泰夢(たいむ)のお話:28
華恋に招かれた泰夢を待ち受けていたものは……
それでは、どうぞ!!
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祖母の家の二階には二つの部屋があり、そこは泰夢(たいむ)の父とその妹━━つまりそれは泰夢のおばで、今はもう結こんしていて子どもはまだいないけれども、泰夢の家からそんなに遠くない場所に住んでいて、よく仕事帰りにお土産をもって立ち寄ることがあり、泰夢はおばの買ってきてくれるモンブランというケーキが大好きだった━━がそれぞれに使っていた部屋だった。
「……おじゃまします」
そう小さく言い、おぼんを持った華恋(かれん)に続いて部屋の中に入る。
部屋は思っていたよりもかたづいていて、本だなやつくえの上にも物が少なかった。
父の部屋は、父がその部屋を出るまでの感じがそのまま残っていて、本だなには読んでいた本やマンガが雑にならんでいたし、カベや天井にはってあるレーシングカーやオートバイのポスターは色あせて白っぽくなっていた。
それに比べると、ここはいかにも大人の人が使っている部屋の感じがして、そう言えばおばは、泰夢が小学校に入学をした次の年に結こんし、そうして泰夢の家の近くに引っこしてきたので、たぶん本当に大人になるまで、この部屋を使っていたのだろう。
カーテンのかかった大きなまどと━━そのまどのむこうはせんたく物がほせるベランダになっていて、となりの部屋とつながっている━━おし入れのふすまがあり、そして勉強づくえとベッドがあった。
部屋の作りと、しつらえてあるものは泰夢のいる部屋とほとんど同じだったけれども、大きくちがう所がひとつあって、それは部屋の真ん中あたりにたけの低い白いテーブルがあることだった。
その白いテーブルからはコードがのびていて、たぶん冬の間はこたつとして使われているらしかった。
いまはこたつ布団は無くそのかわりにピンク色の丸いクッションが四つ、その周りにならべられているところを見ると、どうやらふつうのテーブルとして使われているようだった。
おぼんをテーブルに置いた華恋が、勉強づくえの側のクッションにこしを下ろす。
「立ってないで、泰夢くんもすわりなよ」
「……あ、えっと、うん」
と、所在なくその場で立ったままにしている泰夢に声をかけ、泰夢もおずおずと華恋の正面のクッションにすわる。
自分と泰夢の前にそれぞれ麦茶のコップと水ようかんをならべた華恋は、そのままだまって泰夢の様子を見ていた。
(泰夢くん、どうしてせいざしてるんだろ……)
たぶん、だけど悪い人ではない、と華恋は思った。
悪い人ではないけれど、すごく失礼な人だなと泰夢のことを思っていた。
それはきっとまだ、泰夢が周りのことが見えてないからなのだろうなと華恋は考えていて、それが元々の泰夢の性格なのか、それとも知らない場所に来ているからそうなのか、そこが少しわかからなかった。
もちろん、これから学習スクールやおばあちゃんの家でいっしょになることは多いだろううし、そうしていくうちに泰夢も、そして自分も、少しずつなれていくのだと思う。
(でも……それとこれとはちがうんだから)
泰夢の「あの態度」は許せなかった。華恋はすごくきずついた。
ゆっくり慣れていけばいいと思うけれども、きずついてそして「いたい」と感じた時はちゃんと言うのが、華恋が母と━━そして、父から教わったことだった。
「あ、あの、寺田さん……どうかしたの?
もしかして、気分が悪いとか……」
テーブルをはさんで自分の方をじっと見たまま何も言わない華恋に、泰夢がしびれを切らして声をあげた。
その泰夢をじっと見つめて、華恋が口を開く。
「……うん、気分悪いよ。
先に言っておくけど、別に気持ちが悪いって意味じゃないからね」
「え、そうなの……?
それじゃ、それってどういう意味?」
「はらが立っているっていう意味。
さっき泰夢くんがわたしにしたことで、すごくはらがたったし……きずついた」
「でも、オレ……じゃなくて、ボクは寺田さんに何にもしてないよ」
「そっか。やっぱり、わからないんだね……
泰夢くん、自分がいったい何をしたのか、なぜわたしがおこってるのか、わからないんだ」
そう言って、じっと華恋が泰夢を見つめる。
こちらを見るそのするどい目に、頭の中をもうれつに回転させて、華恋がおこっている原因をさがそうとする泰夢だったが、答えを見つけようとすればするほど、そして華恋の強い目に見られれば見られるほど、もっとわからなくなってしまい、なんだか泣きたい気持ちになってくる。
(これじゃ、ダメだね……
ひとまず泰夢くんが、本当に悪い人じゃないってことが分かったし、
……今回は、許してあげよう)
落ち着きなく体をそわそわとさせ、せいざをしたひざに置いた手をぎゅっとしている泰夢を見て、華恋が強い目をゆるめる。
「━━帰りのバスの中のこと覚えてる?
泰夢くん、『空いてるところにすわろう』ってこっちに声をかけたのに、
その後わたしを一人にして、別のシートにすわったんだよ」
「…………」
「あれって、絶対にわざとだよね?
だって、その後でわたしの方を見てたのを、わたしはちゃんと見たもの。
そういうのってね、相手にすごく失礼だし、その人をきずつけることなんだよ。
……わたしはすごくきずついた。心がすごくいたかった。
だから、泰夢くんに本当におこってるの」
「…………」
たしかに華恋の言う通りだった。
あの時泰夢は華恋と話したくなくて、少しでもはなれていたくてそうしたのだった。
(でも、あの時はそっちのこともぜんぜん分からなかったし、
オレはただ、一人でいたかったから……)
頭の中でひっしに言葉を組み立てようとするけれども、それがなかなか上手く行かない。
帰りのバスからおりた時の泰夢なら、華恋のことを『少し苦手なヤツ』の箱に入れようかと考えていた時の泰夢なら、もっとキッパリと考えられたかもしれない。
でも、今はもういっしょにご飯を食べて、あらいものをして、祖母からいろんな話も聞いて、その後では華恋をそうかんたんに箱に入れて分けることはできなかった。
「…………」
体全体がかっかっと熱くなってきて、鼻がツンとしてくる。
はずかしさと、くやしさと、いらだちと、そしてそれのおおもとである華恋へのごめんなさいと思う気持ちが、心のおくからのどへ、口へとゆっくりと持ち上がっていき、
「……ごめん」
と、そう一言、鼻をすすりながら、泰夢はようやく言葉をしぼり出した。
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勇気を持って言葉にすることはとても大事なことです!!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
