泰夢(たいむ)のお話:32
子どもと大人では遊び方が少し違うようですね!
それでは、どうぞ!!
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正直に言えば、泰夢(たいむ)の中では自分に弟ができる、という事がよく分かっていなかった。
ただ弟や妹のいる学校のクラスメイトや友だちから話を聞いて、それがだいたい良くない意見が多かったので、自分も同じようにそう思ってしまっている所がいくらかあるのだ。
だから、目の前にいる華恋(かれん)の口から、「スゴいお兄さんになれる」と聞いたとたんに、なんだかそれも悪くないかもしれないなぁという気がしてしまった。
しかしそうしてすぐに、これまでの弟に対する例の、いま自分が一人でこんな場所に来ているのは、母が病院にいなくてはならないせいであり、それは弟ができるからで、つまりは弟が自分の居場所をめちゃくちゃにしてくれたのだ、という文句の一つも言ってやりたいけれども、一体だれにそれを言えばいいのかというジクジクとした暗い思いになって、泰夢の心をじわりとゆっくりと、でもしっかりと、重たくしていった。
「……華恋ちゃんは、お兄ちゃんとか弟とかさ、
あと、お姉ちゃんや妹っているの?」
もしかしたら、華恋であれば弟や妹がいるのっていいよ!と言ってくれるかもしれないと思い、もしそうだったら、ここでそういう事をたくさん聞いたら、自分も弟の事でいちいち気分が落ちこんだりしなくなるかもしれないと思ったが、
「ううん、いないよ。
ウチはね━━お母さんとわたしだけなの」
と、いう華恋の言葉を聞き、泰夢は余計な事を聞いてしまったのかもしれないと、ちょっと息を飲みこんだ。
「もう、そんなにこまった顔をしないでよ。
さっきおばあちゃんと話してるのを聞いてたと思うけど、
ウチはお母さんが働いてるんだよ」
「うん……聞いてた。
それで帰って来るのがおそいから、ばあちゃんちにいることが多いって」
「そう、お母さんはとなりの大きな街のところで、
お客さんにお酒を出したり話し相手になったりする店で働いてるの……
泰夢くん『スナック』って知ってる?」
スナックと聞いて、泰夢の頭の中にすぐにコンビニで売っているポテトチップやサクサクコーンパフなどのおかしがうかび、得意げにその答えをひろうしようとした所で、先に言っておくけどおかしじゃないからね、と華恋ににらまれてしまう。
「……じゃあ、知らない」
「スナックっていうのは、大人の人が行く店で、
そこでお酒を飲んだり歌を歌ったりして、遊ぶところなんだよ」
「遊ぶ…大人が?」
泰夢にとってははじめて聞く事だった。
大人というのは、なにかむずしいことをいつも考えたり言ったりして、ときどき自分たち子どもにおせっかいをやき、そして大体はつかれているだけなのかと思って━━そしてそれを考えるたびに、大人になるのはイヤだなぁと、同時に思って━━いたのだ。
「そうだよ。遊ぶって言っても、
わたしたち子どもが集まってみんなで遊ぶのとちがうからね」
「……なんだ、大人もドッヂとかすんのかと思った。
でも、父さんがそんな事してるの見た時ないから、ちがうよね。
休みはいつもねてるし、ふつうの日はよっぱらって帰って来るからなぁ」
「━━そう、それ!
泰夢くんのお父さんもきっと『スナック』で遊んでるんだよ」
「えっ、あれって遊んでるの?
母さんにはいつも、仕事の付き合いで…とかなんとか言ってるけど」
「ううん、それは遊んでるんだよ。
だってわたしのお母さんが働いてるんだから、まちがいないもの」
そういう華恋の顔には、ほこらしげな表情があり、それを見た泰夢も華恋がだれよりも母を信らいしているのだなと感じた。
「━━でもさ、そこでは大人がみんなで遊んでるのにさ、
どうして、華恋ちゃんのお母さんは働いてるの?」
「遊ぶのにも、お世話をする人が必要でしょ?
さっきわたし、みんなで遊ぶのとちがうって言ったけどさ、
泰夢くん、遊園地なんかで遊ぶ時はどうしてる?」
「えーっ、どうしてるって……ふつうにジェットコースター乗ったり、
あとはメリーゴーランドでしょ━━
お、お化けやしきにだって、た、たまには入るかな……」
ちょっと強がって見せた泰夢に華恋がクスリと笑う。
「それじゃさ、そのジェットコースターやメリゴーランドって、
いったいだれが動かしたり、乗る順番を決めたりしてるの?」
「……それは、スタッフさんが━━あっ、そうか!
ってコトはさ、華恋ちゃんのお母さんは、
その『スナック』って所で、スタッフさんをしてるってコトか!」
「うん、そうなんだよ。
お客さんが来るのは夜だから、夜のおそくまでの仕事になっちゃう。
だからわたしは、おばあちゃんにお世話になってるの」
華恋の話に、泰夢がうでぐみをして深くうなずく。
実は泰夢はスタッフの人が大好きだった。
前に遊園地で迷子になったことがあって━━それは人がたくさんいた遊園地で、父からずっとくっついていろと言われていたのだけれども、お化けやしきの前を通るのがどうしてもいやで、ちょっと父からはなれたとたんに周りが知らない人だらけになってしまい、近くにいたスタッフがすっ飛んでくるほどの勢いで大泣きをしたのだった━━その時に本当に心細くてこわかったのだけれども、とてもやさしくしてくれて、冷たいジュースやマスコットのぬいぐるみをもらい、その後もスタッフのお兄さんやお姉さんがたくさん遊んでくれたのだった。
だから、泰夢にとってスタッフの人は、やさしくて親切でたのもしい人たちで、それからは遊園地はもちろん、えいが館やゲームセンター、デパートや駅なんかでも、働いているスタッフの人たちのことをいつも注目するようになっていた。
その上、よっぱらって帰ってきてげんかんでぐったりしている父を、母が文句を言いながら部屋までズルズルと引っ張っていったりするのを何度か見ているので、そうした大人を相手に毎日スタッフとしてお世話をしている華恋の母親は、とてもりっぱな人だと泰夢は思ったのだ。
「うーん、スゴいなぁ。
華恋ちゃんのお母さんってさ、
きっとやさしくてカッコイイんだろうなぁ」
そう大真面目にいう泰夢の言葉に、華恋は自分のむねの中がじんわりと温かくなっていくのを感じた。
「うん、そうだよ!
━━だって、わたしの大好きなじまんのお母さんだもん!」
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知っている人が褒められると、自分が褒められるよりも嬉しい気がします!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
