?」
希実「うん」
 ベッドに座り直す希実。
 ドアから睦が姿を見せる。
睦「もうすぐさ、母さん誕生日だろ?今年どうする?」
希実「そうだね。何がいいんだろう?」
睦「こないださ、瑠衣がしてたマフラーのこといいねって言ってたから、色違いとかどうかなって思ったんだけど、どう思う?」
希実「へえ、いいね。私も同じの買おうかな」
睦「あはは。いいかもな。じゃあさ、仕事のシフト後でラインで送って」
希実「うん。分かった」
睦「じゃ、おやすみ」
希実「あ、睦‥」
睦「ん?」
希実「改めて、おめでとうございます」
 ベッドの上に正座してお辞儀をする希実。
睦「あはは。ありがとうございます」
 照れながら頭を下げて、ドアを閉める睦。
 深くため息をつく希実。
希実「分かってたことじゃないか‥あほだな‥」
 目を瞑る希実。ふと自分の中にある映像が蘇る。

<江戸時代後期の映像>
 丘の上に立ち、仁とかおが二人並んで土石流の被害跡を見下ろしている。
仁「‥いつか一緒に家族ば作ろう」
かお「‥うん、そげんやね」
 笑顔になるかお。
 

 目を開け天井を見上げる希実。
希実「‥家族になんかなりたくなかったよ」
 今しがた睦が出て行ったドアを見つめる。

                   二話へ続く



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