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泰夢(たいむ)のお話:31

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華恋が消しゴムの掛け方をレクチャーします!
それでは、どうぞ!!

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 テーブルの上の学習帳に顔を間近によせ、まるでその中に入りこもうとするみたいにして、泰夢(たいむ)がリンゴの絵に見入っている。
 その向こう側で、ちょっとほこらしい気分で華恋(かれん)がうで組みをしてむねをそらしてみせた。
「うーん、ほんとスゲーよ。華恋ちゃん。
 オレのヤツなんか、バナナっていうよりはトゲトゲのついたヘンな虫みたいだもんな。
 そっか……外側をぬって、それから中なんだ……」
 ブツブツと言いながら、自分の学習帳にある白ぬきのリンゴにえんぴつの先を当てると、細かく動かしてそれをぬっていく。
「うんうん、その調子だよ。
 そうやって周りの所だけ、少し時間はかかるけど先にぬっておけば、
 あとはササーってやってもだいじょうぶだから」
 うでを組んで泰夢の様子を見ていた華恋が、先生のような口ぶりで言う。
 ほどなくして、泰夢の学習帳に黒いリンゴがすがたをあらわした。
「すごーい、キレイにできたね!」
 それは華恋のような光やかげのついたものではなく、本当にただ黒くぬりつぶしただけのものだったが、泰夢には━━もちろん、華恋がほめてくれたこともあって━━とてもうれしくて、りっぱなもののように見えた。
 学習帳を両手で持って顔の前や頭の上に持ちあげて、リンゴが完成したよろこびをかみしめている泰夢に、華恋が声をかける。
「はい、それじゃあ、今度はぬったやつを消そう」
「えぇっ、なんで? せっかくこんなにきれいにぬれたのに?
 こんなの落書きのうちにもはいんないじゃん」
 そう言うと、泰夢はノートをテーブルに置くと華恋にこうぎをする。
 泰夢はこれまでにも過去に何回か、教科書の落書きで母にこっぴどくおこられたことがある。
 教科書にのっている子どものイラストに、ヒゲを生やしたりチョンマゲをつけるのは当たり前で、泰夢たちの間でよくやっているのは、マンガのようなふき出しをつけては、そのイラストにヘンな言葉を言わせたり、会話をさせたりするものだった。
 これをどれだけ面白くするかがひとつのウデの見せ所で、授業中に周りの友だちに見せて笑わせ、先生に注意されたら負けという遊びまで生まれるほどだった。
 もちろん泰夢も、教科書の全てのイラストにこうしたセリフを書いては、授業で本読みをしている最中の友だちに見せて笑わせて、しばしば先生におこられていた。
 そしてもちろんそれが学校から母に伝わり、全部の教科書の全部のページを確にんされ、ネチネチと小言を言われながら、そうした落書きを一つずつ消して━━ときどき母が、落書きをみてクスリと笑っていたのを泰夢は見のがさなかった━━いったこともあったのだ。
 それからくらべてみたら、学習スクールで配られた学習帳をちょこっと黒くぬったぐらいでは、泰夢にとっては落書きの「ら」の字にもはいらない、本当にかわいいものだったのだ。
 このぐらいじゃおこられないから消さなくていいんだ、と強情をはる泰夢に、なんで落書きぐらいでこんなに大さわぎするんだろうと、華恋はふしぎに思いながら、
「だって泰夢くん、消しゴムの消し方を知りたいんでしょ?
 このぬり絵の話は、そのためのヤツだから」
「……あ、そっか」
 華恋に言われて泰夢はポカンとした。
 すっかりぬり絵が上手にできたことで頭がいっぱいになってしまって、いちばん最初の事をわすれてしまっていた。
 華恋が消しゴムでキレイに字を消しているのを見て、それに泰夢がおどろいたのが事のはじめだった。
「でもさ、消しゴムで字を消すのと、
 ぬり絵をキレイにぬるのってさ、なんの関係があんの?」
「消すのと塗るのとでちがうんだけど、
 やり方はいっしょなんだよ。
 ぬり絵はわく線の中をまんべんなく、えんぴつでぬったでしょ?」
 そう言って華恋が消しゴムを手に取り、自分のぬったあの本物みたいなリンゴに当てる。
「消す時は、えんぴつのかわりに消しゴムで、
 わく線の中をまんべんなく、全部の所に行くようにこするの。
 その時にクシャクシャってしないで、下から上とか、左から右って、
 いつも同じ方向から動かすと、紙が折れたりしないんだよ」
 華恋が手を動かすと、みるみるうちにリンゴの黒い色が消えていき、最後にはとうとうすっかり元の白いリンゴにもどってしまった。
「……ホントだ、ぜんぶ消えた」
「ただ消しゴムを当ててこするんじゃなくて、
 わく線をしっかりと見て消すのがいいんだって、お父さんが言ってたの」
 消しゴムを泰夢の方に差し出し、華恋が言う。
「わく線の中をまんべんなく……」
 今度は泰夢が自分の学習帳をテーブルの上に置き、おそるおそる消しゴムを当てて、自分のリンゴをこすっていく。
 さっきのらんぼうな動きとはちがい、しっかりと消す場所がどこなのかを考えながら、うでを動かしていく。
 消しゴムを動かすたびにリンゴの色はどんどんとうすくなっていき、やがて華恋と同じように、白いリンゴが学習帳にもどってきた。
「うぉー、すっげーっ!!
 ……でもさ、でもさ、これはわく線があったからキレイに消せたけどさ、
 ノートに書いたヤツとか、ふつうの時はどうすりゃいいの?」
「そういう時は消したい所のまわりに、
 自分の頭の中で見えないわく線を作って、
 そのわく線の中を同じように、えんぴつでぬりつぶすみたいに消すの」
「そっか……見えないわく線を作るのか。
 華恋ちゃんって、すっげーな!」
 泰夢が、自分の学習帳のバナナや、さっきえんぴつでらんぼうに書いた線を熱心に消しながらそう言うのへ、華恋がやさしく笑いながら答える。
「私は別にすごくないよ。
 ただお父さんから教わったことをやってるだけだもん」
「それじゃ、あれだね。
 華恋ちゃんのお父さんもスゴいんだね」
「ふふふ……もしそうだとしたら、
 今度は泰夢くんが、今度産まれてくる弟か妹に教えてあげたら、
 きっとスゴいお兄さんになれると思うよ!」
「…………」
 さっきごはんを食べていた時におばあちゃんと泰夢が話していたので、華恋も何気なく言ったつもりの言葉だった、が、そう言った後の泰夢の顔を見て、華恋は自分の言葉をこうかいした。
「うん…そうだよね。
 オレ、弟ができるんだよね……」
 泰夢はそう言うと、消しゴムをかけていた手を止め、消しカスをていねいにはらうと、学習帳をそっととじた。
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ふとイヤな事を思い出して、ズーンとなる事ありますよね…
では、次回もお楽しみに!

小林るい


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