見出し画像

泰夢(たいむ)のお話:30

← ◆前のお話へ


勉強をする泰夢と華恋。そろそろ集中力が切れるようです……
それでは、どうぞ!!

===============
「……もう、消しゴム!
 使ったらちゃんと真ん中にもどしてって、さっきも言ったよね」
「あ、ゴメン。つい……」
 ぷうっとほっぺたをふくらめた華恋(かれん)が手をのばし、その手のひらに泰夢(たいむ)が消しゴムをおく。
 夕食をすませて二階に上がった二人は、白くて四角い元はこたつのテーブルに向かい合ってすわり、宿題をやっていた。
 どうしたものか、泰夢の筆箱に入っていたはずの消しゴムが見当たらず、華恋のものを借りていた。
 いつもは宿題や勉強になかなか集中できずに━━もちろん、泰夢はいつも大まじめにやろうとするのだけれども、家ではマンガやゲームなんかが目に入り、学校や学習スクールでは友だちとしゃべったり、ちょっかいをだしあったりして、ついついそっちにいってしまうのだ━━時間ばかり過ぎてしまう泰夢だったが、今はちがっていた。
 もちろん、目の前に華恋がいるというのが大きい。
 ふと他のことを思いつき、勉強から外れてその他のことを考えようとちょっと目を上げるとそこに学習帳に取り組んでいる華恋がいて、それを見た泰夢も自分でも不思議なことだけれども、自然とまた勉強にもどっていく。
 そんなこんなで、二人は時計を見ていないので分からなかったけれども、かれこれ一時間ほど集中して勉強に取り組んでいたのだった。
「…………」
「……なんで、こっち見てるの?」
「いや、華恋ちゃんってさ、消しゴムを使うのうまいよね」
「うまいって……わたし、ふつうに消してるだけだよ。
 泰夢くんだって、消したいところに消しゴムあてて、こするでしょ?」
「そうなんだけどさ、しっかり消えてるじゃん。
 オレがやると消えなかったり残っちゃったり、するからさ」
「なんで……? だってこするだけでしょ」
 そう言って身を乗り出し、泰夢の学習帳をのぞきこむと、たしかに消したところが黒く残っているところや、書いたものが消しきれずに残っているところがあった。
「それって、ちゃんと消してないだけじゃない?」
「えーっ、オレちゃんとやってるって。ちょっと消しゴム貸してよ。
 ほら、こうやって━━」
 華恋の見ている目の前で、泰夢がササッと学習帳の何も書いていないところにえんぴつを走らせ、そして今度は消しゴムを手に取ると、学習帳を反対の手でおさえる。
「……見ててよ」
 ちょっときんちょうしながらひじをたてて、落書きに消しゴムをおし当てるとグイグイとこすっていく。
「ほら……やっぱり残るじゃん」
 消しゴムでうまく消せないのは自分なのだけれども、なぜだかじまんするように泰夢はむねをそらせて、落書きを指さしてみせる。
 泰夢が言うとおり、さっきの落書きはあらかた消えているけれども、ところどころ消し残しがあったり、えんぴつの黒いのが残ったりしていた。
「たぶんだけど、消し方がヘンかなぁ……
 泰夢くんってさ、ぬり絵ってしたことある?」
 ずいぶんと失礼な事を言うなぁと、泰夢がまゆ毛をよせるのへ、華恋は自分の学習帳をペラペラとめくって開いたページを広げると、泰夢にも学習帳の同じところを開かせる。
 そこは算数の問題ドリルのページで、空白になっている部分に白ぬきになったバナナとりんごの絵がかいてあった。
「えんぴつでいいから、どっちかぬってみてよ」
「…………」
 なんだかバカにされたような気分になり、泰夢はらんぼうにえんぴつをつかむと、バナナをぬりつぶしていく。
「……できたけど」
「うん、わたしもできたよ。それじゃ、見せっこしようか!
 せーの━━はいっ!」
 二人同時にテーブルの上に学習帳を広げる。
 華恋のバナナはわく線からはみ出さずにきれいにぬれていたが、泰夢のそれはバナナのあちこちから飛び出し、なんだか別の果物みたいだった。
「な、なんで……」
 学校に上る前のころや小学校の1年ぐらいの時は、よくぬり絵をしていたように思うけれども、テレビを見たりゲームをやったりするようになってからは、ほとんどやらなくなっていた。
 泰夢のぬったバナナは、何となく泰夢が思う「子どもの絵」のようでちょっといやだった。
「ぬり絵なんだから、別にはみ出したっていいんだけど……」
 そう言って華恋は、今度はりんごの絵の方にえんぴつの先っぽをあてる。
「こういうのは、はみ出さないぬり方っていうのがあるんだよ。
 わたしもお父さんから教わったの、見ててね!」
 泰夢の目の前で、華恋が学習帳にえんぴつをすべらせていく。
 まずはじめに、ぬり絵のわく線の内側をぐるりと一周ていねいにぬり、その後に内側のまだぬれていないところを、今度はえんぴつをねかせるようにして大きな動きでぬっていく。
「おぉ……マジか!
 ス、スゲーっ! ネットの動画のヤツみてーじゃん!」
 華恋が腕を動かすたびに、目の前でみるみるうちにぬられていくりんごを見て、泰夢がそう思わず声を上げる。
「━━はい、できあがり!
 えんぴつのこいのとうすいのは、ちょっと遊びでやっちゃったけど、
 このやり方だったら、はみ出さずにできるんだよ」
 そう言って見せた華恋のりんごは、光の当たっている部分とかげになっている部分があり、泰夢にはまるで本物のりんごがそこにあるように見えた。
===============

みなさんは塗り絵が得意でしたか……?
では、次回もお楽しみに!

小林るい


◆次のお話へ →