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泰夢(たいむ)のお話:29

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素直にあやまった泰夢、華恋は一体どうするのか……
それでは、どうぞ!!

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 ごめん、という泰夢(たいむ)のその一言を聞き、華恋(かれん)も鼻のあたりをちょっとだけくしゅくしゅとさせながら、
「うん━━。
 ……泰夢くん、わたしの方こそありがとうね。
 わたしの気持ち、ちゃんとわかってくれて本当にうれしい」
 と、泰夢に向かって、あの昼間の学習スクールや帰りのコンビエンスストアで見せたやさしい笑顔をうかべる。
 その顔をチラっと見て━━そして、なんだかはずかしくてすぐにそっぽを向いて━━泰夢はむねの中の息を大きくはいた。
 そのまま、しばらく二人で何となく言葉もかわさずにいたが、ふと華恋が思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ!
 泰夢くん、せっかくごめんって謝ってくれたんだからさ、
 わたしのことをよぶ時に、寺田さんって言うの、もうやめにしてよ」
「えっ……なんで?
 んじゃさ、なんてよべばいいの?」
「そうだなぁ……ふつうに名前でよんでほしいな。
 あと、泰夢くんっていつもは自分のこと、オレって言ってるんでしょ?
 毎回ボクって言い直すのもなんか変だから、いつも通りでいいよ」
「えっ、き、急に? それに、そっちのほうが変だよ。
 学校でだって『友だちのことは、名字にさんを付けてよびなさい』って言ってるし……」
「えー、なんで? 名前でよぶ方が近い感じがしていいのにな。
 ウチの学校は授業の間だけは「さん付け」だけど、
 休み時間とか学校が終わっていっしょに遊ぶ時とかは、みんな名前やあだ名でよぶよ?」
(…………)
 そう言いながらテーブルに身を乗り出して近づいてくる華恋に、泰夢はすわったまま体をちょっと後ろに引いた。
 こうした「学校内でのよび方」の決め事は、今はそれぞれの小学校によってちがう。
 国の機関で学校のことを決めている「文部科学省」という所が定めた「学習指導要領」では、小学校で生徒同士がどうよび合うのかを、きちんと決めているわけではない。
 しかし、多くの小学校では友だちをよぶ時に「さん付け」することすすめていて、中には校則で決められているところもあるのだ。
「……それは、オレんトコもそうだけど━━」
「あーっ! いま、オレって言った!!
 ほらほら、それだったら、わたしのことも名前でよべるでしょ!」
 そう言って華恋が泰夢の方にさらにつめ寄る。
 さっきまでのやさしい笑顔が、ちょっとだけイジワルをするような感じになっていた。
「ほーら、わたしの名前は……?」
「━━わっ、わかったよ!
 いま言うから、ちょっとまっててよ!」
 いよいよかくごを決めた泰夢は、テーブルの上に置いてあった麦茶をぐいっと一飲みすると、
「よ、よーし、いくぞ……せーの、
 ━━華恋ちゃん。
 こっ、これでいいだろ!?」
 自分は何を言ってるんだろうと思いながら、耳の先まで赤くなる。
 ほっぺたのあたりが少しふるえて、体全体が熱くなったような気がした。
「……華恋ちゃん、か。
 泰夢くんのことだから、華恋さんって言うのかと思ったけど、
 ふふふ、ちょっと意外だったなぁ……」
「あっ、いや、やっぱゴメン、そっちだ!
 そっちを言うつもりだったから、今のナシ! 取り消しで!
 よぶのは、華恋さんで━━」
「ブブーッ! ダメでーす!!
 一度言ったんだから、取り消しはみとめませーん!
 泰夢くんは、これからわたしを華恋ちゃんってよぶことに決定でーす!」
「そ、そんな……ちょっとまってよ、
 なんで、オレが━━ちぇっ、まちがったぁーっ!!」
 手を頭に当ててぐるぐると体をよじりながらくやしがる泰夢のそのすがたを見て、華恋は声を上げて笑いながら、同時に泰夢のことを、やっぱり悪い人じゃないんだと、心のおくの深い所から本当にそう思った。
 泰夢のおばあちゃんから、孫がこの家に来るので仲良くしてやってほしいとたのまれた時には、正直に言えば不安だった。
 おばあちゃんの孫かもしれないけれど、華恋にとってはまったく知らない人だし、しかも同じ小学五年生の男子という話だったので、とても気が重かったのだ。
 そうして、今朝にバス停で出会って、学習スクール、コンビニエンスストア、帰りのバスとずっといっしょにいたけれども、それでもやっぱり不安な気持ちは無くならなかった。
(━━これが、本当の泰夢くんなんだね)
 そうした不安が、いま、ようやく無くなったような気がした。
 ちょっと見栄っ張りで、自分のペースをみだされるのがいやだから周りに対して冷たい態度を取るけれども、心の中は素直で真面目で、他の人の事をちゃんと考えることができて、ちょっと泣き虫な━━華恋が今日一日ずっと泰夢を見ていたところによると、学習スクールであの三人組を追いはらった時と、いま自分に謝った時とで、少なくとも二回は泣きそうになっていた━━ところもあるけれども、泰夢はふつうのやさしい男の子だった。
「…………」
「華恋ちゃん、どうしたの? おなかいたくなった?
 もしかしてオレ、また何か悪いことした?」
 しばらくいろいろと考えてぼーっとしていた華恋を、泰夢が心配そうな顔で見つめる。
「ううん、なんでもない!
 ━━泰夢くんも謝ってくれたし、わたしも気持ちがスッキリしたし、
 今日の学習スクールの宿題からやっちゃおうか!」
 その華恋の言葉に、ホントにやるんだとブツクサ言いながら、泰夢もすわっていたクッションの横に置いてあったデイパックを開き、勉強の準備をするのだった。
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泰夢と華恋、二人の距離がちょっと縮まったようですね!!
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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