泰夢(たいむ)のお話:39
友だちよりももっとスゴい友だち…ってなんでしょうか。
それでは、どうぞ!!
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にぎった手から泰夢(たいむ)が目線をすいと上げると、そこににっこりとしてこちらを見つめる大きくてあたたかな目があった。
母が特別なお出かけをする時にシュシュっとやる香水のようないいにおいがして━━そこに、なにかからみつくようなけむりっぽい感じのヤツも混ざっていたのだけれども、たぶんそれはタバコのにおいなんじゃないかと、さっき華恋(かれん)から、華恋の母は『スナック』というところで働いていると聞いていた泰夢は思った。なぜならそれは父がお酒を飲んで帰ってきた時に、服やカバンからするものといっしょだったからだ━━泰夢は手に伝わるやわらかい感じと、その大きな目のやさしい感じと、鼻をくすぐるにおいとで、さっき華恋の母を見た時にあった、むねのおくがムズムズする例のヤツがどんどん強くなって、本当に心ぞうの音が聞こえるような気がした。
(キレイなお母さんだなぁ。
それに、やっぱ華恋ちゃんと似てるや……)
華恋の母の顔をじっと見つめながらそんな事を考え、だから華恋ちゃんってキレイなんだなぁと思い、そうしたら急にさっきの心ぞう音がドキドキと大きくなったのにおどろいて、あわててにぎっていた手をはなす。
(…………)
たしかに華恋ちゃんのお母さんはキレイだけれども、だからと言って華恋ちゃんもキレイなんだ、と思った自分が少しおかしいと泰夢は思った。
だいいち『キレイ』という言葉は、青い空とそこにうかぶ白い雲を見事に赤くしていくような大きな夕焼けの風景や、キラキラしたほうせきやピカピカのネックレスを見た時なんかに使う言葉で、人に対しては━━大人の女の人には、いまの華恋のお母さんみたいに、時々は使うけれども━━ふつうは使わないし、ましてや同い年の友だちなんかには、絶対に使わない言葉だと思うのだ。
(なんだか、調子がくるうんだよな……)
いつもの自分の感じとなんだか少しちがう気がして、どうにも落ち着かないような気分になる。
決していやな感じではないのだけれども、いつでも気持ちがざわざわとして、次に何が起こるのだろうと不安と期待が混ざったようなヤツがずっと続いている。
たぶんそれは、今日の朝にあのバスの大きなガラスまどの向こうにいた華恋と、目が合った時からなのだろうと泰夢は思った。
そもそもを言えば、泰夢は学校のクラスの女子と話すのも苦手で、こっちを決めつけて何かを言ってくる感じや、あれこれ指図してくるのが本当にめんどうくさくていやだったのだ。
もちろんきっと、今でもそうなのだろうけれども、今日華恋と出会って、学習スクールで授業を受けて、いっしょに行き帰りのバスに乗って、祖母の家で夕ごはんをみんなで食べて、二人で勉強をして……考えてみればそんなに長い時間では無いけれども、そうしていろいろやっているうちに、今では華恋は『クラスの女子』よりもぜんぜん近くて、泰夢にとっては友だちの一人か、たぶんそれ以上に━━なぜなら学校や学習スクールの友だちとはイタズラをしたりゲームをしたり、みんなで遊ぶのが楽しいからいっしょにいるだけで、華恋と話をしたような自分の両親のことや、おたがいのむねの中にあるおさえていた気持ちを話すなんてことはやらないし、そんな『つまらない』ことをやり始めるヒマもなくただみんな夢中になって、だれがどれだけ高く飛べるかみたいな何かのスゴさをきそったり、めちゃくちゃに変な顔をして相手を笑わせることに必死になったりするだけだ━━泰夢のそばにいる、ただの友だちよりももっとスゴい友だち、みたいなそんざいにいつの間にかなっていた。
それが良いことなのか悪いことなのか、今の泰夢には全く分からなかったけれども、自分の中で少しずついろいろな事が変わっていった一番最初のきっかけが華恋との出会いだったのだと、いつか大人になった時に、そんな風に思うことなのかもしれなかった。
「━━さてと、それじゃあお世話になりました。
おばあちゃん、今日もおいしいごはんをありがとうね!」
「はいはい、明日もうでにヨリをかけて待ってるから、
泰夢といっしょに、必ず帰ってらっしゃいねぇ」
「本当に、いつもいつもすみません。
華恋のめんどうを見てもらっちゃって……」
「あらら、そんなことは気にしないでぇ。
川をはさんでのお向かいさん同士なんだから。
わたしが街に出る用事も、すませてもらってるんだしねぇ」
華恋と華恋の母、そして泰夢の祖母が三人で、そんな話をしながらげんかんを出ていくのへ、泰夢もあわててクツをつっかけて追いかける。
げんかんの門を入った内庭のところに赤い車が停まっていて、それに乗った華恋がまどから顔を出して泰夢を見た。
「━━じゃあね、泰夢くん。
明日もバスでねてたら、ちゃーんと起こしてあげるから!」
「あ、あれはたまたまだって……
オレ、いつもだったら寝ないから。
それに、華恋ちゃんも乗るなら、オレは絶対に寝ない!」
「えー、どうして?
もしかして……わたしといっしょだと、楽しいから?」
「━━ブブー、はずれー! 答えは、たたかれるのがイヤだからでした!
だってさ、華恋ちゃん、今日バスから降りる時にさ、
オレのことたたいてったじゃん?」
「たたいてないってば、ゆすっただけだよ!
泰夢くん、ぐっすりねむってて、何回も声をかけたのにちっとも起きなかったんだもの。
バスの運転手さんだって、起きないねぇって笑ってたんだよ?」
「えっ、そうなの?」
してやったつもりが、すっかりと華恋にやり返されてしまい、泰夢がしどろもどろになる。
口をとがらせながら、明日はねないようにするからと鼻をふくらめて言う泰夢に、華恋も全然ねてもだいじょうぶだからね、と少しイジワルな笑みをうかべて答え、そうして車の中と外でおたがいに頭をつき出すと、イーっと変な顔をしてみせる。
そんな二人のやり取りを見ていた華恋の母と泰夢の祖母も笑い声を上げ、そうして華恋の乗った車は、ゆっくりと門をぬけて出ていった。
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泰夢と華恋、どうやらすっかり打ち解けたようですね!
では、次回もお楽しみに!
小林るい
